突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
頭空っぽ案件
毒親、毒婚約者と、毒義妹ネタざまぁがおおいので、
教育のおかげで、ある程度まともな妹がお姉ちゃん大好きになったので両親もろともざまぁする話っす。
私は母の再婚によって、アリア・ハーディス伯爵令嬢となった。
どんな経緯があったのか詳しくは知らないが、ハーディス伯爵家で伯爵夫人が亡くなり、母が後妻として収まった。
なんでも、伯爵家当主のザルバ様とは、そういう間柄だったらしく、私は一応伯爵様の娘と言うことになるらしい。
そして、突如として伯爵家に迎えられ突如として父と共にお姉様が出来た。
白銀に輝くストレートヘア、大変スレンダーな見た目、お人形のように大きな青い瞳。
私の亜麻色のふわふわヘアとは違い大変上品だし、言い方は悪いけど家の母みたいな下品な体つきじゃなくて、とってもきれいな人。
「伯爵家にお世話になりますアリアと申します」
「えぇ、宜しくねアリアさん」
初めてのご挨拶の時には義父(今まで会ったこともない人を父とは呼びたくない。髪の色は私と同じだけど目の色は違うし、デブで脂ぎったオッサンの血を引いてるとか思いたくもない)と違い、ものすごく上品な笑顔でご挨拶をしてくれてとっても嬉しかった。
憧れの姉が出来た!
普通姉は出来ない。こんなことでもなければ。
伯爵家に来てしばらくは簡単な礼儀作法を教えられながら過ごしていたんだけれど、母が何やらドレスだなんだと買いあさっていると聞いてあきれた。
12歳の私でもわかるが、あんなに胸を強調し、背中は腰まで見えるんじゃないかという切れ込みの入った下品なドレスをどこで着る気なのだろう?
礼儀作法の先生からは、伯爵家には伯爵家としての品位ある服装が大切だと教えてもらっているのに。
それに、義父は仕事をしているように見えない。
領地の仕事は全部お姉様、フランソワ様がされているみたい。
そのせいでお姉様とお話が全然できていない。
何とかお姉様と仲良くなりたくて、作法の先生にご相談したら「お手紙を書いてみましょう」と言われた。
日曜学校で文字は習っていたので、貴族的な言い回しというのを習いながら自分で書いてみた。
思いのほか字がきれいだとほめられた。
日曜学校でも先生から文字がきれいだって言われたもんね。
学校では読み書きのほかに四則演算といって計算も教わる。
これ等の教育が始まったのは私が6歳のころ、初めて日曜学校に行くようになってからだったみたいだ。
こうしてお手紙をしたため、執事のおじいちゃんに渡してほしいとお願いしてから3日後、お姉様からお返事が返ってきて、5日後に時間を取ってくれるという話になった。
そして、お茶会の日。
礼儀作法の先生から指導を受けながら、お茶会の準備の練習。
お母様からは「そんなことしなくてもいい」とか言われたけれど、貴族社会に入ったのにしないわけにはいかないと思う。
何を考えているんだろうか?
準備を終えて待っているとお姉様がやってきてくれた。
「お誘いいただきありがとうアリア」
「お越しいただきありがとうございます。フランソワお姉様」
「きれいな文字のお手紙でしたね。勉強は順調ですか?」
「はい、難しいことも有りますが、日曜学校のおかげで文字も読めますし書けるので、何とかなっています」
「そう、日曜学校で文字書き、計算をさせたのは正解だったみたいね」
「え、アレはお姉様が決めたのですか?」
「えぇ、お父様は領地の仕事をなにもされないでサインしかしないものですから…さっと忍び込ませましたわ。領地の発展には必要なことですし」
本当に何もしてなかったんだなお義父様。
母と共に遊び歩いているようだけど、大丈夫かこの伯爵領?
「えっと、もともとこの領は何方が経営をされていたんです?」
「私の母ですわね。もともと伯爵家は母の家ですよ」
「…え、ということは本来私は伯爵令嬢ですらないのでは?」
「そうですね、書類上は」
閉口。
やけに優しくしてくる義父は婿で、母と私は本来伯爵家と全く関係ないではないか…
「お姉様、お義父様の我儘でこの家に置かせていただいているうえ教育までしていただいているのです。できれば私にもお仕事をお手伝いをさせていただけ…」
「こんなところに居たのかフランソワ!!」
人の言葉をさえぎって男がドカドカと入ってきた。
誰だコイツは?イケメンではあるかもしれないが私でも礼儀が成っていないことぐらいわかる。
「今はアリアとお茶をしているところですミゲル様。招待もなくお茶会に参加ですか?」
「許可なくだと??将来当主になる私になんだその態度は!!」
”なんだその態度”はお前だクソ男。
お姉様がいるのにお前が当主になるとは何事だ…まてよ今の言い方的にコイツお姉様の婚約者なのか?
