第1日 ルール①
「ねぇ、お……て。」
遠くの方で何かの声がする。
少年のようなあどけない声。
「ねぇ、起きて……。」
身体を揺すられてるのかふわふわする。
この子も怪我人をグラグラ揺らすなんて死んだらどうするんだ。
ん?……私生きてるのか。
足が動かせない。
手も何か指先?しか動かせないのか少し震わす事くらいしか出来ない。
相当重症だな。
男の子の声が止まないので仕方なく目を開けてみる。
「はいはい、今起きますよ……
ってどぉああああああ!!!」
「わぁああああああ!!!」
目を開けた瞬間に、緑の生き物が真ん前で覗き込んで居て咄嗟に後ずさる。
生き物もビックリしたようで大きい目が余計に大きくまん丸になってクチバシをパクパクさせてる。
冷静に目の前の生き物を見てみた。
………なんだ。コスプレか。
「ボク、コスプレじゃないよ。」
あれ?心の声読まれてるぞ。
いや、そうじゃない。
「少年、私は今怪我をしてるんだ。
脅かすなら他の人にしなさい。」
キョトン、とした顔で首を傾げる少年。
少年、でいいのか?
「もう、ノルマは達成したよー!
あ、ボク、河童のカワノって言うんだ。君の名前は?」
河童……あれか、妖怪とかいう物語にいるやつか。
妖怪大好きな幼なじみの優花が言ってたような……。
ってかノルマって会社員じゃないんだから。
リアル過ぎる設定だな。
「私は伊都。伊都お姉ちゃんと呼んでも良いよ。」
何言ってんだ私。
「イトおねぇちゃんはノルマ達成したの?」
「なんだそのノルマって。」
「妖怪は人間を1日1回脅かさないと消えちゃうんだよ?」
……ほう。これはあれか。ままごとか。
付き合ってやるか。
「ふむ。ではカワノ。私にやり方を教えてくれ。」
豪に入れば郷に従え、ってやつよ。
子供のルールには歳上である私がちゃんと聞いてやらねば。
「まずね、イトおねぇちゃんは空飛んでね。」
……空飛んでね。
……空飛ん、え?
「お、おう、ま、任せろ。」
足動かないんだぞ。少年。
飛ぶ真似すれば良いのか?
ってか足どうなってる?
……ん?
…………え?
……あ、見なきゃよかった。
「イトおねぇちゃんは一反木綿だからピューって飛んで人間の前に出るだけでも人間から結構驚かれるよ!
やってみて!」
カワノが無邪気に飛び跳ねるのを尻目に、私は現実から目を逸らした。