3話
俺の答えにサラマンダーは笑った。
「人間を抹殺するか?」
「何がおかしい?」
「ふふ...いいぞ、実に人間臭い」
サラマンダーは思う存分笑い尽くすと話し始める。
「私がこんな場所にいたのはある予言があったからだ。」
「予言?」
「私は、あるものを待っていた。西の国の預言者は言った。冷たく暗い穴こそ、あなたの待ち人が来ると...」
「ドラゴンも予言は信じるんだな」
俺は鼻で笑いながら挑発した。
「態度が大きくなったな?小童」
サラマンダーは鼻息を荒くして、そう呟いた。
「どんなものが来るかと思えば...実に人間らしい奴だ。全く...私の期待を返して欲しいものだ」
「協力する気はないと?」
「そんなことは言ってない...まあ、手を貸してやろう。乗れ...」
俺は言われた通り、サラマンダーの背中に乗った。サラマンダーは翼を広げ、飛び立った。
しばらく上昇していくと小さな光の針が見えた。サラマンダーはスピードを上げた。
みるみる上昇していく、気がつくと俺は月明かりに照らされていた。
どうやら今日は満月であった。
下で人間の声がする。俺が護衛していた馬車の姿が見えた。
どうやら、俺が今日同行したパーティのものであった。
悲鳴が大きくなる...
「ド...ドラゴンだ!!」
「何でこんなところに...」
「走れぇぇぇぇ...!!」
様々な悲鳴と叫び声が聞こえてくる。どうも心地がいい。
少し、アインの気持ちが分かった気がした。
他人の命を持て遊べるのは非常に心地が良い。
今ならアインとも...友達になれそうだ。
「サラマンダー、俺がやる」
そう言って俺はサラマンダーから飛び降り、浮遊魔法「フロート」を唱え、下に向かった。
「マ...マキシムじゃないか!?」
誰かが大声で俺の名前を呼んだ。
「す...すごいな。どうやってドラゴンと仲良くなったんだ!?
助かった...良かった...本当に」
「そうだな」
俺は静かに呟いた。
良かった...だと?
この俺をトロールの餌にしようとしていたのに..か?
俺は怒りが込み上げてくる。どれだけ、俺をバカにすれば気が済むんだ?
俺はステータス表示の魔法「ビジュアル」で自分のステータスを表示し、
魔法一覧が載っているスキル表を確認する。
「ど...どうしたんだよ?」
俺は声を無視して、魔法を確認する。
そこには「ニードラ」という魔法名が書かれている。
菱形の形をしたアイコンで、そこには銀色の針の束が降り注いでいる絵が表示されている。
アイコンの菱形の縁が赤いので、多分攻撃魔法だろう。
アイコンをタップすると、詳細欄が表示される。
詳細欄には「針の山を降らせる攻撃魔法」と書かれていた。
ちょうどいい。
こいつらレベルには...丁度良い。
「ニードラ」
俺は詠唱を行った。銀色の針が束になり、まるで氷のように降り注いだ。
地面は赤く染まっていき、じんわりと赤い血が地面を侵食していく。
4人ほどの死体が横たわり、俺はそこを静かに通り過ぎる。
すると、馬車の中から物音が聞こえてきた。
「出ちゃダメ!!」
母親の声だろうか、女の声がした。
俺が馬車の中を確認しようとすると、中から小さな赤ん坊が出てきた。
「だめ!」
母親の叫び声がした。母親は馬車の中から必死に赤ん坊を引き寄せようとしている。
俺はイラッとして、攻撃魔法の「ファイラ」で、馬車ごと燃やした。
母親は悲鳴をあげ、少しの間馬車の中でのたうち回っていた。
そうして焼け爛れ、全身火だるまの状態で這って歩き、赤ん坊に近づく。
「ジェリー...あなた 、あなただけわ...生きて...お願い」
喉が焼けているせいか、かすれた声で母親は赤ん坊に語りかけた。そうして母親は息を引き取った。
赤ん坊はそれを座って眺めていた。多分理解もできていないのだろう。
泣きもしなかった。そうして、俺に興味を示し、俺の足に抱きついた。
俺はそっと赤ん坊を抱き抱えると、サラマンダーの背に乗った。
「その赤子...育てるのか?」
サラマンダーは俺に尋ねる。
「育てる?まさか...」
俺は笑いながら答えた。そうしてサラマンダーは飛び立った。
視線を下ろすと、そこは先程の大穴があった。
俺は抱えた赤ん坊を大穴に投げ入れた。赤ん坊はみるみる大穴の底に落ちていく。
赤ん坊は俺の方に向かって手を伸ばす。
だが、どんどん赤ん坊は落ちて行き、次第に点になりそうして消えてなくなった。
「言ったろ?鏖殺だ。一匹残らずな」