新世紀 異次元アークディメント
前に書いた作品の続編です。
プロローグ
悪魔的なドラゴンのいる次元に向かう為に作られた次元があった。創生者やそこに生み出された者達はその世界をアークディメントと呼んだ。
次元を超える船のアークと次元のディメンションの造語であった。
巨大な樹木から石の実が沢山なった。それが地に落ちて人間の赤ん坊が生まれた。それらは下界の飛鳥時代から来た呪禁道の道士達に育てられた。
上の次元を創生者達から任せられたアラン-スチュワートは飛鳥の人間を守る為に作られた存在である彼らを、ダークドラゴン、ダンタリオンが輪廻岩の封印した次元の欠片である浮遊大陸に移住させた。
真理の力を使えるルーラーである白亜が生み出した彼らは、人間より運動能力があり精神力が強いがそれでも特別に強いという訳ではない。真理で生み出された者なので摂理に反した存在にはなりえないのだ。
彼らは自らをシールドエンドと呼んだ。彼らは街を作り出してそこで平和に住むことにした。
一方、地上に残っていた呪禁道の使い手、役小角の弟子である狗裡の息子の永久は幼い頃から狗裡と亜鈴の弟子として凄まじい鍛錬を積んでいた。
とある理由で白亜はダンタリオンの1件からすぐにこの世界に戻って来ていた。その詳細は割愛するが彼はこの地を完成させる為に3柱を召喚した。
1柱は時と光、そして宇宙を司る鬼の鳥を放った。次に、水と温度と地を司る鬼の蛇を放つ。最後に空間と流れ、エネルギーを司る鬼の馬を放った。
彼も役小角の弟子であり力をさらに付けていたので呪禁道と魔道、そして妖術を使える簡単に使えるようになっていた。
グラノガードは上下の次元がなくまとまった場所なので、高次元の存在も受肉した存在もいることが出来た。しかし、この場所は上の次元には受肉しているといけないのだ。
だから、アランは上の次元にいた。
剣技の玄王の息子、阿字は彼らが作った次元、グラノガードから魔導族と共に来て永久に言った。
「こいつらは下界人と友好を結びたいらしい。魔導族はグラノガードの侵略者というイメージかもしれないけど、全員じゃない。元は魔法界と下界人が呼んでいる次元から来た魔法が使えるロ・エト王国の住民なんだ」
魔法界は下界の中世のヨーロッパのような世界で、隠れていた魔法を使える存在が明らかになっていったのだ。魔法は上の次元の聖と魔の属性の存在の力を借りる力で白魔法と黒魔法はどちらの力を利用するかで変わるのだ。
対照的に人間の中で政治を利用して暗躍する存在が魔法島国、伝説のウィズから来た存在であり、グラノガードで勢力を拡大しているのはロ・エトの民ではなく北方の島ウィズの民である。
そして、阿字と共に来たのはロ・エト王国から来た民であり、平和で温和な存在である。宮廷魔術師の2名が特殊な武具を作成できるので、彼らが飛鳥の民の大陸に集落を作って阿字と永久と過ごし始めた。
グラノガードでは上下の次元がないので魔法を使う場合は魔法界から力を受けるのだが、この次元では上の次元に魔導族に力を貸す存在がいないとならない。彼らがここに来て魔法を使うことで魔法界の上の存在がアラン-スチュワートのいる上の次元にも来ることになった。
聖を司るアレクサンダーとモーリス、魔を司るダンバートンとベアドリスである。そこで、下の存在を味方にする為にアランはまず、シールドエンドに働き掛けをすることにした。
輪廻岩を破壊出来る武器のサーラを彼らの長に渡して声を届ける。
「貴公らは神である我に従うべし」
しかし、青年が言う。
「我々を創造されたのは旧神の神々です」
アランは言う。
「その旧神の神々が今の神を我に任せたのだ」
長が代表して言う。
「神は我々を見守るだけで、我々は地上の下界人を見守るのが使命です」
少し苛立ちを見せるアランは落ち着こうとして言う。
「今はこれだけ言おう。その浮遊大陸には輪廻岩という封印石の欠片がある。それを集めるのだ」
シールドエンド達は少々戸惑いながらも、アランの天啓に渋々従うことにした。
例え、ダークドラゴンの亜種を封印していた輪廻岩を復活させても、それで新たな魔法界の4柱に従うことは不可能なのは明らかであった。しかし、アランには他に手はなかったのだ。
聖なる存在モーリスはアレクサンダーとアランのいる場所に一足早く辿り着いた。聖なる存在が堕ちると魔となると言う真理から、彼らがダンバートンとベアドリスが司る魔はモーリス達の聖から堕ちたと考えられた。
彼らはアランとは距離を取った場所で下の次元に移り住んだ魔導族の加護と力を貸すようになった。
魔法が普通に使用し易くなった彼らは下界人の飛鳥国の端でロ・エト王国の分裂国としてニクトロ・エト公国を築いた。
永久と阿字はニクトロ・エト公国の中で妙なものを作成している鍛冶屋を見つける。大量に銀の指輪を作成していた。
「それは何?」
永久が聞くと鍛冶屋の弟子のウィル-ホーロウは無垢な笑顔をカウンターの下から見せた。
「時空の指輪だけど、まだ未完成なんだ。売り物じゃないよ」
そこで永久は綺麗な宝石で飾られた巨大な剣を指さした。
「あれは強力な力、精神力や気、魔法や法力等を持っていないと扱えないよ。しかも、資格がないと持てないし気に入られないと力も貸してくれない」
そして、ウィルが叫んだ。
「名付けて聖剣エルスセイバー、聖なる大剣です。大きな力をもたらすのでかなり高額だよ」
すると、振り返らずに阿字が大きな声を出した。
「だそうだけど、彼らの金を持っている?」
後ろから人込みから現れた白亜は言う。
「この次元は僕達の時間よりここの時間は遥かに遅い。しかし、進み方が不規則だ。…作った僕が言うのだから、間違いはない。だから、ここにいる彼らの金銭がここに来てから変化している可能性がある」
