神様に使命を与えられたのでとりあえず世界をリセットします。
俺の名は皇 一途
この物語は俺が異世界に召喚されたところから始まる。
そう、異世界だ。
当時、俺は18歳で高校3年だった。
バスケ部の練習の帰り、普段は人通りも車通りも少ない交差点。
その日、横断歩道を歩く女子高生を見かけた。うちの高校の制服だったし、特に変わった様子もなかったのだが、なぜか俺は強烈にその女子高生に惹きつけられた。
そして気づいてしまった。今まさに横断歩道を歩いている彼女に迫るトラックを。
「おい!!あぶねえぞ!!!」
その瞬間、俺は無意識のうちに彼女を助けようとトラックの前に飛び出し、彼女を助けようとしていた。
その後の記憶は曖昧だ。
だが、なぜか鮮明に記憶しているものがある。
俺が彼女を助けようとした瞬間、彼女はとてつもなく綺麗な笑みを浮かべ・・・。
「今日の収穫」
と、言っていた。
目が覚めた時、俺は眼を疑った。
目の前には時代錯誤な装いをした連中。
豪華絢爛な室内、宮殿内?
恭しく頭を垂れる法衣をまとった女性。俺の周囲を兵士と思しき十数人の男共が槍や剣を構えている。
「よくぞ、来てくださった・・・。勇者殿」
そこへ兵士を掻き分けて現れる王冠を被ったオッサン。
「勇者・・・・?」
俺はとっても間抜けな顔をしていたのだろう。
どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。
突然のことに呆然自失している俺に周囲の魔法使いっぽい連中が懇切丁寧に教えてくれた。
この世界はいま滅亡の危機に瀕していて、その元凶である魔王を倒すために異世界の勇者を召喚していたのだ。
もちろん俺は抵抗した。異世界だの魔王だの勇者だのと一方的に押し付けて、世界を救えとかめちゃくちゃだと。
「しかし、魔王を倒さねば勇者殿を元の世界に戻すことはできぬ」
王様のこの言葉で俺は渋々従うことになった。
始めは渋々だったがこの世界のことを知るにつれ俺は徐々に勇者として自覚を持ち始めてしまった。
凶悪な魔物をたおし、信頼できる戦友も出来、更にはお互いに愛を誓った恋人も出来てしまった。
この世界に召喚され2年、3年、10年・・・。
気づけば俺は勇者として世界を救うことに疑問を持たなくなっていた。
「・・・・・・・ここは・・・・東京?」
だからこそ俺は目の前に広がった光景を信じることが出来なかった。
世界を旅し、人々を守り、魔物を倒し、仲間と共に成長し、ついにたどり着いた魔王の居城・・・。
いや、ファンタジーたっぷりな世界でだよ?
魔法とかさ、火とか水とか・・・風だって操ったりできる世界だよ?
中世ヨーロッパみたいな甲冑姿のさ、兵士とか、魔法使いに弓使い、盗賊とか・・・。
なんなら冒険者ギルドみたいな組織もあったし、暗殺者にだって襲われたことあるんだよ?
なのにさ・・・・魔王城だよ?
魔王城! もっとおどろおどろしくてさ、とんでもない魔物がいたりさ・・・。毒の沼とかさ・・・。
瘴気みたいな・・・ね?
混乱してる俺の前にある景色はまさに現代!
