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あなた(29)と私(16)、背中合わせ~大切な気持ちの伝え方~  作者: 黎明煌
第二章「大切な年末年始の過ごし方」
30/38

18 「あなたの寝言」


「……っ」


 パチリ、と愛は目を覚ました。何度か瞬きをし、暗闇に瞳を慣らす。


「すー……すー……」


 ドキリとする。目の前には優の穏やかな寝顔があった。その腕は、愛の頭の上あたりで空を切っている。


 そうだ、ホラー映画を見ていてその途中で悪戯をされたのだ。そしてその罰として添い寝を……


「――」


 我ながら大胆なことをしたものだと思う。確かに普段から密着している場面も多いが、添い寝はさすがに今までしたことなどなかった。

 何でもない風に振る舞っていたが、内心ドキドキして顔をそむけていただけだ。途中からは妙に安心して眠ってしまったが。


「……」


 この人は、私と添い寝をしてどう思ったのだろうか。

 呑気に寝息をたてる優をじっと見つめる。彼は私に対してドキドキしないのだろうか……?


 実はそのあたり、かなり配慮されているのかもしれないと愛は思う。自分たちの関係はボディタッチも多いが、思えば彼から自分に触れることはあまりなかったかもしれない。触れるとしても頭だったり、腰だったり自分が指定した部分ばかりだ。まぁ何回か手を繋いだり勢いでお姫様抱っこされたりはしたが。

 そして漫画とかでよくある着替える姿だって、見られているのは朝の着替えだったり、風呂上がりの彼の姿ばかりだ。


 それに呼び名も。いつも「姫さん」である。それもある意味オンリーワンな呼び名なので嬉しいといえば嬉しいが、どこか一線を引かれている気もする。

 ……たまに真剣なときに「愛」と呼ばれるのはドキッとするのでまぁそれはそれですけど。


「……」


 彼は私たちのことを『家族みたいなもの』と表現したことがある。それはとても嬉しいことだったし、その暖かさは胸の中に残り続けている。

 でも、その家族って? 彼にとって私はどんな家族なのだろう。

 少なくとも母や姉ではない。彼の今までの態度から察するに、やはり娘とか妹だろうか。

 そうなると彼は私にドキドキなどしていないということになる。異性として見ていないということになる。それは少し……なんだかちょっと、もやっとする。

 別に家族であることを否定などはしない。それは彼からの大切な贈り物だ。だけど、ほんのちょっとくらいは……と思う複雑な乙女心なのである。


「……」


 えいえい、と穏やかに寝る彼の頬を指でつつく。いつも悪戯するお返しです。


「うぅん……」

「っ」


 彼がむずがるように顔を動かした拍子に、指先が彼の唇に一瞬触れた。その唇に目が吸い寄せられる。悪戯、というワードが妙に頭にちらついた。


「――」


 彼とそういうことをしたいか、と聞かれればよくわからない。

 よくわからない……が、もしそうしてしまったら、多分胸が耐えられないほどドキドキすると思う。そう思ってしまうだろうなと想像できるということは、まぁ自分はそういうことなのだろう。


「……」


 また彼の頬をつつく。えいえい。私はこんなにもあなたに翻弄されているというのに呑気に寝て。ふふ、いつもは悪そうにケラケラ笑う顔も、こうして穏やかな顔をして寝ていると可愛く思えて――


「うぅん……ユ、イ……」


 前言撤回します。全然可愛くありません。


「~~」


 むむむ、と愛は唸る。私が隣で寝ているというのに、よりにもよって違う女の子の夢を見るとか。それってどうなんですかー?


「……」


 でも、一方で仕方ないと思う。彼にとってユイさんは特別だ。彼の生き方にも関わる大事な人間の一人だ。そして、夢の中でしかもう会えない人なのだ……


 私は、ユイさんに嫉妬している。もういなくなった人に嫉妬してしまっている。それは、醜いことなのでしょうか。自分の中に問うも、答えは出てこない。


「……」


 そっとしておいてあげましょう。そう思って立ち上がろうとした瞬間だった。


「う……ぁ、い……」

「!」


 なんだか呼ばれた気がするので立ち上がりかけた体勢を元に戻し耳をより近づける。


「あい、して、る……」

「……」


 正直微妙なところです。「(愛を)愛してる」のか、前の文脈から絡んで「ユイ、愛してる」なのか判断が付きません。喋るならもう少しはっきり喋ってください。


「うっ……」

「っ」


 彼がまた何か言おうとしている。今度こそ……?


「クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」


 バ ン コ ク …… ! !


 思わず取り出しそうになったハリセンをとっさに押さえる。だめよ私、寝言にマジになっては……!


「……」


 なんだか一気に疲れたので、ため息をついてから今度こそ起きることにした。そろそろ晩ご飯の支度をしなくてはいけない。

 それととても不満を覚えたので、彼の頭にはベッドの下からムキムキマッチョメンが載った雑誌を取り出しかぶせた。「う~ん……う~ん……」と苦しそうに唸っている。


 空色のエプロンを身につけ、リボンを一旦ほどき、髪をくくるようにしてまた結ぶ。

 苦しそうに唸る彼に、べっと舌を出してから晩ご飯を作る作業に向かった。


 美味しいご飯を彼に食べて貰うために。


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