たまたま、彼らが来たときはそれほど時間が経過していない。20年くらいだろうか。
「じゃあ、これで」
白亜はグラノガードの魔導族の金貨を見せる。すると、ウィルが表情を明るくした。
「それを50枚持っている?」
彼は革袋をカウンターに放った。1枚ずつ確認したウィルが言った。
「毎度あり。ついでに試作品の指輪を7つサービスするよ。これは次元を超える力を持っていて、5回から7回で壊れるんだ。使い方は指輪をしている間だけその次元にいられて外すと元の次元に戻る」
そこで、白亜が口を挟む。
「だけど、場所に気を付けないといる場所と行く場所が安全とは限らないし高低差もあるかもしれない。その指輪なら知っている」
さらに彼は続ける。
「それは完全なものがグラノガードでこれから作られる。君達と違った魔導族、ロ・エト王国出身ではなく魔法公国ウィズの民によってね」
ウィルが歯ぎしりをすると、奥から声がした。
「お前もそいつらに付いていけ。色々な知識と経験で良い魔法鍛冶屋になれ」
振り返ってゆっくり呟く。
「…親方、ありがとう。自分の好奇心には勝てない」
永久と阿字、白亜はウィルを仲間にすることにした。
1
紫燕は数10年前と変わらぬ姿でジンの前に姿を現した。
「志田祢音、何か用か?」
「相変わらずね、ジン。この世界に干渉しようとしている連中がいるので、武具と勇者を貸して欲しいんだけど」
ジンはすぐに例の次元を思い浮かべた。
「上界の存在も直に干渉するくらい危機なのか」
「今更、上界の干渉もないだろう。あの世界に魔なる存在が移ってきた。それにダンタリオンの鱗珠が宿れば、魔王が生まれるだろう。そうすると、流石に面倒なことになる。あの世界は地続きの次元だからな」
「じゃあ、ジョン-スチュワートにドラグモーターの鎧を作らせて神早見龍牙に渡せば、彼が力になるだろう」
「借りはいつか返す」
少女はそのまま姿を消した。溜息をついて白髪をバンダナで隠した金目をサングラスで伏せた大男はある場所に向かった。
ジョンはダンタリオン退治後にアークディメントから帰って来てから大学でいつもの生活に戻っていた。
そこにジンが現れた。
「新しいロシェの鎧を作って欲しい」
ジョンは振り向かずに言う。
「もう龍牙を巻き込むな。上の存在が持ってきたパンドラの箱の件で、相打ち同然の戦いで勝ってこの世界を守った、それで充分だろう」
ジンがサングラスの隙間から冷ややかな視線を注ぐ。
「その世界は再び危機にあるんだ」
そこで振り返ってジョンは真顔で言った。
「その情報に信頼性はあるのか?」
ジンは答えなかった。微笑んでジョンは頷く。
「我々には理由はいらない、か。分かった。聖は光、魔は闇。魔を消すことは出来ない。アークディメンションに来ているんだろう、魔法界の上の連中が。じゃあ、本物のロシェのある場所に行くか。ここにある発掘したものでは、魔王を相手にするには限界がある」
そこで、確かに2回目のパンドラの箱の戦いで苦戦した状態では今回の戦いは勝ち目が低いと考えたジンは、そのロシェの生まれた場所を探ることにした。
ロシェの情報が刻まれたヒエログリフを南フランスで見つけたジョンは過去のプロバンスを探ることにした。
地面に手を当てて光の魔法円を発すると、アドネル-Y-ニクドを召喚させた。
「さあ、タイムリンクの時間だ。俺と一緒にロシェを見つけに行くぞ」
アドネルはすぐにピンときたようですぐに答える。
「その前にある場所に行かないといけない」
ジョンはアポリオを高めて肉体を薄めた。
「じゃあ、連れて行ってくれ」
アドネルはジョンを掴むと次元を越えて行った。
絶界と断界の狭間に辿り着くと、大きな鍵を手に入れた。
「これは上の次元のオーバーコードだ。そもそも、ロシェは絶界の存在が下界にもたらしたんだ。2回目のパンドラの箱の事件が起こる原因でもある」
アドネルが鍵を手に入れると同時に絶界の存在が複数現れる。その中に龍凰機もいた。
「箱を持っている者がいる。何に使うかは既に未来で知っているだろう」
「では、この鍵を使ってロシェのある場所に行くぞ」
鍵の天に差して見えない扉を開いた。
森の民の次元に絶界の者と断界の者を巻き込んでいくと、剣技の民がいる森に辿り着く。すぐにジョンは光の魔法円を使って森ごと光に包んで肉体を戻していった。すると、下界に戻ることが出来た。だが、多くの次元の民を巻き込んだせいで、中世に辿り着いてしまった。
森の民は東北の例の原住民となり、上の次元の存在は散り散りになった。アドネルは湖に降りた神という伝説になる。
ジョンは問題のロシェを求めて再度、次元の狭間の切れ間にアドネルが持っていた大きな鍵を持って飛び込んだ。
2
箱船アークがロシェを下界に持ってきたので、アークが来た場所に向かうことにした。そこでジョンはある感覚を感じた。大きな鍵が反応している場所を探るとロシェの部材が顕わになった。
それまでに色々あったが、詳細は割愛する。
それを拾ってジョンは鍵を振りかざすと元の時空に戻ることが出来た。ジンは分かっていたように壁に寄り掛かったままで手を差し出した。
ロシェを見たジンは呟いた。
「まさか、今回のロシェは腕時計とはな」
それを受け取ると視線でジョンに解説を求めた。
ジョンは溜息をついて口を開いた。
「それは時計にその人の本来持つ能力を高めて使えるようにするものですよ」
そこでジンは微笑んだ。
「じゃあ、龍牙には剣技とロシェの強化をさせるということか」
それを持ってジンは出て行った。
ジンは龍牙に会いに行き、事情を話してロシェを渡した。
