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あなた(29)と私(16)、背中合わせ~大切な気持ちの伝え方~  作者: 黎明煌
第二章「大切な年末年始の過ごし方」
36/38

24 「あなたを想う大晦日」




「つ、疲れた……」


 ゴーンゴーンと除夜の鐘が遠くから響いてくる。

 旅館の一室、畳の上にうつ伏せに倒れている優を見て、愛は苦笑した。


 朝から一悶着あった後、日のある内は観光地へくりだし温泉を巡ったり、ご当地グルメに舌鼓を打ったりして楽しんだ。

 日が暮れれば旅館に戻り夕食を食べ、また温泉に入った後に卓球で遊んでと、この一日は遊びに遊んだ。


「姫さんはまだ大丈夫そうだな……これが若さか」


 女将さんがサービスしてくれた甘酒をコクコク飲みながら、愛はテーブルから優をみやっている。


 楽しかったけど、少し無理させちゃったかな。


 今日は今年最後の日。まるで鬱憤を晴らすかのごとく二人で遊び尽くした。余裕があれば除夜の鐘でもつきに行けるかと思ってたけど、これは無理そうですね。


 テレビからは毎年恒例の番組が流れ、芸人がお尻を叩かれている。しかしテレビに注目する者はおらず、優は畳に突っ伏し、愛は優を目を細めて眺めている。


「……」


 時計をチラリと見る。あと少しで今年も終わる。まさか自分が旅館で男性……恋人と年越しをするだなんてこの前まで思いもしなかった。


 そう、恋人。私の、恋人。新藤さん。


 その響きだけで、なんだか胸がふわふわする。恋人、恋人かぁ……


 この数日で、私達の関係性は大きく変わって、恋人らしいコミュニケーションもいくつかとった。一緒にお風呂に入ったり、寝たり。変なテンションとはいえキスもした。

 とってもドキドキして、胸からいろいろな感情が溢れだしそうで、すごく……夢見心地だった。


「……」


 でも、やはり少し不満もある。それは彼の態度だ。髪にキスもしてくれたし、お風呂に入って洗いっこもした。だけど、それは彼から進んでしてくれたことではなく、なかば私がやらせていることだった。

 ……彼から進んで異性としてのコミュニケーションをとってくれてない。それが不満の大本だった。


 もちろんわかっている。彼が私をとても大事にしてくれていることは。

 だけど、壊れ物のように扱われるのは少し……もう少しこう、なんとかならないだろうか。

 生来の照れ屋さんな部分もあるだろう。そして彼は押しに弱い。だけど押しすぎたら今朝のジャイアントスイングである。奪われちゃうかと思ってドキドキしてたのに、まったくもう。


「……」


 だけど、やっぱり一番大きい理由は別にあるだろう。それは……年の差。私がまだ未成年だから。


「……」


 もどかしい。自分ではどうしようもできない問題に、ひどく焦れったい気分になる。私がまだまだ子どもだから、彼は私に手を出そうとはしない。

 一緒にお風呂に入って私はとっても緊張してたのに、今朝の彼なんて「お痒いところはございませんか~?」なんて冗談を飛ばす余裕っぷりだった。悔しい。

 ……そんなに私は子どもっぽいのだろうか。私が高校生だからわからないだけで、大人から見たら高校生なんてまだまだお子ちゃまなのかな。いつか私が大人になったとき、あの頃は若かったなんて思うときが来るのだろうか。


「……」


 今ほど早く大人になりたいと思ったことはない。大人になって、新藤さんと対等に向き合いたい。彼に……求められたい。

 私がもっと早く生まれていればな……そう、例えばユイさんみたいに。ユイさんはどんな風に彼に接していたのかな。そもそもなんて呼んでたんだろう。同年代だから「新藤君」……それとも「優君」とかだろうか? それとも呼び捨て?


 新藤さん、と心の中で呼ぶ。出会ったときから変わらない呼び名。恋人なのだから、少し他人行儀かも?

 それに、と昨日からつけている銀の指輪をなぞる。今は仮初めの指輪でも、いつか彼から本物を贈られて……私も「新藤」になるのだから、このままの呼び方というのはないだろう。

 私が大人になったとして、彼をなんて呼ぶ? 「優さん」「優」……「あなた」?


「――」


 婚姻ってもうできますよね?

 ――ってだめだめ少しはしゃぎすぎました。それに例え結婚できる年齢に達していようと、彼から見て私はまだ子どもなのだから、そもそも受け入れてはくれないだろう。最低でも高校を卒業するくらいでないと……


 はぁ……と溜め息をつく。遠い。

 恋人になれれば胸のモヤモヤもとれるかと思いましたけど、まさか更にモヤモヤするようになるだなんて。やりたいことが多すぎます。届かないことが多すぎます。私はこんなにもあなたに焦がれているというのに。


「……」


 畳でグロッキーになっている彼を見る。いいです。求めてくれないのなら、こちらから求めるまでです。


 例えそれであなたを困らせることになっても、それくらい許してくれますよね?


 指を口許に持っていき、輪をつくって空気を送り込む。私だけの、彼を呼ぶ方法。


 ピー! と甲高い音に反応し、彼がのそのそとこちらに匍匐前進してくる。

 辛そうですから、背中に乗ってマッサージでもしてあげましょう。


 その後は……一つの布団で抱き合いながら、朝まで一緒に眠りましょうね?


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