第ニ話 生存の行方
両陣営から無数のラッパが鳴り響く。
これを合図に、双方がほぼ同時に突撃を開始した。
敵の先頭はゴブリンやホブゴブリンにゴブリーナで、これにアラクネが続く。
後方には、オークとハイオークや、ミノタウロスに、トロールであったり、ギガンテスなども、見受けられた。
空中には、モスマンにハーピーといった、背中に羽や翼が生えているモンスターたちが飛行している。
ほぼ全員が、銀色で戦士のような甲冑を身に纏っているようだが、武器はそれぞれに異なっているみたいだ。
素手の魔物も少なくない。
敵も味方も関係なく、[スキル持ち]たちが、炎撃や風撃に氷撃などを発動させた。
ゴオォォォッ!
ヒュゥオォッ!
ズガアァンッ!
といった、それらの音が響き渡っていく。
紫蓮たちも敵とぶつかり合うが、戦いに慣れていない者たちばかりのため、一人、また一人と、命を落としていった。
彼は、自身のスキルである【雷撃】を放ち、10分ものクールタイム(リキャストタイム)を待つ間に、刀を振るう。
同郷の人々が死に逝くのを目の当たりした紫蓮は、混乱と興奮によって攻撃が乱雑となり、瞬く間に呼吸が乱れていく。
そこへ、ハーピーの翼から〝風の刃〟が放たれた。
が、
視野が狭くなっていた彼は、それに気付かない。
左からおもいっきり体当たりされて、横倒れになる紫蓮の目に映ったのは、幼馴染の陽香だ。
彼の方を振り向いて、
「生きて。」
と、呟いた彼女の体が上下に切断される。
その血しぶきを浴びながら、目を丸くした紫蓮が、
「う…ッ、うわああああぁああッ!!!!!」
と喚いて、地面に全身を打ち付けた。
「うッ、うぅ…ッ。」
と、呻く紫蓮が、四つん這いになって、陽香に近づき、その亡骸を直視する。
正座した彼は天を仰ぎ、声にならない声で、泣いた。
小1時間後、仰向けになっていた彼は、見るともなく空を見ている。
総崩れになった味方の退却を告げる合図が聞こえてきた。
所詮、寄せ集めの人間たちでは、勝てる筈がなかったのだ。
逃げる第十二軍団を相手に、モンスターによる掃討戦が展開するなか、降り注ぐ雨が次第に強くなっていく。
少し落ち着いた彼が周囲を見渡す。
敵が第十二軍団を追い回しているうちにここから去らねばと判断した紫蓮は、モンスター達に見つからないように離れていく。
その途中で[魔鉱石]を拾って…。
魔鉱石の大きさと色合いは様々だが、基本的には楕円形で、全体は黒く、白色が入り混じっていれば〝風〟の性質を持っており、赤色が入り混じっている場合は〝火〟の性質で、青色は〝氷〟となり、水色はまさに〝水〟で、黄色は〝雷〟の性質で、緑色は〝地〟である。
紫色は〝毒〟で、紫+黄は〝混乱〟となり、紫+赤は〝麻痺〟で、銀色は〝回復と補助〟であり、金色が入り混じっているのは〝進化系〟だ。
ちなみに、白と赤と青が入り混じっていれば、風と火と氷の性質を持ち合わせているという、解釈で間違いない。
なかには、全てが真っ白な魔鉱石もあり、これは〝光〟の性質だ。
これらの魔鉱石は、どうやらモンスターの〝核〟となっているようで、種類によって発動できる能力が異なる。
また、同系統であっても、魔鉱石が大きければ大きいほど、威力を増す。
ただし、茶色は〝無性質=無能力〟となっているそうだ。
何はともあれ、魔族が息を引き取ると、肉体が消滅し、その〝核〟たる[魔鉱石]だけが残る。
そして、この魔鉱石を取引所に持って行けば、その質に応じて、金貨/銀貨/銅貨に変えてくれるのだ。
なぜなら、灯りには〝光の魔鉱石〟を応用し、上下水道には〝水の魔鉱石〟を、調理等には〝火の魔鉱石〟を、といった感じで、日常生活に役立つのと、それなりに質の良い魔鉱石は武器や防具を生産する際に付与素材として使われるから、というのが主な理由である。
この世界の人族や獣人族に妖精族などは、幅4㎝の白い腕輪を手首に嵌めている。
この腕輪の中心には、直径1㎝の丸くて青い宝玉が埋め込まれていた。
右手に装着しているのであれば、その手を左から右へとスライドすれば、厚さ1㎜×縦25㎝×横36㎝の、タッチパネル式の画面が現れる。
左手の場合は、逆にスライドすれば良い。
いずれにせよ、これを操作する事によって、通貨やアイテムの出し入れに、他人との会話などが、可能になるのだ。
一説によると、亜空間に繋がっているそうだが、その仕組みはあまりよく知られていない。
魔鉱石を転送した紫蓮は、取り敢えず最寄りの街を目指した―。




