第一話 序
無数の死体が転がる戦場で、15歳になって間もない彼は仰向けになっていた。
あちらこちらで、
「ウオォォォーッ!!」
「退却だぁあッ!!」
「追えッ!追えいぃッ!!」
「うわああああッあぁああッ!!」
といった、怒号や悲鳴が飛び交っているが、この青年の耳には届いていないのか?無表情の顔には精気がなく、瞳孔が開いている。
そこへ、ポツリ、ポツリと、雨が降ってきた…。
その世界には5つの大陸が在り、どこも45コほどの国で形成されている。
また、100前後の島国も点在しているようだ。
中央の大陸は神々が完全に制圧している。
それ以外にも、東西南北の大陸を、それぞれ3割ずつ手中に収めていた。
北の大陸の全てと、東の大陸の7割は、魔族の領土である。
南の大陸と西の大陸の残りの国々は、人族や、獣人族に、エルフやドワーフなどの妖精族と、それ以外の種族たちが治めている。
紫蓮は、南の大陸の北東に位置する国で生まれ育った。
彼の町は人口2000程度である。
いずれにせよ、その国は[神]によって支配されていた。
神々の搾取は厳し過ぎるがために、恨みを抱く者も少なくないのだが、如何せん強すぎるので、従わざるを得ない。
それでも、神に反旗を翻し、独立した国々もある。
しかし、紫蓮の国の民草は、黙って言いなりになっていた。
そんな或る日のこと、神々は東の大陸を制圧する事を決めた。
だが、東の大陸における[神之国]は、西部から南部にかけての12ヵ国しかない。
そこで、中央の大陸から7ヵ国、東の大陸からは5ヵ国が、援軍として送り込まれる運びとなった。
「15歳から45歳の間で、何かしらの能力を一つでも使える者は、男女問わず出兵せよ。もし、断ったり、報告を偽れば、汝らの住処を滅ぼすぞ!」
とは、神によるものであった。
石造りの家の外で、彼らは別れを惜しむ。
絞り出すように、
「無事、帰ってくるのよ。」
と、口を開いたのは、母だった。
続いて父が、
「絶対に死ぬな。」
と気丈に振る舞った。
身長は160㎝ぐらいで、髪の毛も眉も瞳も黒く、無造作ヘアーの紫蓮が〝コクッ〟と頷き、3つ年下の妹と5つ年下の弟の頭を撫でる。
その後ろで、祖母がハンカチを目に当てて泣いていた。
祖父は一年前に寿命で他界している。
「おーい!ぼちぼち出発するぞー!」
と、リーダーに選ばれた中年男性の声が、遠くから聞こえてきた。
地元から歩き、途中からは船で海を渡り、東の大陸の南に在る[アーヅ国]に上陸したのは二週間後のことだった。
そこから、国境の最前線へと向けて1ヶ月は行軍したようだ。
間もなく決戦の火蓋が切って落とされるようで、宿営地に到着するなり陣形に組み込まれた。
今回は、東の大陸における[神之国]の12ヵ国が、それぞれに敵地へと進軍するという、ごくシンプルな作戦だ。
各国が、第一軍団から第十二軍団と呼称されており、アーヅ国は[第十二軍団]にあたる。
一方、彼らの策略を見過ごすわけなどない魔族もまた、全ての前線に軍勢を送り込んでいた。
第十二軍団およそ80万と、敵の約100万が、1㎞の距離を保って睨み合いながら、互いに焦れる。
紫蓮たちは右方の5列目に配置された。
両陣営の緊張が高まっていくのが肌で感じられる。
それに釣られるかのように、紫蓮の全身が微かに震えだす。
「怖いの?」
と左隣から顔を覗き込んできたのは、1つ年上の幼馴染である陽香だ。
身長は紫蓮より2~3㎝高く、ブラウンの髪は肩あたりまでの長さで、【武闘家】らしい恰好をしており、その名が表すように明るい性格をしている。
家族同士が昔から非常に仲が良い事もあって、姉弟のように育った間柄だ。
ちなみに、紫蓮のジョブは【侍】で、木製の胴や幅10㎝の額当て及び、前垂れと籠手に脛当てを装備しており、羽織を着用している。
防具は全て黒色で、羽織は〝薄花桜〟という青色だ。
左腰には1本の刀を帯びている。
「べ、別に!」
と、そっぽを向いた紫蓮に、
「私は怖いよ。」
と言った陽香が、
「絶対、一緒に帰ろうね。」
と、優しく微笑む。
そこへ、各隊長からの、
「武功次第では、神次に取り立てられようぞ!さすれば、まさに、大出世となる!皆の者ぉッ、臆することなく手柄を立てよッ!!」
などといった檄が飛び交った―。