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8話

俺は崩壊した家をしばらく、ぼーっと眺めていた。

俺の心は混乱していた。


俺を迫害した父とサンライト一族への復讐を成し遂げた今、俺の心は複雑絡まった糸のように自分の気持ちに

整理ができない状態であった。


正直なところ、父へ復讐する事で自分の中で何か変わるのではないのかと思った。

俺はこの力に目覚めてから、俺がもっとも人間への復讐を決めた。

皆殺しだと...


でも、力に目覚めた時にこうも思った。

もし、この俺のトラウマの要因となっている父の存在をこの世から無くしてしまえば、もしかしたら俺は俺を裏切った人を許せるんじゃないかと...

許す事で前に進めるんじゃないかと...


そう思った。


気がつくと雨が降っていた。

小雨が俺の髪を濡らし、頬をつたっていく。


俺は右手で頬を触った。

泣いてるのか?

俺は自分に問いかけた。でも答えは分かっていた。

俺は涙一つ流せやしない。


俺は外壁の残骸に腰を下ろした。

サラマンダーのブレスで外壁はまるで、叫び声をあげながらのたうち回っている人間の影のように

黒ずんでいた。


俺はそのまま壁に保たれかかりながら、体育座りをした。

色々な考えが頭の中で駆け巡る。

色んな言葉や思考が消えては現れ、俺は自分に何度も問いかけていた。


「大丈夫かい?体調が悪いのかい?」


俺は思わず顔をあげる。

そこには腰の曲がった、優しそうなおばあさんがいた。

買い物帰りなのだろうか、茶色いバスケットに野菜や果物で一杯になっていた。


「ああ、大丈夫。ちょっとお腹が空いてしまって...」


俺は愛想笑いしながらそう答えた。


「本当かい?雨も強くなってきたし、気をつけてね。そうだこれをあげる」


おばあさんはそう言ってりんごを俺にくれた。

俺がお礼を言うとおばあさんは「それじゃあね」と言って歩いて行った。


いつぶりだろう、人に優しくされたの...

俺はおばあさんの後ろ姿眺めていた。

すると、おばさんとは反対側から鬼のような形相でこちらに走ってくる男が見えた。

男は全力で走っており、何かから逃げている様子であった。


男はあたり構わず必死に走っているためか、おばあさんにぶつかり謝りもせず、大声で怒鳴り散らかした。


「てめえ、くそばばあ。どこ見て歩いてやがんだ!!」


「ご...ごめんなさい」


おばあさんは男とぶつかった衝撃で、バラバラ散らばったバスケットの野菜や果物を拾いながら謝った。

地面に落ちた衝撃でコロコロ転がり、りんごが男の足元に当たった。

男はりんごを拾いあげると、おばあさんに投げつけた。


「死ね!くそばばあ!?こっちはドラゴンが出て急いでるってのに何を呑気歩いてやがんだ!?

てめえみてえな、しみったれた老人の命と俺の命が同じだと思ってんのか?」


俺はその光景を見て、頭の血管が切れたような気がした。

やっぱりダメだ。根本的にこいつらは殺して根絶やしにしないと...


俺は立ち上がり、男の方に向かった。

そうして、男の頭を右手で掴んだ。


「お前の命に価値なんてあるわけないだろう」


「な...なんだ、お前!?」


そうして、俺はそのまま「ファイラ」を詠唱した。


「あっち、あっちぃよ、やめてくれ!?」


男は頭部から燃えていった。髪が発火し、そうして顔の皮膚が爛れて黒ずんでいく。

男は苦しそうにのたうち回って叫び声をあげる。


「や...やめて、やめなさい!!死んでしまう」


おばあさんが俺を静止しようとするが、俺は無視した。

そうして、左手に持っていたりんごを齧った。


「ばあさん、さっきはりんごありがとう。美味しいよ」


それから直ぐに男は動かなくなった。

俺は死体を道端に投げ捨て、「マグマ」を詠唱して、死体を消し去った。


「な..なんて事」


おばあさんは泣きながら崩れ落ちた。

俺はおばあさんを起こそうと近寄った。

おばあさんに触れる直前で、物凄い風圧に襲われた。


俺は思わず、目をつむる。

俺が目を開けると、そこにはサラマンダーが翼を羽ばたかせながら飛んでいた。


「サラマンダーか...父親の件は終わったよ」


俺がそうサラマンダーに話しかけたが反応がない。


サラマンダーは鼻息を荒げながら、大きく息を吸い、俺に向かって炎のブレスを吐き出した。

俺は事態が飲み込めていなかったが、すぐさま「マテリアル」を詠唱し、地面から壁を作り身を隠した。


「ど...どういうつもりだ、サラマンダー!?」


返事はない。

聞こえるのは翼の羽ばたく音だけだ。


「お前まで俺を裏切るのか!!どいつもこいつもぶっ殺してやる!!」


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