「分かりました、でも時空を超えるには?」
そこでジンは密かにジョンから手渡されていた時空を超えるオーバーコードの鍵を取り出して彼に渡した。
「それで行け。強くイメージした場所に行ける。最初は時空を超えるのに感覚が掴めないと思うから、目を閉じて強く行先を想像しろ。次にそこに自分がいるイメージを徐々に強くして最後に丹田に強く力を入れるとそこに自分が移動している」
龍牙は時空移動の鍵を掴むと巨大な剣を背負って時計型のロシェを付けた。
ダンバートンは亜暗黒龍の鱗珠を探してアークディメントの下の世界に降りてきた。魔王になるには必要なものである。だが、既に倒されている。それでも可能性にかけた。
浮島に辿り着くと彼は指を鳴らす。ビーストと呼ばれる獣に似た魔獣を召喚してある人物を探し始めた。
そこに龍牙は現れた。
「へえ、お前が魔王候補か」
指輪のロシェを始動させる。ドラグモーターが完全に発動するまで時間を稼がないといけない。同時に大剣のロシェも始動させて発動するまでに距離を取った。
そこに永久と阿字、白亜とウィルが箱舟に乗って空に現れた。
「あれは空の箱舟。誰が操っている?」
永久と白亜が降りて来て龍牙の前に守るように立った。
「お前は魔に属する存在だな」
白亜は構えてアルファオメガを高めた。
「その程度の力では我は倒せない。諦めろ」
ダンバートンは指を鳴らすと凄まじい邪気の波動が放たれた。永久はさっと腕を振ると透明な壁が現れて彼らの姿を隠した。
「狐の妖術か」
「呪禁道だ」
背後に現れた永久は大きな狐火を放った。しかし、全くダメージはなかった。
犬神を召喚してそれにまたがりすぐに飛び掛かった。ダンバートンは背後を見ずに腕を横に振ると凄まじい波動で弾き飛ばした。
そこに大きな炎が飛んできた。
「鬼火?まさか…」
白亜はすぐに炎の放たれた方に駆け出した。そこには1人の少女がいた。
「桔梗、元気そうだな」
彼女は微笑んだ。
「良く私の鬼火と気付いたね」
「それは鬼の呪禁道を使う人間がこの次元に1人しかいないから」
しかし、浮かない顔で2人はダンバートンを見た。最後にダークドラゴンの亜種を倒した桔梗でドラゴンゾンビの呪いを受けている桔梗でも、到底かなう相手ではない。
かなりの時間を越えて帰ってきた白亜と出会っても少女のままの桔梗はドラゴンの呪いの為である。
彼女はドラゴンと同等の力を得ているのだ。右手を前に出して光線ブレスを放った。ダンバートンはそれを蹴って弾いた。
「ドラゴンのブレスって口から出すんじゃ?」
白亜が訊くと桔梗は俯いた。
「今はそういう場合じゃ…。ドラゴンは口の中から攻撃を出しているんじゃないのよ。炎もエネルギー波も体内で発生させて口から出している訳ないでしょ。私達のように腕を使わえないし、そういう習慣もないから口を使っているだけ」
すると、ビースト達が次々に帰ってきて
「使い魔か。分が悪い」
白亜は永久と桔梗を庇うように立って力を体に溜め始めた。と同時にやっとロシェが発動した龍牙は大剣を構えて駆け出した。
「そうか、使い魔の1匹は鱗珠を探させていたのか。で、ダークドラゴンを倒した岩のどこかに残っていたものを主に持ってきたのか」
白亜がそう呟くと駆け出そうとした。しかし、手で制して桔梗が言った。
「貴方は力を溜めて真の能力を解放して。今はそれが唯一の望みよ」
桔梗は永久を見て一緒に駆け出す。ビーストを大鬼と狼の式神を放って近づけないようにした。
そこに箱舟からウィルが作った魔道砲を作って発砲した。阿字は操縦をしてサポートをしている。
阿字は操縦桿から手を離すと意を決したように箱船から飛び降りた。剣を抜いて着地すると無防備の白亜の前に構えた。ビーストが多く来る中で彼は叫んだ。
「魔からこの世界を守る。魔に対する為に私は狩魔と名乗ることにした」
そこでビーストを剣術で倒していった。
龍牙が全力でロシェの剣をふるっていた。しかし、上の次元の魔の最高峰の存在にかなうはずがなかった。全ての攻撃は弾かれていた。ジン達が持ってきたロシェの意味もなかったのだ。
突然、巨大なビーストが鱗珠を加えてダンバートンに跳んできた。
「頼む、ロシェの力をもっと!」
龍牙は思い切り大剣を振り下ろした。凄まじい重力の刃が放たれてビーストは地面に叩きつけられて消えた。しかし、鱗珠は既にダンバートンの手の中であった。
魔の存在はそれを吸収して魔王と化してしまった。
そこで、箱舟の銃撃と桔梗達の力でビーストは全て駆逐された間を通って、光る天使の姿の白亜と守護するように歩く阿字、狩魔が魔王の前に進み出た。
3
魔王、ダンバートンは白亜を睨んで言った。
「貴様、今までその力を隠していたのか」
それに答えずに白亜は光の剣を発して高く飛び上がった。魔王は今まで以上に力を付けていた。凄まじい波動を放った。それを白亜は剣で弾いて背後に回った。そこを回し蹴りが来て剣は空を切った。
光の天使は凄まじい剣撃を放った。魔王はそれを両腕で防いだ。確実にダンバートンは強力になっていった。
「アルファオメガの能力に均衡する訳がない。何故だ」
白亜は狩魔の力を感じて振り返る。彼は剣技を放った。すると、浮遊土地のダークドラゴン亜種の封印の能力が再生して魔王は地面に飲み込まれ始めた。白亜は全力で剣撃を放ち続ける。魔王は何かを天高く投げて岩の中に封印された。
上の次元でベアドリスが黒い靄を見て嘲笑った。
「ダンバートン、哀れだな」
そう、魔王が最後に投げたのは魂と魔王としての力どころか本来の力さえなくした魔に属する力であった。
「そのうち、あの受肉体と力の封印を解くさ。あのアルファオメガの能力の存在は気になる。ただの人間ではない」
