第十一話 新たな眷属
そのハーピーは、【巫女】の奏に攻撃をかわされ、再浮上した後に、背中が無防備になっている紫蓮に狙いを変更したのだ。
そいつが、振り返る彼の1M手前まで、今まさに迫ってきている。
(ダメだッ!やられるッ!!)
と、緊張が走る紫蓮の右横にいたスライムの来夢が、飛び出しながら大風呂敷のように広がって、敵を捕獲した。
それはまるで〝投網〟のように。
来夢に全身を包まれたハーピーが、地面に叩きつけられた。
このスライムを引きはがそうとバタついているが、よほど〝ベッタリ〟と貼り付かれている様で、脱出は困難そうだ。
一方、紫蓮の雷撃をくらったハーピーは、痺れが解けたらしく、起き上がろうとしている。
それを察知して左足を踏み込んだ彼が、その頭めがけて、鉄刀をおもいっきり振り下ろす。
ゴシャッ!!
という脳天を打ち砕かれる鈍い音と共に、またしても崩れ落ちたハーピーは、それが致命傷になってしまい、肉体が、青色と白色が入り混じったような幾つもの粒子となり、無能力を意味する[茶色の魔鉱石]だけが遺された。
この間に【騎士】のバウンは2体を倒したようだ。
ちなみに、スキルは[爆撃]である。
この世界における[能力]は様々だ。
〝1人につき、スキルは1つ〟が基本なのだが、【魔法使い】【神官】【巫女】【修道士】【アサシン】などは、幾つかの技を使えるらしい。
例えば、紫蓮は〝雷系〟しか扱えないし、ラーザは炎系・弥太郎は風系・ラットは水系・バウンは爆発系のみとなっている。
だが、イザッドは[攻撃魔法全般]を、薫は[回復魔法][補助魔法]などを持ち合わせているのだ。
アサシンの【忍者】は、火遁/風遁/水遁/氷遁/雷遁/地遁であったりを駆使できる。
ただし、これらのジョブは、各スキルが最大までは成長しなかったり、クールタイム(リキャストタイム)が割と長いようだ。
また、これは全員に当てはまる事だが、1つの能力であっても、幾つかのパターンを発動できる。
紫蓮であれば、手や足から放つ方法と、上空からの落雷が出来る、といった感じだ。
そんな彼のクールタイムは、現在、8分となっている。
以前よりも幾らかは強くなったので、少しは時間が縮んだようだ。
そんな彼のステータスは以下の通りである。
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【種族】:人族
【ジョブ】:侍
【称号】:足軽
【基本スキル】:雷撃1(手から)/雷撃2(足から)/雷撃3(上空から)
※現時点でのクールタイムはいずれも8分
※本人の成長に応じて新技を取得できる
※本人の成長に応じて全雷撃の威力が増す
【ユニークスキル】:サーヴァント契約
※契約数は5体まで
【レアスキル】:????
※本人の成長に応じて解放
【装備可能武器】:刀/槍
※武士系のみ
【装備可能防具】:甲冑
※武士系のみ
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さて…、戦闘は、あらかた終了したようだ。
[鮮紅の豹一団]が、それぞれに止めを刺しに掛かっている。
来夢に目を向けると、球体の姿になって、軽く〝コロコロ〟と揺れていた。
その側に、茶色の魔鉱石があるので、あのまま窒息死させたのだろう。
「皆、無事そうだな。」
と笑顔になったラーザが、自身のパネル画面を操作して、広場に転がっている魔鉱石を亜空間へと転送する。
次の街か村で、まとめて換金するために。
ラーザが、全ての魔鉱石を送り込んだ後に、
「お昼にしようか?お腹空いたしね。」
と、提案するも、イザッドが、
「それはちと、早そうじゃぞ。」
と険しい顔つきになった。
何故なら、左右の道から新手が迫ってきていたからである。
どちらにも、ゴブリンとハーピーが7体ずつ、合計で28体が見受けられた。
【忍者】の秀嗣が、
「これで全員に間違いない。」
と、パーティーメンバーに伝える。
弥太郎が、
「誰も、ぬかるなよ。」
と刀を握りしめ直した…。
そこからは、文字どおりの〝乱闘騒ぎ〟となった。
確実に押しているのは[鮮紅の豹一団]だ。
彼女たちの有利的状況のなか、1体のゴブリンが隙をついて、石槍で紫蓮に襲い掛かる。
しかし、今度は冷静だった彼が、鉄刀を右から左へと薙ぎ払う。
左脇腹を、
ドスッ!!
と、殴打された敵が、
「ガッ!」
と呻いて両膝を屈す。
紫蓮が、突く構えを取ったところ、そのゴブリンが[契約書]を提示してきた。
そこには、
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【種族】:魔族
【名称】:ゴブリン
【ネーム】:なし
【性別】:オス
【レア度】:★★★☆☆
【タイプ】:進化系
【スキル】:????
※成長に応じて解放
【装備可能武器】:剣/槍
※騎士系のみ
【装備可能防具】:甲冑/盾
※騎士系のみ
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と表記されていた。
ゴブリンの殆どが星1つか2つで、進化系もあまり多くはない。
なかなか価値がありそうなこのゴブリンを眷属とした後に、彼は〝権蔵〟という名を付け与えたようだ。
先ほど負った傷を回復させてあげるべく、紫蓮が、亜空間から取り出した[ポーション]を権蔵に手渡すのだった―。




