第十二話 麓にて
広場にて、[鮮紅の豹一団]は、遅めの昼食を摂っていた。
パーティーの輪の中に、新たに加わったゴブリンの姿がある。
その〝権蔵〟の背丈は110㎝程であろう、耳が尖っており、青みがかった黒髪はモヒカン風で、全身が緑色だ。
茶色の麻布で出来た服には、右肩部分が無い。
膝あたりまでの長さがある、所謂[布の服]の腰回りを、紐で縛っている。
紫蓮が、
「そう言えば、前々から気になっていたんだが、ラーザたちが武器でスキルを使用しているのは、俺にも出来るのか?どうやればいい?」
と、尋ねてみたところ、干し肉を頬張っているラーザが、
「あへは、ぶひにふほくひてはるんだ。」
と説明するが、意味が分からない。
幅20㎝×長さ35㎝の皮袋に入っている水で〝ゴキュ ゴキュ〟と食べ物を喉に流し込み、
「あれは、武器に付属してあるんだ。」
と、言い直した後に、
「まぁ、魔鉱石を用いて作られていて、自分が装備できる代物であると共に、同系統じゃないと扱えないんだけど…、そのぉ~、なんだ?」
と弥太郎の方を見て、助け舟を求めた。
〝仕方ない〟といった表情になった弥太郎が、そういうのが苦手なラーザに代わって、
「例えば、俺や紫蓮は、武士系の武器や防具しか装備できないだろ?ラーザであれば戦士系以外は不可のように。」
「で、だ。」
「それぞれのジョブに合った武具のなかには、魔鉱石が付与されている物がある。」
「無いのもあるが。」
「それで…、俺の場合は〝武士用〟の刀や槍のなかでも〝風の魔鉱石〟を取り込んである代物であればスキルを発動できる。」
「ラーザは、〝戦士用〟の斧や鉄球などのなかでも〝炎の魔鉱石〟を使って作られている武器であれば…」
と、補足していったところ、
「成程。つまり、俺だと〝雷の魔鉱石〟が付与されている武士系の武器であれば、スキルを扱えるという事か。」
と納得した紫蓮だったが、
「しかし、どういう仕組みなんだ?」
と、首を傾げたので、今度は【魔法使い】のイザッドが、
「スキルと武器が連動するんじゃよ。」
と教えてくれたのだった。
小一時間の休憩を挟んで、街と山との中間に在る雑木林を5~6分ほど歩いたら、麓が見えてきた。
そこを抜けた所に、【アサシン《忍者》】である秀嗣が言った通り、ラミア/モスマン/マタンゴの計20匹が、洞窟の出入口付近に屯っている。
[鮮紅の豹一団]は、木々に身を潜めて様子を窺っていた。
互いの距離は15Mといったところだろう。
ラーザの合図にて、軽装である、秀嗣と、女盗賊の[ウィヴ]が、飛び出す。
それを、中装の【武闘家】と【剣士】が追い、重装の【戦士】【侍】【騎士】が続く。
連中は一瞬ひるんだものの、8体のマタンゴ(茸)が頭から〝混乱〟の黄色い胞子を、7体のモスマン(蛾)が羽から紫の〝毒霧〟を、咄嗟に発した。
「くッ!」
と、動きを止めた【忍者】が印を結び、自分を中心に直径4M×高さ2.5Mの〝風の渦〟を巻き起こす。
この[風遁]によって、胞子と霧を散らした。
ただし、敵も味方も、いささか吸ってしまい、少しフラついているようだ。
【シーフ《盗賊》】であるウィヴは、鼻から下を忍者のように緑色の布で覆い隠しているため、平気だった様である。
身長が165㎝くらいの彼女は、華奢で色白だ。
青い瞳と、ベリーショートの金髪が特徴的であるウィヴは、鈍い銀色のサークレットを額に装着している。
長袖のシャツも緑色であり、パンツは灰色で、胸当て/肘当て/籠手/膝当て/脛当てもまた、サークレット同様に鈍銀だ。
マタンゴの胞子と、モスマンの毒を躱すべく、秀嗣の左方にて、地面に片膝を着き、体を折り曲げていたウィヴが、
「アイテム、火炎瓶、2つ。」
と呟く。
それに応じて、彼女の両手に1つずつ、既に点火されている状態の[火炎瓶]が、亜空間から〝シュンッ!〟と転送された。
風遁が止むなり、この女盗賊が、上半身は起こさず、両腕を後ろに伸ばしながら、走り出す。
あっという間に、マタンゴに接近したウィヴは、大きくバックジャンプしながら火炎瓶を投げつけた。
ボゥワッ!!
と、燃え広がる炎によって、4体のマタンゴが焼かれていく。
一方、【巫女】や【神官】に【修道士】のスキルであったり、[ステータス異常回復ポーション]で治癒したメンバーが、各々《おのおの》に、攻撃を開始した―。




