一体化-5
「そこね」
香は、ぐにゃりと顔が崩れるほど笑顔になった。それを見た気弱な男子は涙をぼろぼろ流しながら、震えあがった。
「せっかく、コロスンダカラ、ジックリ、イキタいな」
「!! や、やめてくれ!!」
その男子は、抵抗しようとしたが、途端に手が動かなくなった。香の鼓動が速くなる。べろりと、舌なめずりをした。
「ど、どうなって――」
「…シネ」
男子は、白目をむきながら、そのまま動かなくなった。
香は、その男子の手首を掴む。数秒しか時間がたっていないのだが、男子の手は死んでから、すでに何時間も経過していると錯覚してしまうくらい冷たかった。
楽しい。
香の頭に何度もその言葉がよぎる。何度も…、何度も…。
しかしその思考がすぐに途切れた。
「香!…遅かったか!被害者がまたッ!」
この声には聞き覚えがあった。そう、香の――
「光ウウウゥゥゥゥッ!!!ソコカァァァァァッッ!」
――恋人だった。
香がギラギラ目を光らせて、ぐるりと180度回転して、光の姿を確認しようとしたが、サッと姿を隠された。
これでは、あの力は使えない。
「ドコダァァァァッッ!」
「こっちだ!!ついてこい、香!」
ゼエゼエと息を切らしながら、大声で叫ぶ香の頭には、光を殺したいという思いでいっぱいだった。あふれ出してしまいそうだ。
ダッと走り出す音が聞こえてきた。その音を頼りに殺人鬼の足は素早く動き出す。
「マァァァテェェェッッ!!」
香の声は、あまりに大きな声を何度も連発したせいか、ガラガラ声になっていた。それでも叫び求めるその姿は、狂人そのもの。
香は、全速力で駆け追い詰める。いつもの香ではありえない速度で。それも、長時間。
何もかもが異常だった。
廊下を駆け走り、いつの間にか香は昇降口からグラウンドに来ていた。
光は、グラウンドの中央に立っていた。それを確認した香は、ジックリと光との距離を縮めていく。
「これがお前ののぞんだ世界なのか?」
光の問いに香は答えない。目の前のW高校には、もう人間がいなかった。これは、すべて香がやってしまった。もう手遅れだった。
「なあ?」
光がしつこく聞いてくる。
こいつ、うぜぇな。
「そうだよ。」
「・・・。どうして・・・おまえはそうなっちゃったんだよ・・・。昔のお前のほうが良かった。今のおまえはただの殺人鬼だ。この世界ももう・・・終わる。」
昔のほうがよかった?んなわけねーだろ。
香は黙っている。
「きいてんのか!」
聞きたくねーよ。
恨んでやるよ。フフフ・・・。光・・・シネ。
「おい!・・・うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
光はどさりと倒れた。息はもうしていない。
香は光の顔を足でふんづけた。
「あぁ・・・楽しい。」
光は相変わらず動かない。
こんなに簡単に人を殺せるなんて、今まで考えたこともなかった。というよりも人を殺すことは罪だと思ってきた。しかし、今の香の考えは違う。人を殺すことは・・・一種の快感だ。
「さて。」
香は光の頭から足を離すと今度は思いっきり光の頭をけった。変な音をたてる。そして、ありえない方向へ向く。
香は歩き出した。高校とは反対の方向だ。
この高校にはもう誰もいない。香の殺人衝動が抑えきれなくなり、次のターゲットを探しに行くのだ。次のターゲットは・・・、あ、あそこがいいな。
香は今、マンションに向かっている。昼食を求めに。
通常ではありえないことが起こった。
何と香が移動した後に、光がむくりと立ち上がったのだ。
「ごめんな。香。俺はもう普通の人間じゃないんだ。」
光は、ついさっき吉雄から不思議な力を授かった。これが最後の希望。
すべての。唯一の。




