第七十四話 トゥーサー国にて
全長2.5Mの黒い龍である“新羅”との出会いから、およそ一週間が経っていた。
時折、襲ってくる魔物や賊を倒しながら旅してきた紫蓮らは、[オゥスミー国]の最東に在る街に訪れている。
武装は解除しているようだ。
紫蓮の頭上1Mほどの所に浮いている新羅が、
「ほぉう、ほぉう。」
「これが、人間の街か。」
「う~む…。」
「なんとも不思議なもんじゃのぉ。」
〝キョロ キョロ〟しつつ、瞳を輝かせていた。
それなりに発展しているこの町は、石造りや木造の建築物が並んでいる。
人や獣人などの往来も、なかなかのものだ。
[トゥーサー国]との国境までは、2日ほどの距離のため、多くの行商が立ち寄るそうで、割と潤っているらしい。
大通りを歩きながら、
「ご主君、まずは、宿を探しますか?」
窺う権蔵に、
「そうだな…。」
「そろそろ日が暮れそうだし、宿泊先を見つけてから、夕食にするか。」
紫蓮が返したところ、
「人間が作る、ご飯、美味。」
来夢が、両手で、軽くガッツポーズした。
そもそも、スライムに味覚は無い。
しかし、来夢は進化に伴い味を感じるようになったみたいだ。
一方で、痛みや気温には鈍感なままになっている。
なのに、人間のような服装をしているのは、オシャレの一環らしい。
ある程度は知能が発達したモンスターに、ありがちな傾向との事だ。
宿を取った紫蓮たちは、近くの料理店に来ていた。
長方形のテーブルに配膳された肉や魚などの、ご馳走を食べながら、
「うむ!」
「来夢の言うとおり、どれもこれも、我の舌を唸らせおるわいッ!」
新羅が満足そうにしている…。
街を出発した1日後には、“砦”が見えてきた。
この側を通過して、更に1日が経ち、現れた関所を越えていく。
紫蓮らは、その2日後に、トゥーサー国の西端に位置する“城塞都市”に赴いていた。
ここのギルドにて、紫蓮がクエストをチェックしている。
金銭的には未だ問題ないものの、先々のことを考えて、出来るだけ稼いでおきたいようだ。
新羅も加わったことだし、今後も新たなサーヴァントが増えるかもしれないので。
「よし、これにしよう。」
紫蓮が請け負うのは、〝森を占拠したミノタウロス〟だ。
なんでも、この街の南東に在る森林を、5日ぐらい前から、一体のミノタウロスが押さえたとの事だった。
その所為で、キノコの収穫や、狩猟などが出来ず、困っている人々がいるそうだ。
ちなみに、この森にはモンスターも生息しているので、立ち入る際には、冒険者を雇っているらしい。
その傭兵たちがミノタウロスを駆除しようとしたが失敗に終わり、その後は何度か兵士などの討伐者を送り込んだのだが、誰も帰って来なかったのだと…。
これに決めた紫蓮が窓口での手続きを済ませた流れで、
「一つ知りたいんだが…、この国の“大巫女”には、都の何処に行けば会えるんだ?」
と、質問した。
[ヒーゴンの総帥]に聞きそびれていたので。
「はぁ。」
「……、会えるかどうかは分かりませんが、首都の“御宮”で生活しておられますよ。」
20代後半の受付嬢が笑顔で答えてくれたのである。
「そうか。」
「ありがとう。」
礼を述べた紫蓮は、サーヴァントらと共に、ひとまず、“南東の森林”へと向かうのだった―。