そして、指を鳴らすと4つのビジョンが空中に現れた。
「4‘Sブレイブ、4勇士の話を知っているか?」
ベアドリスは鼻で笑った。
「全次元の中で最も強い4柱の勇士とかいう伝説か。かつての魔王を倒したとか、最強のドラゴンのレッドドラゴンを呪いをくらわずに倒したとか」
そこで、真顔になって彼はダンバートンを見た。
「まさか、その1柱があの小僧だと?」
首を横に振ってビジョンを消して口を開く。
「あの小僧に潜んでいるというところか。でないと、あんなに強大な力を持っているのに少ししか出すことが出来ないのはおかしい」
ベアドリスが視線をダンバートンに向ける。
「否、正確には数珠の力で絞り出しているんだ。自分では力さえ出せないただの下界の人間だ」
「それがおかしいんだ。何故、その普通の人間がアルファオメガの力を持っている。そもそも、あの存在は普通の人間ではない。普通に存在しないルーラーであり、だからアルファオメガの能力を持っている。だが、何故自由に力が使えない?」
ベアドリスは目を細めた。
「それが勇士のせいとでも?」
そこでダンバートンが静かに答える。
「だから、まずいんだ。勇士が出現したなら4柱とも我々を滅しにくるはず」
「奴らは均衡を保つからな。聖に対して力を保ち下に手を出し過ぎているからな」
そして、しばらく考えた結果、ベアドリスが言った。
「それじゃあ、倒しに行け。お前が魔王になったのが原因だ」
弱体化した魔王は元の姿になるべく、下の世界に降りてある魔導士に憑りついて行動を起こした。
人間の中に魔王を崇める魔王崇拝のカルトを作り広めていった。悪魔の神官となり魔神を降ろすという活動を始める。
まず、時間を逆行する能力のある存在を探して、封印された魔王の封印された岩を復活させることにした。
その能力を持っているものは最強最悪の存在、レッドドラゴンであった。リスクがあるものの苦肉の策で信徒にレッドドラゴンの召喚を指示した。
4
島の西に大陸が現れた。東と西の大陸から島を離してシールドエンドと魔道族、奈良族を守るようにしたのだが、大陸との間に大海原に次元を超えて大陸が現れた。
その中央に山脈があり、一番高い山に封印されたレッドドラゴンが存在した。
そう、魔王信仰は魔神信仰となり神官が魔道の力で次元を漂う巨大な大陸をおびき寄せたのだ。たった2.6%の確率という技であるにも関わらず。
鬼道と仙道を扱う陰と陽の相反する質に属する上の次元のある道界から移された大陸であった。
ボウユ高山から噛亥は周りの異変に気付き城下町に降りた。最下級の兵士、バルの大群が既に城門から出て大陸の先に向かっていた。偵察の先遣隊を一瞬で追い抜き海岸に辿り着くと、次元を渡って意図的にこの不可思議な次元に着いたことを感知して指を鳴らす。
死を司る陰の存在、死神の郭威を召喚した。
「陽のサザラ山の第3位の山彌のお気に入りが陰の死を司る我に何用か?」
彼はため息をついて言葉を零した。
「だから、陰と陽は一対なんだ。確かに相容れぬ存在ではあるが、決して手を結ばぬ訳ではないよ」
そして、海の向こうを眺めて目を細める。
「どう思う?」
「勿論、このような不安定で不細工な次元は素人に作られたもので、この大陸も力無き者が強運で引き寄せた、というところか」
そして、死神は横目で合図をする。
「どうする?」
そこで、噛亥は後ろを見た。
「どうするも何も、乱王廟で白李を呼ぶ」
そう、この大陸の世界には神が仙神と呼ばれ廟に祭られている。この廟の主神は白李という海を守護する陽の存在である。
「人間が仙界の我らに何用か?」
奥から穏やかで太い声が響いた。
「紅龍聖人の弟子、山彌師の加護を受ける噛亥です。今、この大陸は別の次元に飛ばされました。力をお貸しして欲しい」
すると、右の扉から人影が出てきた。老師の坐晶が口を開く。
「お主、呪いを受けているな。呪詛を受けながらも何故、仙神に従う?」
「愚問ですね、その力が必要だからです。それに今は外にいる上の次元の存在、ハイアーパワーの陰の存在がここを狙っているようだ」
しかし、彼は微塵も動じなかった。
「まず、真名を教えてほしい。確かに簡単に答えられないとは思うが、信用を頂きたい」
「クレイブ」
噛亥は即答した。坐晶は一例をした。
「まさか、伝説の英雄と出会えるとは。クレイブというのは、全次元の英雄、クレイバー・シリアサイトの転生という意味の字ですね。それでは、弟子の洪禅をお供させましょう」
しかし、彼は首を横に振った。
「いえ、まず僕はクレイバーの転生ではないです。クレイブとは祖父の太閤廟の蛟龍が山彌師から頂いたものです」
坐晶は微笑んでゆっくりと言う。
「何も理由なく仙神が真名を与えないですよ。それに加護を受ける程の逸材」
「加護は家柄だろうし、来たのは仙術師の力じゃなく仙神の力を借りたくて」
そこで坐晶の表情が曇った。
「貴方が何者だろうと、人間が仙神でありこの廟の主である白李様と対等に渡り合うという考え方が気に入らない。例え、山彌様の加護があり仙界に行き来する存在だとしても。山彌様とその近くの仙神様達と交流していたとしても」
噛亥はため息をついて踵を返して建物を出て行った。
廟の前に白李が待っていた。
「流石、山彌のお気に入りだな。我が結界を意図も簡単に破るとは。噂以上だ」
彼はため息とついて言った。
「呪詛については知っていますよね。僕に封印も結界も効きません。そもそも、受肉して仙界と行き来している時点で気づくでしょ」
白李は豪快に笑った。
「よし、望み通りに海を渡らせてやろう。向こうの魔に属する存在の良いようにさせる訳にいかんしな」
