第二百五十一話 人魔妖連合軍・起
北西へと進んだオワ-リン軍は、[南陸第十三神国]の南東に位置する“要塞都市”を包囲している。
それなりの規模のため、1万人ぐらいが生活していそうだ。
ただ、オワ-リン側は約400万なので、打つ手のない敵は籠城を選んでいた…。
二日目の朝のことだ。
要塞都市の最高責任者らが、オワ-リン陣営の[作戦本部]に訪れたのは。
テント(ゲル)内にて、三人の男女が跪いている。
代表は50歳くらいの華奢な男だ。
オールバックで七三分けの髪と、鼻髭は、黒い。
肌が白く、瞳はグレーだ。
彼の後ろには、40歳ぐらいの男性と女性が控えている。
要塞の最高責任者たる男が、
「我々はオワ-リンに降伏いたします。」
こう述べた。
テーブル椅子に腰かけているルリィザが、
「決断が早いですね。」
「何か裏があるのでは?」
無表情で問う。
彼女は“ラーザの叔母”である。
「いえ、ございません。」
「ただただ〝素直に諦めただけ〟です。」
そのように男性が返したら、やはり椅子に座っているラーザが、
「と、言うと??」
首を傾げた。
ちなみに、“オワ-リン次期国主”の背後には[近衛衆]が佇んでいる。
「実は……。」
「昨日、“東の軍港”に向かっている知人に連絡を取りました。」
「その軍勢の指揮官に救援を乞うべく、現状を伝えてもらったのですが…、〝王都を目指す〟との方針を定めたのだそうです。」
「つまり、ここ南方を“見捨てる”という事に他なりません。」
「要塞の主だった者で会議を行なったところ、〝もはや神には付き従えない〟との結論に至った次第でございます。」
男の説明を受け、
「……、真偽のほどを確かめようがございませんが、どうなされます?」
将軍がラーザを窺った。
暫し〝うぅ~ん〟と悩んだラーザが、
「いいよ、信じよう。」
笑顔で告げる。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げて感謝する男性達を、
「早速で悪いんだけど、広めてほしい情報があるんだ。」
ラーザが促す。
顔を上げ、
「は??」
〝キョトン〟とした男ではあったが、すぐに〝信頼を得るべきところだ〟と判断したのだろう、
「何なりと、お申し付けください。」
改めて会釈したのであった…。
[東の軍港]に、屋敷が在る。
いや、石造りの“ちょっとした砦”といった表現が相応しいだろう。
この建物内の一室で、
「何?!!」
「〝都に進路を変えた〟だと!??」
ある男神が声を荒げた。
大きさからして“中級”みたいだ。
その神が、
「オワ-リン軍が到達する前に、陛下のもとへ馳せ参じ、自分を売り込む腹づもりか。」
〝ギリィッ〟と歯軋りして怒りを露わにする。
これに“下級の女神”が恐縮しつつ、
「如何なされます?」
判断を仰ぐ。
「……、おそらく、妖怪どもは上陸すまい。」
「魔族もそうだが、連中は、オワ-リンの陽動であろう。」
「となれば、こちらからも50…、いや、100万を王都に送り込んでも問題あるまい。」
「今宵より、闇夜に乗じて、秘かに10万ずつを向かわせるとしよう。」
「最終的には俺も趣く故、軍港は副官に委ねる。」
「そのように報せよ。」
中級神の指示にて、
「はッ。」
お辞儀した下級神が、部屋から去っていく。
そうしたタイミングで、開かれた窓辺に止まっていた“一羽の小鳥”が、何処かへと飛び立つのだった―。




