表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなた(29)と私(16)、背中合わせ~大切な気持ちの伝え方~  作者: 黎明煌
第二章「大切な年末年始の過ごし方」
37/38

25 「あなたと私が帰る場所」




 小銭のぶつかり合う小気味良い音が鳴り、賽銭箱に消えていく。

 俺と愛は鈴を鳴らし二回礼をした後、また二回柏手をうつ。


「……」


 元日。現在はお昼を少し過ぎた頃。

 二人は旅行先から帰り、その足で初詣をすることにした。帰り道とは少し異なるが、せっかくだからと足を運んだのだ。


 隣の愛を見る。真剣な様子で何かを祈っている。何をお願いしているのだろうか……俺にできる範囲であれば嬉しいのだが。

 俺も祈っておこう。愛がこれからずっと幸せな時間を過ごせますようにと。




「おー大吉か。やるな」

「♪」


 愛のおみくじは大吉だ。小さくブイをしている。良い内容が書いてあったのか、大切そうに財布にしまっている。ちなみに俺は「凶」だった。そういうのってこういう日には抜いてるもんじゃないのか……?

 ぶつくさ言いながらなるべく高いところにおみくじを結ぶ。新年早々ついてないな……と思っていたら、


「……」


 愛が手袋を外し、キュッと手を握ってくれた。包み込むように。彼女のほんのり柔らかい暖かさが伝わってくる。


「なんだ、運気を分けてくれてるのか?」


 愛は頷く。健気な。新年早々ついてないと思っていたが、これなら全然プラスだな。


「よし、そんな健気な姫さんにはお守りを買ってやろう」


 そのまま愛の手を引き、お守りを品定めする。愛には健康と交通安全と……学業ってところか?


「――」


 しかし愛はクイクイと袖を引いて指を指す。その先にあるのは恋愛成就のお守りだ。


「もう成就してるだろう?」


 首を振る愛。その瞳は闘志に燃えている。まだまだ! って感じだ。おじさんのついて行けるペースにしてくれな……?

 複数のお守りを購入する。白い紙袋を両手に持ち愛はご満悦の様子だ。

これらが少しでも、彼女を守る助けになればいい。



 帰り道。スーパーに寄って食材を補充する。

 一つの袋を仲良く半分ずつ持ちながらマンションの階段を上がっていく。愛の肩を借りて昇った思い出ももはや懐かしい。


「……」


 愛は俺に袋を預け、ドアの前までトトトと小走りで駆ける。そして慣れた手つきで首から下げた銀色の鍵を取りだし、鍵穴に差し込む。

 ガチャリ、と音がして愛がドアを開けてくれた。笑顔でこちらを手招きしている。


 その光景を見て俺は……少し先の未来を幻視した。

 いつかは本当に彼女を家族に迎える。俺を玄関先で出迎えて、俺の名を呼んでくれる彼女の姿を。

 そんな幻想を夢見ていると、自然と口が動いていた。


「ただいま、愛」

「!」


 眩しいものを見るかのように目を細めていた俺を、キョトンと見つめていた愛はにこやかに微笑む。


『おかえりなさい』


 スケッチブックをパラパラと開く。彼女のスケッチブックには、よく使用する語句が常備されている。


『ただいま』

「あぁ、おかえり。愛」


『おかえりなさい』の後ろのページに『ただいま』があった。

 そして……彼女はページをさらにめくる。後ろへ、後ろへ。奥深くに。いつか伝えようと用意していた、大切な言葉。


『大好き。ずっと一緒です』

「――あぁ、約束な」


 二人でドアをくぐった。二人が帰るべき、家族の待つ家へと。微笑み合いながら。






 寒空の下、二人は出会った。

 ずっと、ずっと凍えていた。自分がそうであるとも気づかずに。

 だけど、もう寒くなかった。いつしか繋いでいた掌から伝う熱が、なにもかもを溶かしていってしまった。


 ――だから、もう大丈夫。


 二人はこれから、ずっと一緒に生きていく。

 背中合わせに、大切な気持ちを伝え合いながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