第三十八話 友、なのか?
野営地で、テントを張り終えるなり、早速、鍛錬が開始されていた。
そこに、保次・ヴォニー・ラル・バンヌが訪れたのである。
「おおッ?!」
「こんな時にまで稽古しているのか?」
と驚く元班長に気付いた紫蓮が、
「どうした?」
「なんか用か??」
と、質問した。
これに、リスの半獣であるラルが、
「別にぃ~。」
「ただ、紫蓮くんや、来夢ちゃんに、権蔵くんは、元気かなぁ?って、様子を見に来ただけだよ。」
〝ニコッ〟と笑みを浮かべたのである。
両手を広げて、
「ちっよ(千代)さぁ~んッ!」
と駆け寄ろうとする犬の半獣のバンヌを、褐色肌のヴォニ―が無言で〝ドンッ!!〟と蹴り飛ばす。
「相変わらずみたいだな。」
と、呆れる紫蓮に、保次が、
「なんか人が増えてるな。」
「お前の友達か?紫蓮。」
と尋ねた。
「ん?ああ…、彼らは総帥の孫だ。」
と、紫蓮に告げられ、
「ソウスイ…、て、ことは、清虎様の…。」
〝ハッ!〟とした元班長が青ざめながら、慌てて、
「大変、失礼いたしました!」
と跪き、ラルたちも急ぎそれに倣う。
永虎に、
「いいから、楽にしてくれ。」
と、言われるも、
「そうはいきません!」
と保次が恐縮した。
「いいったら、いいのよ!」
「あなたの言う通り、私たちは紫蓮の友人なんだから。」
と、述べる幸永歌に、紫蓮が、
「えッ?!」
「そうなのか?」
と驚く。
これに、幸永歌と凛琥が、
「違うのッ?!」
「友達として認めないという事か!?」
と、詰め寄る。
更には、永虎が、
「少なからずショックだ…。」
と呟き、永美香が〝じ――ッ〟と冷たい視線を送ってきた。
「いや、そうじゃなくて……。」
「お前らが、それで良いんだったら、俺には何の文句もねぇけど…。」
と、返した紫蓮に、4人が、
「最初っから素直にそう言いなさいよね。」
「まったくだぞ、紫蓮!」
といった具合に、〝うん、うん。〟と頷いたのである。
それぞれが立ち上がった後に、ラルとヴォニ―が、
「なんだか、紫蓮くんが更に遠い存在になったような…。」
「確かに。」
と軽く戸惑う。
「また差を付けられたようだね、班長。」
と、イジるバンヌに、
「そりゃ、お前もだろッ。」
と保次がツッコんだ。
狼の獣人であるフーリィが、
「ボーッと突っ立てるぐらいなら、一緒にどうだい?」
と、声を掛け、
「いいんですかぁ?」
とラルが瞳を輝かせる。
「僕は、遠慮しとこうかなー。」
と、視線を逸らしたバンヌの背中に、ヴォニ―が〝バチンッ!〟と右の平手打ちをくらわせ、
「なに言ってんだ!」
「せっかくなんだから、参加させてもらうよッ!」
と促す。
「うぅ~ッ。」
「なんとかしてよ、班長。」
と、涙目で助けを求めるバンヌだったが、
「……いや、またとない機会だ。」
「皆さんの胸を、お借りしよう。」
と真顔の保次に却下されてしまうのであった―。