海岸に行くと兵士長であるバルの長、バルレアが軍艦を5隻率いて海に出ていた。
「彼らの望みはレッドドラゴンの時間逆行の能力だろう。しかし、この大陸に来させなければ問題はない。既にこの大陸には我々以外は通れない結界を炎帝が施している」
炎帝は仙神の長であり、最高峰のアエロ高山の山頂のレッドドラゴンの封印石の上にある仙界の高聖廟に構えている。
「人間の兵士どもが既に偵察隊を出しているが、あれは良いのか?」
「放っておきましょう」
待っていた郭威と合流すると、郭威に軽蔑の視線を白李は向けた。
「今は陽陰の対抗意識は収めておいて下さい。レッドドラゴンは封印を解かれただけで世界、次元が終わるんですから。過去に全仙界、鬼界が一丸となって封印した歴史を忘れてはいないですよね」
人間の少年に窘められると白李は鼻を鳴らした。
「ふん、分かっておる」
白李はそう言って刀印を構えて空中に海を表す文字を書くと、海の上に赤色の船を発生させた。
2柱と1人はそれに乗り込むと海の東にある島を目指して進みだした。
徐々に軍艦から距離を離して進んでいくと、島の方から奇妙な気配を感じ始めた。
「魔族がこちらに来ようとしている」
しかし、白李は違う方向を眺めた。
「あれは何だ?」
確かに噛亥も不穏な気を感じていた。だが、温かいものであったので害はないと思っていた。
「人間、自分の感知できないもの、想像出来ず考えに至らないものを知識として得ることが出来るか?」
「それは出来る訳ないでしょう」
「それが真理だ。アルファオメガは人間には過ぎた能力でもある。もし、それを扱える人間がいるとしたら、どう思う?」
「仙神の質を理解出来ないけど、その術を使うみたいな感じでしょうか」
白李は呆れて何も言わなかった。
5
聖剣エルスセーバーを背負いながら、魔王の力の封印を得て残った仲間の桔梗、永久とウィルと共に白亜は箱舟を操りながら、魔王復活を求める魔神信仰の教祖が教団と向かった箱舟を追っていた。
ところが大陸と島の中間で前方から多くの船が眼下を渡っているのが見えて教団の船が攻撃を始めてしまった。空と海の船の戦いでバルの艦隊ゼーバルローは徐々に沈没をしていった。
教団の箱舟からゼーバルローを守るために白亜は剣を抜いて構えると、足にアルファオメガを集中させた。
「まさか、あれを使うの?グランドブラスターは凄い攻撃を放てるけど、力の前借でその後は1日は力を使えなくなるでしょ」
桔梗が止めるが白亜は遠くにある箱舟に向けて思い切りアルファオメガで蹴って一瞬で教団の箱舟の目の前に跳んで、思い切り全ての力を剣に込めて振り下ろした。
凄まじい光のエネルギーが箱舟を粉々にして爆破した。中から神官と数人の信徒が脱出して空に魔の存在の力を借りて宙に浮いて、そのまま大陸に向かっていった。
能力を使い切った白亜はかなりの高さから海に落下していた。
そこをカードが飛んできて光の環に囲まれて落下が止まった。カードが飛んできた方を見ると、赤い船が浮かんでいた。
そのまま、光の環は赤い船に白亜を運んで噛亥の前に降ろされた。彼は白亜の光の環を消して印を数個構えた。すると、言葉が通じるようになった。
「言葉はわかるか?」
噛亥の言葉に白亜は頷いた。
「本来は紙札を使うところだが、ここは陰陽の気が流れていないので封印のカードを使ったんだ」
木のカードは特殊な術具でそれに気と術札を封印したのだった。
「貴方達はあの大陸の人達ですね。助けてくれてありがとう。しかし、艦隊が全滅してしまって」
すると、白李が微笑む。
「気にするな、人間の兵士共が考えなしに手を出すからだ。で、奴らはレッドドラゴンの時間逆行の力で何をしようとしている?」
白亜はダンバートンが魔王になろうとしていて、魔神として信徒を利用していることを話した。
ウィルが箱舟を赤い船に向けて降ろして着地させた。
「この世界は作られた世界、陰陽の気がなければ摂理は生まれない」
その白李の言葉は少年達には難し過ぎた。
「しかし、あの結界を簡単に超えて大陸に入るとは、あの者達は何なんだ?」
やっと郭威が声を出す。
「魔の加護を受けているし、魔道族だからだよ」
永久がそう言うと噛亥は頷く。
「元は魔法界の住人で魔力を持っていて、その次元の上の聖と魔の魔が力を貸しているのだから、ここの僕達と同じということだろう」
凄まじい感知能力に白亜と桔梗は唖然とした。同じ平行次元の人間であると思えない能力である。
「封印カードを1枚もらえるか?」
白亜がそう訊くと噛亥は惜しそうに渡した。
「それは特殊なもので空羅の木から数枚しか取れないんだけど」
白亜はそれにアルファオメガの力を封印し始めた。
彼らはすぐに城の後ろに広がる森に向かおうとしたが、噛亥は手で制して海の方を見た。ゼーバルローが出て行った海からボロボロのバル達が次々に上陸してきた。
「陰の気の術か。禁忌の鬼道術を使っているのは誰だ?」
「あいつだよ」
城の前に重騎兵アロットの前で一人、黒い影を放って抑えているローブ姿の存在がいた。その内、城門から黒い騎士が現れる。黒騎士は剣を抜くと振り下ろした。凄まじい陰のエネルギーの斬撃が放たれて、動く骸を一瞬で大勢を切って動かなくした。
「あのアロットは陰の剣術を使うのか」
郭威が驚いていた。同じ大陸の世界でも知らない存在のようだった。
「とりあえず、ここは我々に任せろ。人間共はレッドドラゴンを守れ」
そう言うと白李は相反するはずの郭威を掴んで黒騎士の方に向かった。白亜は桔梗と永久と共に最も高い山に向かおうとした。
「まずは老師に会うのが先だ。大丈夫、奴らは簡単には辿り着けないさ」
