第三百十五話 防衛戦・其之拾陸
“第一魔王子 ハールストー”の軍が、西の国境付近で[北陸第五神国]の第二陣を打ち負かした3日後。
夕刻に、味方の[南方領]へと北上してきた兵どもがいる。
その数、およそ400万。
あちらも魔族ではあるが、予てより反旗を翻していた連中だ。
第一魔王子達が西に赴いている間に進軍してきたのである。
対して、こちらは約150万。
敵にしてみれば余裕で勝てそうなため、大半が軽んじてるみたいだ。
一方で、ある懸念を抱く者らがいた。
〝何故むこうは集結しているのか??〟〝こちらの動きを事前に把握しておかなければ無理だろうに?〟と。
その疑問は、実に正しい。
ヤツラの所にも魔王派が居て、表向きは反対派として暮らしている。
でないと、非国民として危害を加えられかねないからだ。
こうしたなかで、秘かに[ブレスレット]を用いて旧知の者に教えてくれた魔族が何十名かいたのだった。
そのため、ここ南方領の[国界]に兵隊を集めることができたのである。
とは言え、相手の数的有利に変わりはない。
よって、北進してきた400万の連中は、自分たちが負けるなど微塵も思っていなかった。
あちらに“女魔将軍”の率いる250万が到着するまでは…。
翌朝。
ハールストーに連絡が入る。
彼らは、[第五神国]が新たに攻め込んでくるかもしれない事を警戒して野営を続けていた。
何はともあれ。
魔将軍によって戦勝報告がなされる……。
更に2日が経った。
西では、第一魔王子軍が、新たに、300万の敵兵と睨み合っている。
宙に浮き、[手持ちの望遠鏡]を覗いていた“第四魔王子 イリィターン”が、
「やはり、か。」
このように呟く。
そこから、【亜空間】に望遠鏡を仕舞い、平原へと降りた第四魔王子は、
「煌びやかな甲冑を纏って、豪華な椅子に腰かけてるヤツがいる。」
ハールストーなどに伝えた。
これを聞き、
「読み通り、“第五神国の王”が来たか。」
そのように理解した第一魔王子が、
「ならば。」
「いつまで悠長に座っていられるか試してやるとしよう。」
〝ふッ〟と笑みをこぼす。
こうしたハールストーは、
「突撃の合図を。」
側に控えていた家臣に、真顔で指示するのであった…。
いくらか蒸し暑い昼過ぎのことである。
戦の火蓋が切って落とされたのは。
両陣が天と地を駆けだした。
そうして、ぶつかってゆく……。
40分後。
第一魔王子の軍勢が、敵を押している。
相手の指揮官どもは次第に焦りだす。
こうしたなか、最後尾の“女王”が立ち上がり、
「不甲斐なし!」
「余、自ら前線に出でて、蹂躙してくれようぞ!!」
そのように申し渡すのだった―。




