11話
気がつくと、俺は白い部屋の中にいた。
俺の目の前には人影のような物が存在していた。
そいつはそいつは俺にゆっくり近づいてくる。
その人影は左半身は黒一色になっているが、右半身はチカチカ光っている。
よく見ると何かの映像のようであった。人が叫んだり、泣いたり、抱き合ったり、
笑ったり色んなシーンがいたる所で、繰り返されていた。
「お前は誰だ?」
人影は俺に問いかける。
「俺は...」
俺は自問自答した。
「俺は誰なんだ?」
その瞬間激しい頭痛に襲われた。俺は思わずこめかみを手のひらで抑える。
そうして、あまりの痛みに目をつぶる。
「お前は誰だ?」
また影が俺に尋ねる。
俺はマキシム... あれ?
ダメだ...ファーストネームが思い出せない。
俺は何かをやろうとしていた。
何を...?
そうだ...皆殺しだ。全員ぶっころしてやるんだ...
「お前は誰だ?」
「うるせえ!」
俺は頭を上げ、人影に睨みつける。
人影はもう俺の目と鼻の先にいた。人影はニヤリと笑った。
そうして、俺の体に入り込んできた。
俺は体内に電流が流れたかのように、もの凄い衝撃が走った。
俺の中で、何かが壊されていく。走馬灯のように色々な記憶や過去や意識が走り回る。
無限のような時間を何度も何度も経験した。
そうして俺の中で何かが形成されていく。
「お前は誰だ?」
俺の声がした。
俺は静かに答える。
「俺は...ラ...ラデューン・マキシム」
「大丈夫ですか!?」
目が覚めるとメルルが俺を覗き込んでいた。
メルルは心配そうに俺を見つめている。
「すごいうなされてたので心配しました」
メルルはそう言って俺のおでこのタオルを取り替えてくれた。
どこかの医療施設なのだろうか、俺は白いベッドの上にいた。
「ここは?」
「パルーン病院です。どうやら私たちあの後、ここに運ばれたみたいです」
どうやら他にも患者はいるようであたりが騒がしい。看護をしてる人があちらこちらに走り回っている。
「他の人達も怪我してる方はここに運びこまれているようですね」
「そうか...」
俺はそう言って起き上がった。
「大丈夫ですか?」
「ああ。そっちこそ、大丈夫なのか?」
「うーん、ちょっと怪しいかもしれません」
「どこか怪我しているのか?」
「怪我というか...その...」
メルルは言いにくそうに胸に手を当てた。
「どうした?」
と俺は尋ねる。
「心臓の音が聞こえないんです。私だけかと思ったんですけど...その...」
そう言ってメルルは髪を耳に掛けた。そういえばいつの間にかメルルは髪をおろしていた。
どこか大人びた雰囲気はそのためだろうか?
それから、またメルルは話し始めた。
「マキシムさんの胸の音も確認したんです。そしたら、マキシムさんも心臓の音がしなかったんです」
「鼓動が聞こえないって事か?」
「ド...ドラゴンさんの心臓を壊した影響でしょうか?」
「それぐらいしか、思いつかないよな...」
俺は前髪をあげて、ため息をついた。
その時、何かにぶつかる感触があった。
「なんだこれ?」
「それ!!私が召喚した王冠です!!ドラゴンさんがつけていた」
とメルルは身振り手振りで説明してくれた。
俺は王冠を取り払おうとしたが、びくともしない。
「私もさっきとろうとしたんですけど、ダメでした」
「いろいろ起こりすぎてよくわからんな」
俺はうなだれてため息をついた。
「とりあえずは心臓の件だ。こっちをどうにかしないと」
「それなら、一度知恵の塔に行くのはどうでしょう?」
「知恵の塔か」
知恵の塔。そこは公共施設になっており、施設の目的としては歴史的な文献や伝承の保護としている。
大賢者と呼ばれる長い白髭を蓄えた老人が数名、在中しており、訪問者に知恵を授けてくれる。
確かにドラゴンの話は、大賢者に聞けば何かわかるかもしれない。
「そうだな、明日訪ねてみるか」
そうして俺とメルルは後日、知恵の塔に足を運んだ。
少し重たい扉を開け、螺旋階段を上り、賢者の間に向かった。
「この度にはどのような御用で?」
大賢者は長いローブで転ばないように、ゆっくりと振り返り俺たちに尋ねた。
「ドラゴンについてお聞きしたくて」
メルルは目を大きくして尋ねた。
「ほう、ドラゴン?」
「ダメですか?」
「いえいえ、ダメなんてことはないのですよ。最近その手の質問が多くてですね。ほらこの前の被害もあって」
おほほと大賢者は笑い、また話を続けた。
「ところで、どうしてドラゴンの事を聞きたいのですか?」
「じ...実は...」
メルルは事情を説明する。
ドラゴンを殺し、心臓を破壊した時に黒い波動のようなのに包まれた事、そうして心臓の鼓動が聞こえなくなってしまった事を身振り手振りで説明するのだった。
「なるほど...そういう事ですな。それでは私の知っているドラゴンの事についてお話ししましょう」
「ありがとうございます!!大賢者さま!!」
「あなた、先ほど、心臓の音が聞こえないと先ほどおっしゃってましたね?」
「はい!」
「もしかしたらそれは呪いかもしれませんね」
「呪い??」
と俺が尋ねる。
「そもそもドラゴンというのは人々の願いや恨みを根源にして生まれてきます。なので、人と友好的なドラゴンもいれば、人と敵対的なドラゴンも存在するのです。そうして、あなた方はドラゴンの心臓を破壊された。その心臓に込められた人の業が溢れ出したのではないでしょうか?」
「それで、じゃあ俺たちが殺したドラゴンは人の呪いのようなものから生まれたって事か?それで俺たちは...」
「呪われたのかもしれません」
大賢者はそう静かに言った。
「でもその呪いってどういうものなんでしょうか?