噛亥の言葉に3人は顔を見合わせて従うことにした。しかし、彼は永久と桔梗に手で制した。
「君達は仙道界に行けない。申し訳ないが、北の森の町に向かってくれ」
そういうと呪禁道士達を置いて、仙道術で手を天に向けて地に付いた。すると、地から雲を発生させた。それに乗って2人は天に向かって上がっていった。
上の次元である仙道界に何故か白亜も行くことが出来た。
「君はルーラーだろう。摂理から外れた存在は受肉していても仮だから上の次元に行けるんだ」
空に浮かぶ山脈の1つに行くと1つの館、星破庵の前に辿り着いた。
小さな弟子が姿を見せると、無言で白亜に小さな瓶を渡した。
「それは仙薬で仙術を使用出来る体になれます。そもそも、全ての根本である真理を持ち理解して使役出来る貴方は、仙薬が効くはずです」
仙桃から作られた仙薬を飲むと体に気が徐々に湧いてきた。
「しかし何故、あの次元から仙道界に来れたんですか?」
白亜の質問に噛亥はため息をついた。
「今頃ですか…」
噛亥は咳をして口を開いた。
「あの時、あの次元は素人に作られた場所だから気が存在しないとカードを使っただろう。でも、大陸には結界も張れるし術を使えたのはご存じでしょう。そう、あの大陸は数年単位で次元を超えるだけでなく、仙道界の下界である玄界の性質も持っている。つまり、玄界に属しているんだ」
さらに噛亥は続ける。
「そもそも、全次元を漂う浮遊島の欠片が多く玄界の大陸の1つに多く含まれたことがきっかけなんだ。だから、浮遊島とは違って玄界の質を持っているんだ」
すると、白亜は目を丸くした。
「じゃあ、別の次元に来ている時はその次元から仙道界に登れるんですね」
「そう、だから今は大陸を通じて君の次元と玄界が繋がっているとも、あの大陸は別次元を繋げるワープ装置と言える」
星破庵の右の部屋に入ると老人が食堂の椅子から立ち上がってまじまじと白亜を見た。
「呪禁道を少しは習ったようだな。基礎は出来ているようだが、あれは鬼道術に近いが陰陽道に近いから大丈夫だろう。来なさい」
老師について近くのお堂に渡り廊下から入っていった。
「まず、知識を得なければな」
お堂には長身痩躯で剣を杖にする青年がいた。
「阿茉、後は頼んだ」
「御意、皇延老師」
老師は本堂に戻っていった。阿茉は巻物を渡すと席に着くように言って、説明を始めた。
「術の使用の際に最初は霊札を使う。最近は特殊な気筆紙が使われていて、紙に気を込めて指でなぞるだけで文字が浮かぶようになる。さらに気を同時に込めるので記述するだけで力が入る。書く文字によっても使い方や枚数でも術式が変わってくる。術は文学であり数学であり歴史でありあらゆる学問である」
話は延々と続いた。
座学が2週間もぶっ続けで続いた。
術の練習が始まってからは1か月掛った。だが、地上では1日しか時間は進んでいなかった。
たったこれだけの時間だが、既に仙道術は噛亥を超えていた。
「老師、ありがとうございました。最後に鬼道についても少し教えて欲しいのですが」
「確かに相反する事柄も手にするとさらに力を使える。しかし、今の君には必要はない」
お札をさっと天に舞わせると自分の周囲八方の空中に浮かす。腕を伸ばして手を前に出す。パチンという音と共に凄まじい光が放たれた。
「アルファオメガの代わりになるな」
噛亥はお札を書いて投げて刀印をそれに向けた。札から陽の気の力が放たれた。しかし、簡単に八方の札が弾いて消滅させた。
「じゃあ、行くか。師匠、今までお世話になり感謝します」
「おう、達者でな」
八方の札は回り出して徐々に円を広げて、白亜と噛亥を囲み2人を転移させた。しかし、次元まで移動することは出来ず、星破庵の門の外にいた。
「八卦陣はもう解いていいのでは?」
噛亥は指を鳴らすと簡単に白亜の周りの札が燃えてしまった。唖然としてすぐに振り向いた。
「まさか、そんなに簡単に破れるとは。さっきは老師の前だから花を持たせてくれたのか」
すると、笑いながら言った。
「否、仙神の力を借りたんだ。仙道術は自分の力と仙道の術式で術を使うけど、魔道は魔に属する者の力を借りて使用する。それと同じ術式を使ったんだ」
そして、目を細めて低い声で言う。
「これは君には使えない」
白亜は笑いながら言う。
「仙神の力を借りないといけないからだからね」
そう言うと噛亥は2人を地上に戻した。
6
海岸に戻ってきたら、白李と郭威が目の前に現れた。
「遅かったな」
白李はそう言って視線を山の方に向けた。
「兵士達も山に向かったぞ」
そして、郭威が次に口を開く。
「あの黒騎士は鬼道術を用いていた。どうも、王国の人間じゃないようだぞ。たまたま、あの国にいたので出てきたらしい。で、あの海からのゾンビは黒騎士の同門の者の仕業らしい。だから、片を付けたのだそうだ」
そこで、噛亥は言う。
「確かに死んだ直後は死後硬直がまだだし、水死直後だからな。死後硬直の死体を扱うと白亜の次元で言う『キョンシー』のように体が固まって膝や肘が曲がらないからな」
「魂のない遺体を操ることが可能なのか?」
白亜は真剣な顔で郭威に聞いた。
「鬼道なら初歩だよ。ただ、あんな意味のないことを何故やったのかは分からない」
山の方を睨んで噛亥が言った。
「鬼道で魔の存在を止めようとした奴がいるんだ。黒騎士もそれに従っているようだ」
そこで白亜がふと思った。
「仙神がいるなら鬼神もいるってこと?」
全員は顔を見合わせて目を皿のようにした。
「そりゃそうだろう。他に次元も同様だと思うぞ」
とにかく、彼らはレッドドラゴンを守る為に魔王信仰の連中を追うことにした。