「そこの女、ずいぶん可愛い見た目をしているじゃないか、名は何だ?」
は?私の名前を聞いてきてるの?名前を聞くのに何その態度。
確かに今は家で家族としてのお茶会だからちょっとラフなドレスを着ているのと、お姉様に比べると年の割に発育がいい私は、出るところが出てるのでそういう目で見てくる男がいることに慣れているけど、仮にも名目上貴族の娘に取る態度か?
「義妹のアリアです。ミゲル様お引き取り頂いても?」
「ふん、アリアそんな女とのお茶など詰まらんだろ?俺と遊びに行こう」
「は?嫌ですが?」
「なに??」
「お姉様に対してなんですかその態度は!私ですらお姉様がお忙しいからと、わざわざ手紙まで出してお茶会の参加をお願いしたというのに、突然先触れもなくやってきて、しかもお姉様に用があったであろうに無視して私と遊びにですか?!常識あります?!」
私の剣幕に、ミゲルと呼ばれた男はたじろいで「日を改めよう」とまた勝手に出て行ってしまった。
「お姉様、なんですかアレ?」
私は思わず指をさしてしまう。
「はぁ…婚約者のミゲル様です」
「え、即刻婚約破棄すべきでは?」
「あれでも政略的なこともあるから…」
「伯爵家を乗っ取ろうとする輩をわざわざ懐に入れる必要はないでしょう!!」
「あの方はあれでも侯爵家の3男なのよ…」
「あほくさ、家より家格が上なのに何あれ」
「ふふ、本当よね。アリアは平民のわりにしっかりしているわね」
「それぐらい平民にだって常識です。貴族と取り次いでもらうにはまず手紙を書いてと日曜学校ですら教わります」
「日曜学校がうまく機能していてよかったわ…そうねアリアにも仕事を手伝ってもらえるなら助かるわ。文字がとてもきれいだから代筆はお願いできそうね」
翌日から私はお姉様のお手伝いを始めた。
といっても領地経営に口が出せるほど賢いわけではないので、代筆や予算の計算を手伝うことになった。
予算の計算は足し算引き算なので、桁は多いけれど大丈夫。
日曜学校で習ったもん。
そして数日すると、母と義父から仕事なんてしなくていいと言われた。
いや、お前らがするべき仕事だろうがよ。
お姉様に領地経営に屋敷の管理までさせて遊びほうけてるくせに何を言うとんじゃ。
「お前は可愛いんだから、そんな事をしないで、良いところの嫁に行けば問題ないんだよ。行きたくなければ、ここにずっといればいいのだし」
「そうよ、仕事なんてフランソワに任せておけばいいのよ」
「お義父様、お母様。本来はお二人のお仕事です。私たちはまだ子供、本来当主であるお義父様がすべきで、私が手伝っている屋敷のことはお母様がすべきことですよ!」
「アリアそんなこと言わないでおくれ、それに何時になったらパパと呼んでくれるんだ」
「呼んでほしかったら、それ相応のことをしろクズ!!!」
私はテーブルをぶっ叩いて部屋を出た。
手は痛かったがあのバカどもにはこれぐらいの威嚇が必要だと思う。
あんなに綺麗なお姉様を蔑ろにして、何もしないで伯爵家当主だなんて名乗らないでほしい。
平民としてこの領に生まれ他領よりも先進的な教育を受けさせてもらったからわかる。
お姉様とお亡くなりになった真のハーディス女伯爵がいなかったら、私達なんて今頃野垂れ死んでいたはずだ。
徐々に私も屋敷内の仕事を覚え、お姉様を手伝っていたある日、ミゲル様が執務室に押し掛けてきた。
「なんだ、アリアも仕事なんてしてるのか」
アホか、仕事しないでどうやって生活するんだ。
お金は待っていれば入ってくるわけじゃない。そんなことも分からないのか?
「フランソワ、金だ。金を貸してくれ」
「ミゲル様、何度言えばわかるのですか。なぜハーディス家からお金を借りようとするのです」
「俺はお前の婚約者だ、未来の旦那が金が必要だというのに出し渋るんじゃない」
は?なんだその理論。
「ミゲル様はどこの何の予算から金を出してくれとおっしゃっているのですか?」
お姉様は大事な施策の策定中。これ以上邪魔なんてさせないから、私が声をかける。
女性の未来がかかっている医療についての施策なんだから領内各所の調整をしていて大変なのに、こんなバカなお願いで時間をとられるなんて不毛。
最近ではお屋敷の中で使う予算は私が管理している。
お姉様の最終承認は必要だけど。
「なんだ、アリアか。仕事なんかしてないで、これから食事でもどうだ?」
「お伺いしたことにお答えになっていません。
我が家のどこの何の予算からミゲル様へ渡すお金を捻出しろとおっしゃっているのか、
答えてください」
「なんだ、アリアまでフランソワみたいなことを…」
「あたりまえの質問です。
我が家の当主になるおつもりなのにそんなことも答えられないのですか?
