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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第33話 ダークウィングボア

 ――洞窟の通路を進んでしばらく進むと、唐突に開けた場所に出た。

 かなり広い空間で、来る時に通ったアパルトメント1棟くらいなら普通に入ってしまいそうだ。

 天井や壁がコンクリート的な何かで塗り固められており、ここだけ人工的な感じがする。多分、魔獣が暴れても大丈夫なようにしているんだろうな。

 

 そんな空間の中心に目を向けると、そこには螺旋状の光が纏われた棒状の器具が4つ設置されており、その中心に大きな魔瘴の塊がうねっているのが見えた。


「魔獣化直前といった感じね」

「これは……あと30分もしないで魔獣化しそうだね」

 シャルロッテに対して、ジャックが腕時計のようなものを見ながらそう返す。

 あれが、シェードディテクターとかいう代物のようだ。


 それはそうと……。ここ、随分と広い空間だよなぁ……

 まあ、ここに関しては人工的にこの広い空間が作られたという可能性もなくはないのだが、まったくのゼロからこれだけの空間を作るのは面倒なので、おそらく最初からそれなりの広さがあったと考える方が自然だろう。


 うーむ……大聖堂や城の地下なんかも似たような感じであった事を考えると、地下洞窟の元となった『ガディ・アドの迷窟』っていうのは、どうやら、多数の広い部屋とそれらの部屋同士を繋ぐ狭い通路によって構成されているという――いわゆるローグライクゲームのダンジョンみたいな構造をしていたようだ。

 ……まあもっとも、さすがに洞窟の構造がランダムに変化したりは、しなかっただろうが。

 もし、ランダムに変化するような仕組みだったりしたら、今頃ルクストリアの地下はえらい事になっているはずだからな。


 と、そんな事を考えながらしばらく待っていると、ミリアとジャックの方から警告音が鳴り響く。

 

「始まった……!」

「――みたいだね」


 ミリアとジャックはそう短く言った次の瞬間、大きな魔瘴の塊が魔獣の姿へと転じ始める。


 そう言えば、何気に魔獣化する瞬間を見るのは初めてだな。

 なんてことを思いつつ、杖を呼び出していく俺。

 

「なんか、次々に杖が召喚されてるんだけど……」

「うん。わけがわからない。どうやって……?」

 

 俺の方を見ながら、ジャックとミリアがそんな事を言ってくる。

 だが、それに対しては何も言わずに、俺は杖を呼び出し続ける。

 

 そうこうしている内に、魔瘴が何やら黒い翼の生えたイノシシだか豚だか良くわからないが、ともかくそんなような形となり、そして弾け飛んだ。

 って、思ったよりもデカイな……。積載量15トンの大型トラックくらいあるんじゃなかろうか。

 

「ブレイズダイブ・ダークウィングボア!」

 ミリアが姿を現したそいつを見て、そう名前を告げた。

 ブレイズは火で、ダークは闇? なんで属性を示す単語が名前に入っているんだ?

 

「大した事のない雑魚が出てきたわね」

 さらっと断じるシャルロッテ。

 

「雑魚なのか?」

「ええ。図体がデカいだけの雑魚よ。膜の属性が火と闇で固定されているから属性面の対処も楽だし」

 俺の問いかけにシャルロッテがそう返してくる。


 ふむなるほど、この名前はそういう事か。って事はつまり……闇属性と地属性の杖は使わなくていいな。

 あれ? たしか……雷は火で弱体化するけど、闇には有効なんだよな……一体どうなるんだ?