「私の知ってる限りだと、圧縮の呪いでしょう。あなた方の心臓の外側に薄い膜が張られてるはずです。それが鼓動が聞こえない原因にもなっているのです。そうしてそれは刻一刻小さくなっていく。もしご確認されたいのなら、透視魔法でご覧なさい」
俺は透視魔法でメルルの心臓を確認した。
確かにメルルの心臓があるはずの場所は漆黒で何も見えない。
「ど、どうですか?」
「本当だ。心臓のある場所が黒くなっている」
しばらく沈黙が続いた。
しかし、その沈黙を破ったのはメルルの言葉であった。
「解決策はないんですか??」
「ちょっと、お待ちくだされ」
そう言って大賢者は後ろの本棚から何か探し始めた。
そうして、一冊の本を手に取り戻ってきた。
「とある伝記に一つこんなものがありました。ある国の近くに現れたドラゴンを討伐するため、とある部隊が送られ、その時にドラゴンの討伐に成功したと」
「それで?」
「討伐した者の大半は一年以内に死にました。その中でも一人だけ生き残った者がいるのです。言い伝えによると、とある泉の水を飲んだからではないのかと、あくまで噂ですが」
「その場所は?」
「南西の国、マリカン帝国をさらに西にいった箇所に森があります。その中の泉なのではと言われています」
「決まりましたね!!」
「何を?」
と俺は尋ねる。
「行きましょう!!マリカン帝国に!!」
「決まりましたかな?行先が」
おほほと笑いながら大賢者は蓄えた髭を触り、そう言った。
「ええ!!ありがとうございます!!」
「それはそうとメルルさん、少しお話をいいですか?」
「は...はい!大丈夫です!!」
メルルは申し訳なさそうに俺を見る。
「外で待っているよ」
俺がそう言うと、メルルの顔はパッと明るくなった。
「ありがとうございます!!」
そうして、俺は部屋を後にした。
「メルルさん。あの王冠、あなたが召喚したラデューンですね?」
「え?は...はいそうです!どうしてそれを...?」
「私は大賢者ですぞ?」
ほほほっと大賢者は笑った。
「あの男には気をつけなさい。よくないものを感じる」
「え、でも...マキシムさんは私の事を助けてくれましたよ?」
「なあに、今すぐ裏切りなさいとかそう言う事ではありません。気をつけておきなさいというただの忠告です。もう一つ忠告すると、あの王冠は召喚獣ラデューンではありません。」
「え?」
「正確に言うならば、あれは完全な召喚獣ラデューンではありません。召喚獣ラデューンは心を二つ持つ召喚獣です。善の心と悪の心。そうして、善の心は王冠に、悪の心はそれより下の本体に位置するのです。後は、言いたい事が分かりますね?」
メルルは静かに頷いた。
しばらくしてから、メルルが出てきた。
「どうした?疲れた顔をして」
「あ、いえ!?何でもないです!!」」
「そっか、それならいいんだ」
「それよりこれから、マリカン帝国にどういくかですね。渡航条件は確か、ギルドランクのAランクが
必要ですね」
「操作魔法の「スポット」で飛んでいけるじゃないか?」
と俺は尋ねる。
「ダメですよ!!違法入国は立派な犯罪です!!Aランクに行くにはまずはクエストを受けてランクを上げるしかないんです!!頑張りましょう!!」
メルルはそう言ってスキップしていった。
やれやれと俺は静かに呟いた。これから先やることは山積みだ。
タイムリミットは一年。まずはなんとかしてギルドランクをあげなくては...
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