第二十四話 国境にて
あれから2ヶ月が経過した。
北との国境付近には、ヒーゴン国およそ800万の軍勢が集結している。
午前10:00――。
斥候に放っていた【シーフ】と【アサシン】の4名が、本陣に戻り、
「敵は、隊列を組みながら進軍中で、こちらと殆ど同数にございます。」
「ここに到着するのは、およそ1時間後になるでしょう。」
と、報告した。
これを受けて、総大将である清虎が、
「では、こちらも備えるとするかの。」
「手筈どおり、先陣は“虎政”が務めよ。」
と申し渡す。
「はッ!」
「お任せあれ、親父殿!」
と、答えた男が、〝スッ〟と立ち上がり、幕舎から退席していく。
彼は、国主たる清虎の長男で、43歳の【戦士】である。
背丈は170㎝くらいで、ガタイが良く、肩あたりまでの長さがある黒髪を後ろで束ねていて、鼻の下と顎の髭は〝毛むくじゃら〟であり、見るからに屈強そうだ。
「背後は頼んだぞ、晴清。」
と言う国主に、
「本当に、中心に陣取られるので?」
「父上こそ、最後尾にて構えられるべきなのでは?」
と、窺ったのは、次男であった。
身長は165㎝程であろう。
少し茶色い髪は、腰あたりまで伸びている。
歳は38の優男で、髭は生やしていない。
装備品から察する“魔法使い”のようだが、おそらくは、その上位互換にあたる【魔術師】に違いなかろう。
「冷静な判断で後方支援できるお前の方が、何かと打って付けじゃ。」
「それに…、儂も久々の戦を楽しみたいしのッ!」
〝ニカッ〟と笑みを零す清虎であった。
陣形を整えた軍勢に、清虎による、
「敵の大多数は、我々と同じ人族や獣人に半獣であろう。」
「だが、決して躊躇うな!」
「殺さねば、殺される。」
「儂らが負ければ、この国は奴らに蹂躙されつくすであろうぞ!」
「必ず勝たねばならんッ!」
「皆の衆、覚悟を、勇気を、意地を、底力を、存分に見せ付けよッ!!」
との伝令が飛び交った。
紫蓮たちの班は、無論、軍の中央に居る。
その真後ろには、千代たちや、国主の姿が見受けられた。
武士の甲冑姿である紫蓮は、
ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!
と、聞こえてくる自身の鼓動を押さえられないようだ。
その腰には新調した一本の刀を帯びている。
班長で【侍】の“保次”が、
「何だ、紫蓮。怖気づいてんのか?」
と茶化してきたので、
「そっちこそ、顔が青ざめてるみたいだけど。」
と、返したら、
「俺は別に、その、なんだ…。」
「ま、正直、ビビッてるよ。」
「数年ぶりの実戦だからな。」
と本音を吐露した。
「私もだよぉ、紫蓮くぅ~ん。」
と、口を開いたのは、リスの半獣である“ラル”だ。
それに続いて、犬の半獣である“バンヌ”が、
「僕は、ただただ面倒くさいよ。」
と述べ、褐色肌の人間である“ヴォニー”が、
「今さらどうする事もできないんだから、全員、シャキッとしな!」
「戦って、生き残る以外に、選択肢は無いよッ!」
と、意見していたところ、最前線からの、
「来たぞッ!!」
「敵軍だぁあッ!!」
といった様々な声が、響き渡ったのであった―。




