第二百一話 かの島へ
「して?」
「“ナーガリー”よ。」
「渡航の準備は進んでおるのか??」
[サガーミィーの国主]に問われ、
「ええ、お父様。」
「予定どおり、一時間半後には出発できますわ。」
その娘が答える。
〝ふむ〟と頷き、
「ならば、諸君は、サーヴァントの待つ部屋で寛いでおくがよい。」
「あとで、配下の者を呼びにやる故。」
[GOD SLAYER’S]に告げる国主であった……。
広間にて。
PM13:40を過ぎた頃に、珈琲と紅茶やクッキーなどを配ってくれた給仕たちが、一礼して、退室する。
これを見計らっていたらしい紫蓮が、
「今更だが…、勝手に決めちまって、大丈夫だったか?」
【機工士】のスリアに尋ねた。
「正直、分からない。」
彼女は首を左右に振った流れで、
「もはや、“祖父の手記”とは異なる歴史になっているからな。」
「まず、“東陸第四神国”との開戦が、アタシの知っている時期より早まっている。」
「それに……、この国は、そもそも、鬼王と交渉したりはしない。」
「本来であれば、サガーミィーは、“東陸第四神国”によって滅ばされてしまう。」
「その後、暫くして地盤固めを済ませた神どもが、“妖怪ノ国”を制圧しようと乗り込むも、返り討ちにされてしまうとの事だ。」
そのように説明したのである。
これらに対して、人型になっている黒龍の[新羅]が、
「どういう状況なのだ?」
眉間に軽くシワを寄せた。
そんな疑問に、
「あー、そう言えば、サーヴァント達には、まだ知らせてなかったわね。」
ペイニーが理解を示して、
「実は――。」
これから成すべきことを、伝えていくのだった…。
PM14:55となり、城の“中庭”に主だった者たちが集まっている。
その場で、[サガーミィーの国主]が、
「そなたらの代表に、これを渡しておこう。」
筒のように丸めて紐で縛っている用紙を差し出してきた。
紫蓮が受け取ったところで、
「〝今回の件が上手くいったならば必ず報酬を支払う〟といった旨や、その金額に、我が署名とが、書かれておるので、失くさぬように。」
国主が伝えてきたのである。
「それでは、港に赴きましょうか。」
40代後半ぐらいの女性魔術士を促した[ナーガリー]に、
「頼んだぞ。」
「よろしくな。」
20代と思しき、二人の男性が声を掛けた。
「お任せください、兄上がた。」
笑顔で応えた彼女を、
「何よりも無事を祈っておるぞ。」
「私もよ。」
国主夫妻が案じる。
「きっと成功しますから、心配なさらないで。」
こう述べて、
「……、行って参ります。」
淑女らしく挨拶したナーガリーを中心に、50人の兵士と、[ゴッド・スレイヤーズ]とが、先程の宮廷魔術士によって“瞬間移動”した。
サガーミィーの東端に位置する港には、国が所有する“大型船”が停泊している。
一同は、その船内へと足を運んだ。
PM15:00に、汽笛が鳴り、船舶が動き出す。
こうして、別名[鬼ノ国]を目指す“使節団”であった―。