王国の裏には森が広がっていたが、その奥に町が点々としていた。だが、その森には奇怪な気配が漂っている。
「竜道が通っているが、妖魔がそれを利用してトラップを作っているんだ」
白亜は首を傾げる。
「妖魔というのは鬼のようなもの?」
「まあ、呪禁道の霊や鬼のようなものと考えて良い。それよりたちが悪いが」
郭威がそう言うと白李を見た。
「とりあえず、我は廟に戻る」
そう言い残して、去っていった。
「俺もお役御免だな。あいつらには何も出来ないさ」
そう言って郭威は姿を消した。
「で、どうするんだ?」
白亜が噛亥に尋ねる。
「勿論、レッドドラゴンを守るさ。その為に君の仲間がいる森の先の町に行こう。そろそろ着いている頃だろう」
森の中に向かって進むことになった。
足を踏み入れると凄まじい陰の気が襲ってきた。
そこで白亜はアルファオメガを発揮して溜め始めた。
「これから、必殺技の準備をするから、その間に守って下さい」
白亜の言葉に噛亥は無言で頷いた。
急に霧が立ち込めてきたが、噛亥は腕を横に振りながら指を鳴らした。霧が晴れて黒衣の道士が姿を見せる。
「向こうは兵士と森の民が争っている。今は鬼道、仙道と言っている場合ではない。ともにレッドドラゴンを守らないか」
しかし、信用できない噛亥は一瞥してそのまま進むことにした。黒衣の道士は姿を消すと瘴気が発生してきた。
「古神代の森の民がテリトリーを侵されて攻撃を開始しているんだ。森を諦めて空からいこう」
噛亥の言葉に白亜は頷いて白亜は足にアルファオメガを集めて高く飛んで森を越えようとした。噛亥は雲を発してそれに乗って白亜を受け止めた。
「普通に空から行っても森の先に行けない。危険だが森の西を回っていこう」
そこは荒れた土地であるが、狂暴なビーストが動き回っていた。
空を飛ぶビーストが攻撃をしてくるが、白亜は仙道の結界術を使って防御をしながら進んだ。
すると、魔道族の1人が現れた。
「魔神様の復活を邪魔する者は許さん」
そこで、彼は魔を召喚して自分の体に降ろし、魔人と化した。
凄まじい暗黒の電撃を放った。
しかし、噛亥は簡単にそれを目を瞑って刀印をして、電撃を弾いた。
次に魔人は呪詛の言霊を放つ。それも噛亥は短剣を出して鏡のように相手に向ける。呪詛返しで魔人は苦しみながら地に伏せた。
白亜は封印の札を放って魔人から魔の属性を排除して人間に戻した。
そこで、白亜は道術で敵の体の動きを止めた。
「い、命だけは助けてくれ。俺は家族を魔神教に人質に取られて力を貸していただけだ」
噛亥は指を鳴らして炎を発して札を出すと、それを彼の額に付ける。その上で先ほどの言葉の真偽を尋ねた。
「だから、たった一人の弟を人質に取られているんだ。無理やり魔に属する存在を入れられて魔人として操られてる。今も、大神官様とレッドドラゴンに向かっています」
すると、噛亥は振り返って白亜に言った。
「彼は本当のことを言っています」
「当然、分かっているよ。その術も学んだよ。それに鬼術も」
そこで地面を見て言った。
「この時空移動大陸は今、気が使える噛亥の世界を乗っけているんだよな。すると、その土や岩も同様の性質があるということになる」
彼はそう呟いて手ごろな岩を数個拾って革袋に入れて持っていくことにした。
解放された敵は口を開いた。
「私は魔術師ファン-F-ニールです。もう、敗北がばれていて魔の力を借りれないので、魔法は精霊魔法しか使えないですが力を貸します。どうか、弟を助けて下さい」
噛亥と白亜は同時に頷いた。
森を抜けようと空を飛ぶのは敵に見つかるリスクがあるので、今度は足で森を越えようとした。しかし、森の民に周りをすぐに囲まれた。その先の森の空き地ではバルと森の民が戦っていた。
「向こうの兵士はあの海辺の国の?」
白亜の質問に噛亥は首を横に振った。
「その奥の平地の帝国のバルだ。海辺の軍隊を国境に入るのを止めようと出てきたんだろう」
「じゃあ、あの森の民は僕たちをどうしようとしている?」
噛亥は微笑んだ。
「君が思っている通りだ。捕縛だよ。誰もが自分のテリトリーに入られるのが嫌なんだ。この世界は神経質な者ばかりなんだな」
「ここは任せて君達は先に行け。封印も呪いも効かないから我に任せていけ」
噛亥の言葉に頷いて白亜はファンと一緒に先に進むことにした。
素早く駆けて森を抜けると広大な草原が広がっていた。そこにバルが進行していた。
「あれは海の国の?」
そこでファンが口を開いた。
「山の公国のヴォロート(軍隊)です。彼らは魔王教団と戦っているようです」
すぐに3人の魔王教徒は6ものヴォロートを殲滅した。残ったヴォロートが白亜の方に逃げてくる。そこで何故か、白亜とファンに刃を振るってきた。
「何をする?」
白亜は8枚の札で結界を張った。ヴォロートは見えない壁に阻まれて進めなくなった。当然、剣も通じない。
「そこにいるのはあいつらと同じ服、仲間だろう」
ファンは元教団のメンバーだった。
白亜は今の彼らに説得するのは不可能と判断して、凄まじい巨大な炎の弾を放った。ヴォロートの10数名は吹き飛ばされた。
エルスセーバーを構えると凄まじい速さで敵の攻撃をかわしつつ鞘のまま振るっていった。鞘のままといっても金属の棒を強く急所に打ち付けるので、命は助かっても怪我はけして軽くなかった。重傷のまま倒れていった。
肉体強化ではなく流れるような剣技であり仙術であった。
ヴォロートを全て倒して魔王教団の元に行くと、そこで追手がいて対峙していた。
「あれは聖に属する者の力を借りた聖騎士か」
白亜がそう呟いた。
聖教団が騎士を遣わして魔王復活を阻止しようとしたのだろう。その背後には鬼術師が2人阻んでいる。海から死人を操っていた連中だと推測した。彼らは魔王教団からレッドドラゴンを守っていたのだ。
