第十四話 成れの果て
「ラーザ!!」
と、弥太郎たちが駆け寄る。
直径は50M以上で、高さは20Mくらいであろう、いびつな円形の広場にて、倒れ込んでいるA班を、B班たちがスキルやアイテムで治癒していく。
地面から15Mほどの宙に浮いていたソイツが、ゆっくり〝スーッ〟と下降してきて、着地する1Mぐらい手前で〝ピタッ〟と止まった。
その存在に初めて気付いた弥太郎が、
「なんだ、コイツは?!」
と驚く。
身長は170㎝程の人型で、背中から黒くて大きな蝙蝠の翼が生えている。
全身が黒い体毛で覆われており、腰あたりまで伸びている髪の毛もまた黒々としていた。
顔も毛だらけなので表情を窺い知ることは出来ないが、左右の丸い目玉は不気味に白い。
背を曲げ、両腕を前方で〝ダラリ〟とさせている。
性別は、不明だ。
[兎の半獣]であるラットが、
「ワーバットの進化系?ううん、亜種??」
と、首を傾げたところ、【魔法使い】のイザッドが、
「おそらくは、〝成れの果て〟じゃろう。」
との見解を示した。
話は、20分くらい遡る――。
ラーザ率いるA班が、その場所に入ってみたら、10匹のラミア(蛇)が居た。
全身が6Mはありそうなので、見張りだった連中よりも倍はある。
天井からは、50匹にも及ぶコウモリ型のモンスター達が降りてきた。
どれもこれも、縦の長さは1Mぐらいで、翼を広げた横幅は2Mといった感じだ。
広場の一番奥には、高さ4Mほどの岩が在り、その上に[例のワーバット]が無気力そうに座っていた。
ラーザが、
「成程ね。アイツが親玉ってわけか。」
と呟き、【騎士】のバウンが、
「あんな奴、今まで見たことがない。」
「一体、何者なんだろう??」
と、不思議がる。
【アサシン】の秀嗣が、
「いずれにせよ、まずは目の前にいるコイツらを片付けないと、ここの王様には、辿り着けなさそうだぜ。」
と背負っている〝忍び刀〟に手を伸ばしたのだった…。
そして、現在。
回復したA班が立ち上がる。
弥太郎が、
「数が減っているようだが…、アレにやられたのか?」
と、疑問を呈したところ、ラーザが、
「ああ、残念ながら。」
と眉間にシワを寄せた。
[女盗賊]のウィヴが、
「何があったんだい?」
と、訊ねたら、バウンが、
「アイツの部下と思しき連中と乱闘になり、半数近くを打ち取っていったんだけど…。」
「誰かが放ったスキルの流れ弾が、あのワーバットに当たってね。」
「それまで微動だにしなかったアイツが、突如、攻撃してきたんだ。」
「敵味方、見境なく。」
と説明したところ、ラットが、
「えッ?!自分の仲間まで殺しちゃったの?あの化け物…。」
と、いささか引いてしまった。
[鮮紅の豹一団]は、どうやら、2人の人間と、1人の獣人に、3体のサーヴァントが、命を落としたようだ。
敵方は、全滅している。
秀嗣が、
「〝神官〟と〝修道士〟が殺られてしまったうえに、俺たちは身動きが取れずにいたから、回復できなかった。」
「お前たちが来てくれて助かったよ。」
と感謝した。
〝フ〟と弥太郎が、
「そういや、爺さん、さっき、〝成れの果て〟と言ってたみたいだが、何か知っているのか?」
と、イザッドに質問してみたところ、
「昔、人づてに聞いたのじゃが…、神の肉を喰らうか血を啜った魔物は更なる異形に変化するそうじゃ。」
「その際には、正気を失うらしい…。」
と回答した。
これに対して紫蓮が、
「それじゃあ、あの蝙蝠みたいなヤツは、神を負かしたという事か??」
と、尋ねたら、
「いいや、そうとは限らなんだ。」
「例えば…、戦場などで、息を引き取っている神を偶然にも発見し、その血肉を貪ることがあるようじゃからのぉう。」
「あ奴が神と闘って勝利したという確証はない。」
と、返したのである。
ラットが、
「ま、何はともあれ、私たちが合流したからには、このままじゃ終わらせないよ!」
「亡くなった皆を弔らわなくっちゃ、だしねッ!!」
と左右の腕を突き出す。
その、両の掌の前に、直径1M程の〝不規則な水の塊〟が現れた。
「さあッ!ここから反撃だよッ!!」
と、勇むラットを、秀嗣が、
「待て!おそらく、アイツは…!」
と制止しようとするも、それより一瞬早く、10本の[水の矢]が発射されてしまったのである―。