出る可能性があるとすればフランソワお姉様の交際費予算ですが、すでに毎月の予算はすべてミゲル様にわたっています。
しかも何に使うのか不明瞭なまま。
いま屋敷内の予算管理は私に任されています。
お金が欲しいなら正当な理由とその使用目的をこの紙に書いて提出してください」
「な、なんで私がそんなことを」
「侯爵家の三男なのにそんな事すらわからないんですか?」
苦虫を噛みつぶしたような顔をしてミゲル様は何も言わずに帰られた。
アホすぎるだろう。
どんな教育を受けてるんだ…
「お姉様、侯爵家と貴族院にお手紙を書かせてください」
「アリア…そこまでしなくても」
「だめです。お姉様は舐められすぎです。
一度この家のゴミをきっちり片づける必要があるはずです」
私は今もっている知識を総動員して侯爵家と貴族院に実情を訴えた。
ミゲル様の不誠実な対応、ハーディス家の予算の使い込み、全く仕事をしない現当主、そして母。
はっきり言ってあんなのが肉親だなんて思いたくもない。
もう、きれいさっぱりバッサリ切り飛ばして、お姉様の安寧を確保しなくては!!
「ハーディス家に対し、家宅捜索を行う」
国の第三騎士団の方々が我が家を訪れた。
その背後には1度だけお会いする機会があったミゲル様のお父様であるロベルト侯爵様もいる。
「フランソワ嬢、家のミゲルが大変失礼をした。本婚約を白紙とし慰謝料も支払うので、何とか矛を収めてもらえないか…」
「は、はぁ」
お姉様がポカンとしてらっしゃるので私が間に入ることにする。
「侯爵様、その件受け入れます。
ハーディス家としては侯爵様本人とのお付き合いは継続したく、これ以上事を荒立てる気はございません」
「そういっていただけると助かる」
ロベルト侯爵様は頭を下げられてしまった。
「ちょっと、アリア何をしたの」
「ミゲル様が使い込んだ金額をトイチで請求し、使用実績を全部開示しただけです」
「よくそんなの調べられたわね…」
「お母様の元の仕事は娼婦ですよ?情報収集は独自ルートですが完璧ですから」
「アリア…平民だったとは思えない仕事ぶりね」
「お姉様の為ですもの。頑張りました」
「そう、ありがとうアリア」
お姉様から頭を撫でられわたしは大変ご満悦。
母の旧友や平民時代の日曜学校のつながりからハーディス領の情報を集める傍ら、ロベルト侯爵領の情報も併せて入手をし、ミゲル様の不誠実さと使い込みの実態を把握するのはそれほど難しくなかった。
伯爵夫人になってから金遣いも荒くなり、旧友たちから妬まれていたお母様を貶めるために気前よく協力してくれた。
フランソワお姉様の実態を話せばより協力的になって色々情報を集めてくれたんだ。
末っ子だったミゲル様は勉強などから逃げても怒られることもなく生活していたため、あまりに自分勝手で我儘に育っており、王都での仕事から領に帰ることのなかったロベルト侯爵はその実情をちゃんと把握できていなかったらしい。
かなり侯爵家内でもめたそうだ。
なにせ三男とはいえ、まともに仕事もせず遊び歩き、他家の交際費を湯水のごとく女遊びにつぎ込んでいれば外聞は最悪だろう。
ハーディス家との接点も、本来は貿易に関する事柄でつながりをより強固にするためだったのにもかかわらず、それすらミゲル様は理解していなかったわけだ。
そして、家の両親は「隠居」することになった。
田舎に飛ばされ隔離予定。
何せ王家の命令ですから逆らえません。逆らえば首が飛びます本人たちの。
実質的な領地経営はフランソワお姉様が行っていること、領地で成功を収めている施策についてもすべてお姉様が立案実行しており、義父は何もしていないから、王都での社交の際など詳細を聞いてみてほしいと貴族院に連絡。
結果、夜会でしどろもどろの義父と母から現状を察した第三騎士団が、一緒に添付したうちの予算の流れの報告書から、資金不正流用の疑いで我が家を家宅捜索。
お姉様が立てた予算を勝手に使い込んだりが発覚してこのような結果になった。
私はお姉様の補佐として今もハーディス家でお仕事中。
執事のお孫さんと婚約したので、伯爵令嬢ではなくなる予定だけど、ずっとお姉様を支えられる。
お姉様は幼馴染の子爵家の次男と結婚することになった。
結果的に恋愛結婚だそうで、あきらめていた二人は大変燃え上がっているらしい。
いいことだと思う。
全ては日曜学校で常識的なことを教えられたから私はお姉様をちゃんと支えられたんだなと思う。
ある意味お姉様の采配がお姉様自身を救ったといえるかな。