そこに黒騎士が現れて裏切りの2人に攻撃を始めた。
「カオスな現場だな」
そう呟いて白亜は指笛を吹くと地面から光を放つ。2人の教団の魔人は動きを封じられた。
残る邪神官は先に行ってしまった。
ファンは鬼術で幽世の扉を顕現させた。
「ダメだ」
白亜は地獄の門を手で制して指を振って幽世の扉を消した。
「少しの力で簡単に簡略鬼術の術式で幽世の扉を消してしまうとは、流石ですね」
少し先に行くと町が見えた。桔梗と永久を探して町に飛び込みながら白亜はアルファオメガを溜め始めた。
町で聞き込みをして呪禁道使いが山脈の方に向かったことが分かった。
山脈にドラゴン種が存在すると聞いたからだ。それがつい最近に舞い降りたというので、次元を超えてきたと考えらる。
ドラゴンの呪いを受けた桔梗なら、ドラゴンの能力を持っているし二重にドラゴンの呪いを受けることもないはずである。
しかし、ドラゴンと戦っていてこの日数を過ごしているということは、元気でない可能性もある。1日以上戦っているとは考えにくい。
そこで、白亜とファンはドラゴンの噂のある山脈の祠に向かうことにした。レッドドラゴンとのつながりが疑われたのだ。
7
ドラゴンの洞窟に向かうと、山からブラックドラゴンに乗った桔梗達に出くわした。話によるとそれは破壊龍ランドロースというドラゴンで、さまざまな次元を渡り歩いていたのだった。目的は一族の中に劣種の眷属がいて、退化の聖武具によって龍人となる為に旅している存在がいてそれを追っているのだそうだ。
「桔梗達はそのドラゴンに付き合ってくれ。こっちは任せてくれ」
そういうと白亜は光の天使の姿になって宙に浮いた。すると、そのまま凄まじい速さでレッドドラゴンの方に向かって飛んで行った。
羽根は形を留められずに揺れている。
最高峰の山に辿り着くと、魔人と神官が既にレッドドラゴンの封印を解いていた。封印石は割れていて、ドラゴンはカルデラの奥に鎮座していた。その上に魔王が存在している。
「魔王の復活をさせるか」
白亜は光の剣をふるう。しかし、魔人がそれを弾いた。
「邪魔をするな」
無力の状態でグランドブラスターを打ってあの強力な攻撃である。全力の光の姿で打てば、魔王でさえ簡単に倒せるであろう。
魔人もろとも魔王をグランドブラスターで倒そうとした。
「グランドブラスター」
光の剣を思い切り振り下ろした。
魔人は光の粉と消えた。魔王に向かった光の攻撃は神官に阻まれた。
「残念だったな…」
神官はそのまま消滅した。全ての力を使い果たした状態の白亜の前に復活した魔王が下りてきた。
「これで形勢逆転だな」
その言葉に白亜は微笑んだ。
「切り札は最後まで取っておくものだ」
噛亥から以前にもらった札を取り出して、そこから封印されていた予め溜めていた白亜のアルファオメガを発揮させて体にまとった。そこで光の天使の姿になった。
「これで形勢逆転だな」
魔王の言葉をそのまま白亜は返した。
さっと背後に回ってすぐにグランドブラスターを放った。魔王は完全な力の白亜の全力の攻撃をまともに食らって再び力を奪われて受肉もなくし、弱ったまま上の次元に帰っていった。
8
残ったレッドドラゴンに最大の封印の仙道術を込めたエルスセーバーを放った。すると、噛亥が後から姿を現して封印石を仙道術で元に戻した。
レッドドラゴンは白亜の放ったエルスセーバーに封じられて元に戻った封印石に刺さった。
「ありがとう、これで全て解決だ」
白亜がそう言うと噛亥が首を横に振った。
「まだだよ、君という存在は危険なんだ」
そして、紙の札を白亜の周囲に浮かせた。
「それは封印のまじないだ」
白亜はそれでも微笑む。
「君は僕に叶わないよ」
噛亥は鼻で笑う。
「戯言を言うな、もう今日はガス欠でアルファオメガは使えないだろう。それとも、仙道術で戦うかい?兄弟子に叶うとでも思っているのかい」
「兄弟子さん、何か忘れていないかい?レッドドラゴンは時間を逆行させるんだよ」
「復活させた力は魔王に…」
そう噛亥は言いかけて白亜が持つ木札を見て口を閉ざした。そう、魔王の為に使った札のアルファオメガも戻っているのだ。
木札で力を回復させて光の天使の姿になった白亜は光の剣を噛亥に向けた。
「そうはさせるか」
彼は白亜の念珠を狙って鬼道の光の矢で放たれた。すんでのところでかわして白亜が言う。
「これは封印でもあるんだ、やめろ」
「嘘はよせ、本来から出せない力を出す道具だよね」
「いや、そうじゃない。30%から80%の間に力の出力を保つ道具だ。これを壊せば、80%に抑えていることが出来ずに暴走する。イサイアス以上の力が制御不能になる」
「そんな嘘を信じるかよ」
凄まじい仙道術の力を放たれた。霞で移動しつつ攻撃をかわしつつ右手の念珠を壊した。石が零れ落ちると、白亜は凄まじい光に包まれた。小さな台風が生まれたように山脈全体にエネルギーの渦に巻き込まれる。
噛亥は近付くどころか仙道術さえ使えなくなり吹き飛ばされた。
次元が崩れ始めたその時、イサイアスが姿を現してバーサーカーと化した白亜の右手に新しい青い念珠をはめた。すると、暴走は終わって白亜は気を失った。それを抱えてイサイアスは次元の彼方に消えて行った。
エピローグ
白亜がいなくなり、仲間片が付いた後に元の島に戻って行った。
ボロボロになった次元浮遊島で噛亥はため息をついて最高山の山頂で遠くを眺めていた。
結局、白亜の言う通りであった。自分のやったことは正しかったのか考えし続けている。
完
この後の話を考えて、その話の下準備、布石として作成しました。