高層ビルが立ち並び、アスファルトで整備された道路、信号機まである。
キラキラ煌めくネオン街。凶悪な魔物など見当たらないどころか、そこにいたのは俺と同じ人間。
しかも鎧とかじゃなくスーツ姿だ。
武器の代わりにバッグを担いでいる。俺は一瞬悪い夢を見ているのかと思った。
「イットさん、消えない火に巨大な要塞・・・。やはり魔王のちからは強大なのですね・・・」
俺の旅仲間である僧侶、回復魔法が得意で俺も怪我をしたときはお世話になっている。
・・・・・消えない火?・・・・あぁ、信号機とかの光のことか・・・・。
あと、要塞ってビルのことかな・・・。
「しかし、アイツらの装備しているのはなんだ?一見して防御力は低そうだが・・・・、魔王直属の配下みたいな連中がそんなわけないよな?」
巨大なマサカリを担ぐ筋骨たくましい女。戦士が用心深く観察している。
いえ、防御力もなにもないただの服です・・・。
「うむ、しかし聞いていた話とは随分違うな・・・。あやつら本当に魔物か?」
顎髭をなでながら大魔道士の男。
いや、どっからどう見ても一般人。オレたちと同じ人間だと思うな・・・。
「・・・・ほんとに、ここに魔王がいるの?」
俺はようやく声を出すことが出来た。
目の前にひろがる光景は俺が元いた世界と寸分違わず一緒なのだから。
「間違いありません!あのような摩訶不思議な火や巨大な要塞が証拠です!!」
僧侶は信心深いせいか、思い込みが激しい部分がある。しかし、俺には到底、魔王城には見えない。
だって、住人?の顔は笑顔だし、何なら屋台で酒飲んでません?てか、あそこコンビニじゃね?後で行こう~っと。
「貴様ら、見ない顔だな?異邦人か?」
なんの気配もなく突如として現れた女、見た目は完全にオシャレに気を使っている女性!
めっちゃ美人!なんなら胸がでかい!
「イット、お主どこを見とるんじゃ?」
「いや、決して胸がでかいな~とか思ってません!!」
大魔道士の言葉に我にかえる。
「質問に答えろ、返答次第ではこの場で斬る」
そういった瞬間、女は異空間から・・・・。
「に、日本刀!!!!」
「む・・・。貴様、これを知っているのか・・・・?」
驚きすぎて俺は全力で首を上下させた。
「・・・・どうやら、その男は我々と同じなようだな・・・」
「そ、それは一体どういう・・・?」
「ついてこい、我らが王に会わせよう・・・・」
え、え?ええっ?なんだかわけがわからんぞ?
「陛下、いまお時間ありますでしょうか?」
日本刀の女に連れられ、俺は魔王城へと案内された。
意外にも周りに高層ビルやらコンビニやら、本屋にスーパーマーケットが建ち並ぶなかで魔王城だけはイメージ通りのお城であった。
「いや、待て。もうちょっとで・・・このステージが・・・あぁ、あああああ!負けた!!」
「ちょっとまて!なんでこんな所にTVゲームがあんだよ!!!」
しまった!と思ったが、目の前で巨大なモニターを見つつ俺の知っているアクションゲームをやっているのだから仕方がない。
「ん~?あぁ、お前か・・・例の・・・日本刀を知ってる勇者(笑)は・・・」
「カッコ笑いってなんだ!」
城に入ってすぐに謁見の間があり、豪華で柔らかそうなソファに身を預け、巨大モニターでゲームをしている・・・。
「ほ、ほんとにあんたが魔王?」
身長はそこそこ、顔は平凡、ただし目つきはやけに悪い。
王国から聞いていた話とは大違いだ。凶悪な見た目に冷酷残忍、悍ましい魔力を持つ怪物と思っていた相手が、センスの悪いTシャツにデニム・ジーンズという出で立ち。
「魔王ってのはお前たちを召喚した王侯貴族どもが勝手につけただけだ・・・。正確にはアドニアス王国第12代目国王、アドニアス・ヤマト・タケルだ」
「なお、更に正確に伝えるなら山田 洋一だ」
堂々と名乗りをあげる魔王のあとに日本刀の女が付け加えた。
「やま・・・だ、よういち?じゃぁ、お前も・・・」
「サユ、人が格好つけてる時はスルーしろ。・・・・、そう、俺もお前と同じ異世界出身だ!!」
「それは失礼しました。ですが、情報は正確な方がよろしいかと思いまして・・・」
礼儀正しく頭を下げるが、全く反省の素振りがない。慇懃無礼とはこのことか・・・。
「ちなみにそのサユという女の名前はサユ・エスポワール・インテグラ・・・・。本名は鈴木 玉子だ」
「陛下ーーー!!!!玉って呼ばないでください!!」
「情報は正確なほうが良いのだろう?」
な、なんかまじで想像以上に想像の範囲外だ。