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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いっぱい喰べる君が好き~俺の彼女は俺の料理でガッツリ胃袋を掴まれている~

作者: 三氏ゴロウ

いちゃいちゃするカップルの話を書きました。

「んふぅ~。美味しい」


 俺の彼女――飯島タガメは良く食べる。それはもう本当に良く食べる。

 けど、俺はいっぱい食べるタガメが好きだし、美味しそうに料理を食べるタガメも好きだ。

 幸い食費は掛からない。いいことづくめである。


「今日も美味しかったよぉハル。やっぱりハルの作ったご飯が一番美味しい!」

「そう言ってくれると彼氏冥利に尽きるよ」


 空になった大量の皿をキッチンに運びながら、俺は答える。


「いやぁ、幸せだなぁ私。ハルと出会えて」


 タガメは伸びをして、幸せそうに目を瞑る。


 彼女と出会いは今から一年ほど前にさかのぼる。

 バイト帰り、気分転換にいつもとは違う道で帰ろうと思い、河川敷を歩いていた所、食事をしていた彼女に出会った。


 月光に照らされ、口元が食事によって汚れていた彼女を目にした俺は、日常と非日常が曖昧になるような感覚に陥った。

 そして同時に、そんな彼女に……見とれた。


『ねぇ、どうしたの?』


 すると、彼女の声で俺は現実へと回帰する。


『い、いや……あの……なんていうか……』

『ん?』

 

 最初は何と言えばいいのか、戸惑った。

 なにせ俺はこの時まで女性経験など無く、気の利いたセリフなど浮かぶわけも無い。


『き、綺麗だね』


 だから俺の口から発せられたのは、どこまでもありきたりで、誰でも思いついて、誰でも言える常套句じょうとうくだった。


『……』

  

 精一杯絞り出した平凡に、彼女は固まった。

 お世辞にしても、あまりにも陳腐だと思ったんだろう――あの時は数秒前の自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られたものだ。

 

 だが、俺の予想は見事に外れた。


『……そんなこと言われたの……初めて』

『え……』


 彼女は頬を赤く染め、熱のこもった視線で、俺を見たのだ。


『ねぇ、名前は?』

『あ、あぁ。志崎しざき、ハルだけど』

『私は飯島いいじま、飯島タガメ』


 互いの自己紹介が終わり、次は何を言おうか……そう考えた俺は、彼女にある問いを投げることにした。


『ねぇ、お腹すいてる?』

『うん』


 即答だった。先程までのロマンチックな雰囲気が若干薄れるレベルだ。


『でも、どうしてそう思ったの?』

『そりゃ、そんなの食べるからさ』

『あぁ。でも、結構美味しいんだよ? 君も食べる?』

『うん! って言いたい所だけど、遠慮しとくよ。俺、身体弱いから』

『ふ~ん』

『じゃあさ。俺の家で、ご飯食べる?』

『え!? いいの!?』


 俺の言葉に、タガメはあからさまに上機嫌になった。


『うん。俺、料理の専門学校通っててさ。料理の腕はそこそこあるよ』

『行く! あ、そうだ……じゃあこれも料理できる? 同じ味ばっかで飽きちゃってさぁ』

『勿論いいよ』


 二つ返事で俺は快諾した。

 見たことのない食べ物だが、調理の基本はとんた物にでも通ずる。

 きっとできる。


 こうして、どこか奇妙で、けれどそれ以上に魅力的な彼女との同棲生活が始まったのである。



「そういえばさぁ、ハル」

「ん?」

「ハルはどうして料理の専門学校なんて行ってるの? やっぱり料理人になりたいから?」

「はは、まぁ普通はそう思うよね」

「てことは違うの?」

「うん。俺ってさ、肉とか血とかに対して、何の感情も抱かないんだよね。だから食材に感謝とか言われても、良く分からなくって。ならせめてちゃんと作ろう、ちゃんと美味しくしようって思ったんだ。簡単に言えば、行動で示すってことだね」


 洗い物をしながら、俺は答える。


「え、でもそれって普通じゃない? 料理する人って、そこら辺マヒしてるでしょ」

「偏見がすごいな。ちゃんと食材に感謝する人もいるよ」

「全員じゃないんだ」

「言葉の上げ足を取らないの」

「はーい」


 ふかふかの座椅子に座りながら、タガメがテレビをつける。

 するとちょうどニュースがやっていた。


『続いてのニュースです。T県A市の廃ビルで、分解された人間の遺体が発見されました。検視の結果、遺体は連続失踪事件に巻き込まれた早風はやかぜサトルさんのものと判明したそうです。今回の件を受け、警察は捜査網を拡大、連続失踪事件で姿を消した他五名の捜索に尽力するとのことです』


「ふぇー、大変だねぇ」

「うん。そうだなぁ」


 タガメの座っている座椅子に割り込み、俺は彼女を膝に乗せ、一緒にテレビを観る。


「どうしよっか?」

「やっぱりもっと細切れにバラして海に捨てるしかないかな。手間が掛かるからあんまりやりたくないんだけど。タガメ全部食べてよ」

「えー、無理だよ。残してるのは食べられない部分だもん」

「んー、そうか? 骨はすり潰せばふりかけとか、みそ汁の具になったりすると思うけど」

「あ、確かに! ナイスアイデアだねハル」

「だろ?」


 俺とタガメは顔を見合わせ、笑う。

 この笑顔のためなら、君が俺の料理で笑ってくれるなら、それでいい。

 心の底から、俺はそう思った。


 さて、次は彼女のために何を作ろうか。

 

 ――人肉の扱いにも、ようやく慣れてきた所だ。

いかがだったでしょうか。

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