第八十三話 神話
かつて、地上では、人族・獣人族・妖精族・魔族が争っていたのだと云う。
それに胸を痛めた神々が、或る日、降臨したのだそうだ。
全種族を罰するために。
これを崇拝する集団が“天神教”である。
世界を治めようとする神々に抗いし者たちが、長きにわたって、今も尚、各地で激突している。
〝神は、救済であり、天罰であろう筈がない〟
〝生きとし生けるものを滅ぼそうとするは、真の神に非ず〟
というのが、主な理由なのだとか。
ある者たちは、 “八百万教”なるものを設立した。
それが、大巫女たちの団体である。
詳しくは、かなり昔の先祖の代に誕生した宗教だが…。
これと同じ時代に誕生したのが、“光聖教”である。
創造主を崇めているビショップなどの“一神教”だ。
幾つかの宗派が存在しており、クレリックなどは〝多神ではないか?〟との疑問を呈している。
他にも、エルフの“輝精教”や、ドワーフの“霊崇教”があり、どちらも精霊を信仰しているが、細かくは違うらしい。
獣人族は、“百獣教”である。
一方で、“無神論”の者たちもいるのだそうだ。
各種族に。
なかでも魔族は、“神”を忌み嫌っているらしい。
「この世界を支配しようとしている神々の正体は、残念ながら不明です。」
軽く首を横に振った大巫女が、
「八百万教においては、〝本当の神々は、宇宙を旅して、いろいろな世界を救って回っている〟のだとか。」
「〝やがて、我々の世界も救済しに来てくださる〟との、伝承でございます。」
と、締め括った。
ここまで聞き終えたタイミングで、紫蓮の左斜め後ろの襖が〝スゥー〟と開き、
「失礼します。」
「“忍者マスター”様の使いの方が、お見えです。」
猫の半獣が伝えたのである。
「あら、清虎さんに続いて、成蔵さんまで…。」
「いいでしょう。」
「お通ししなさい。」
そう促す大巫女だった。
紫蓮が右にズレる。
この左隣に、円形の座布団が新たに置かれた。
広間に入ってきたのは、身長158㎝ほどの女性だ。
黒色を基調とした“忍び装束”を纏っている。
背中あたりまでの長さがある黒髪を、ポニーテールのように束ねている彼女もまた、紫蓮と同じ年頃のようだ。
空いている座布団に〝ちょこん〟と正座した“くノ一”が、書状を取り出す。
それを、先程のように、受けと立った巫女が、大巫女に渡した。
手紙を閲読した大巫女が、
「事情は分かりました。」
「ただ…、御宮の者を、あなたの旅に同行させるというのは、いささか了承いたしかねます。」
「そこで。」
「こちらの、お侍さんは如何でしょうか?」
と提案したのである。
意味不明の状況に、訝る紫蓮であった―。




