1話
「どうしてこんな事もできんのだ」
そう・いつも父に言われた。しかし、今回ばかしは愛想をつかれたらしい。
「もう良い!!お前など一族の恥だ!!さっさと出ていけこの大間抜け」
そう言って父は大雨の中俺を追い出した。俺は魔法が使えない・・・
俺たちサンライト一族は太陽の光を源にして、強力な魔法が使える。
マグマの噴火のような、災害レベルの魔法「マグマライト」は一族の誇りである。
俺もいつかはこの魔法が使えると信じていた。だが、俺はどうも太陽の光が苦手だ。
体が重く、何だか熱ぽく感じるのだ。
サンライト・マキシムというのが俺の名だった。父が俺を追い出した日、こう告げた。
「お前、もうその名前を名乗るなと。一族の恥だからな。」
俺は泣いた気がした。分からない。雨が頬を伝ったのか、本当に涙を流したか俺は分からなかった。
俺は名前を捨てた。近くのギルドに冒険者として登録することにしたのだ。
「それでは登録いたします。お名前を教えてください。」
「ムーン・マキシムです」
どうしてもマキシムだけは捨てられなかった。死んだ母さんの事が頭によぎったからである。
俺がここのギルドに来た理由は一つある。それはこの付近に大穴のダンジョンがある。
その大穴は全く底が見えず、落ちた者は帰ってこれないらしい。そのため、その付近には魔物が住み着き、仕事が多いのだ。
ある噂によるとそこにはマグマをも溶かすブレスを吐くドラゴンがいるそうだ。
「なあ、君一人なのか?どうだろう?うちに入らなか?」
俺はあてもなかったのですぐに了承した。しかし、魔法も使えず剣技も使えず、挙句の果てにヒーラーもできなこの俺を置いておくパーティはいなかった。そうして、俺の周りには誰も寄り付かなくなった。
あるとき、そう仕事を探しているときだった。一人の男が俺に話かけてきた。
「仕事を探しているなら、手伝ってくれないか?いい仕事があるんだ」
「俺は何の役にも立たないぞ?」
「そんな事はない。この世に役に立たない人間なんていないさ。まあ、ちょっとした人数不足でね。人手が欲しいんだ」
「分かった」
俺はすぐに了承した。
仕事の内容は簡単だった。隣町の薬屋まである荷物を運ぶ際の護衛という任務であった。ただ護衛といっても数合わせで、馬車に乗っているだけに過ぎなかった。
何事もなく、俺たちは進み一晩夜を明かすため、火を焚いて囲んだ。
「この付近の大穴の話をしっているか?」
と俺を誘った男は聞いた。
「知ってるさ。底が見えない大穴だろ?」
「ちょっと、見にいかないか?」
「冗談だろ?あそこはトロールがいるんだ。俺らじゃ無理だ」
「大丈夫。実はなトロール避けの薬草を持っている。なあ、ちょっと見に行かないか?なあ、アインお前もいくだろ?」
男はそう言って、一人の男に声を掛けた。アイン・・・最初に俺をパーティーから追放した男だ。
「ああ、そうだね。行こうか。マキシマムも行くだろ?」
とアインは俺に声を掛ける。
俺は仕方なく頷き、二人に付いていった。
「なあ、どうしてそんなに大穴が見たいんだ?」
「近くにそこでしか取れない高級マッシュルームがあるんだ。めちゃくちゃ高値で売れるらしい」
と男は言った。
「なるほど」
それなら納得がいく。
しばらく森を歩き、大穴に辿り着いた。
「これが、大穴か...」
俺たちは恐る恐る近づいた。
「なあ、何か見えないか?」
とアインは指さした。
「なあ、マキシムよく見てくれ」
俺は少し身を乗り出して確認した。その瞬間、誰かが俺の背中を押した。
俺は慌てて、懐にあった剣を抜き地面に突き刺す。
俺を押した犯人はアインであった。
「っち...さっさと落ちろよ,、くそったれ」
「どういうつもりだ?」
「おめえが、目障りなんだよ!?サンライト一族のせいで俺はここまで落ちぶれた。冒険者ギルドなんかになあ!?
なあ...さっさと死んでくれよ...目障りなんだよ」
「俺はもうあの一族と関係ない!?なあ、お前助けてくれ!?アインがおかしくなっている!!」
「アインはおかしくなんかねえよ。なあ、さっきトロール避けの薬があるっていったよな?あれは嘘だ」
「なに!?」
「トロールは大穴に落ちた人間を追いかける修正があるらしい。この大穴にいるトロールだけらしいがな。だから、
お前がトロール避けだったって事さ。さあ、分かったらさっさと落ちな」
そう言って男は俺の手を何度も何度も蹴り続けた。
俺はもうなんだかどうでもよくなってきた。俺の人生ってなんだったんだ?一族に見捨てられ、
パーティーの仲間には裏切られ・・・
いっそこの大穴に落ちた方がよっぽどましだ。そう思うと俺は手を離し、受け入れた。
「じゃあな、トロールに骨までしゃぶられとけよ」
そう、アインの言葉を最後に俺は大穴に落ちていった。
どんどん沈んでいく、上の方で物音がする、何か騒がしい。悲鳴だろうか?
もう降っているのか登っているのか分からない。まあ、もうどっちでもいい・・
しかし、頭の片隅で声がした。
「浮遊魔法を唱えろ!?」
俺はその声を頼りに浮遊魔法を唱える
「フロート」
一度も成功したことのない魔法が成功した。
しかし、暗い。真っ暗だ。俺は静かに魔法を唱えた。
「サンライト」
俺は辺りをてらした。何か縦縞模様が見える。それは綺麗なグリーンで、静かに俺を見つめる。
俺はそのとき、気づいた。これが何なのか・・・
「何の用だ...人間」
俺の目の前には大きなドラゴンが佇んでいたのだった。