 まあ、撃ってみればいいか。


 と、そんな事を考えていると、

「え? いや……ダークウィングボアって、固定とはいえ、火属性と闇属性双方の膜を持つから結構厄介だと思うんだけど……」

 意味がわからないと言わんばかりの表情でそんな事を言うジャック。

 

 まあ、複数属性持ちだと、属性の強弱関係がややこしくなるからなぁ……

 実際、俺も雷がどうなるのか良くわからないし。


 そう思った直後、 

「ブオォォォォォォォンッ!」

 という魔獣の咆哮が響き渡り、翼を勢いよくはためかせるダークウィングボア。

 

「やかましいな」

 俺はそう呟くと同時に、呼び出しておいた闇属性と地属性を除く6属性――水火風氷雷光の6本の杖を一斉掃射。

 放たれた魔法が、ダークウィングボアの翼を穿ち貫き、打ち砕く。

 

「グギィィィィッ!?」

 悲鳴を上げ、大量の魔瘴を撒き散らしながら、ダークウィングボアが地面へと落下する。

 

「えええええっ!? い、今のなにっ!?」

 そんジャックの驚きの声が聞こえてくるが、とりあえず放っておこう。

 

「あれだけズタズタにすれば、飛行は不可能に近いわね」

 シャルロッテがそう言った直後、 

「グルオォオォオォオッ!」

 という叫びと共に、ダークウィングボアの目が赤くなり、その身体が炎に覆われる。

 

「炎を纏うのか。ブレイズの名の通りだな。だとすると……」

 次に来るのはダイブ――突進か? もっとも、翼はズタズタにしてやったので、空中からの突進は無理だろうが。

 

「グガアァッ!」

 予想通り俺たちめがけて、炎を纏ったまま弾丸の如き勢いで突進してくるダークウィングボア。

 

「ここは私にやらせて貰うわよ?」

 シャルロッテがそう言って、俺の前に立つ。

 

「え? あれを迎え撃つの?」

「……どうやって?」

 ジャックとミリアの理解不能だと言わんばかりの声が聞こえてくる。

 

「こうするのよ」

 シャルロッテはふたりに対し、短い言葉を投げつつ刀に霊力を流し込む。

 

 と、瞬く間に赤黒いオーラが刀身に纏い付き……それでも収まらずに、シャルロッテの身長の5倍近くにまでオーラが伸びる。

 なんだか昨日よりも長いな……。霊力に余裕があるからだろうか?

 

「せいっ!」

 シャルロッテが、10メートル近いそれを、迫ってきていたダークウィングボアに対し、勢いよく振るう。

 

「ギギイィィイィィイィッ!?!?」

 オーラに喰らいつかれ、そして引き裂かれるダークウィングボア。

 大量の魔瘴が、引き裂かれた場所から噴き出し、仰け反りながら、動きを止めるダークウィングボア。


「止まらずに突っ込んでくるべきだったわね!」

 シャルロッテは、ダークウィングボアの方へと踏み込みながら、刀を連続して振るう。

 

「グギッ! ギュガァ!? グゲギィィッ! ガガアァッ!?」


 左逆袈裟斬り、右逆袈裟斬り、左袈裟斬り、右袈裟斬り……

 連続で斬りつけられ、ダークウィングボアの悲鳴と共に、魔瘴が撒き散らされる。


 そして、そこから更に一歩前へと踏み出し、真上に大きく跳躍しつつ斬り上げる。

 

「ギギギィィッ!」

 短い断末魔の叫びと共に、ダークウィングボアは魔瘴が全身から噴き出し、そのまま魔石を残して霧散していった。

 ……最後の斬り上げの時に、一瞬スカートの中が見えた……ような気がしたが、気のせいだろう。気のせいという事にしておこう。

 

「凄い……」

 ミリアが呟く。

 

「まさか、ホントにダークウィングボアが雑魚同然だなんてね……」

 呆れた声でそう言って肩をすくめるジャック。

 

「ま、こんなものよ」

「今度は俺の出番がほとんどなかったな……」

 魔石を拾って戻ってきたシャルロッテに対し、杖をディアーナの領域へと送りながら言う俺。

 

「道中で出番がいっぱいあったんだからいいじゃない。それより、時間的にそろそろ学院に行かないと駄目じゃない? アパルトメントに戻るまでそこそこかかるし」

「ああ、たしかにそうだな。とっとと戻るとするか」

 俺がそう答えて、来た道を引き返そうと思った所で、

「……学院?」

 と、ミリアが問いかけてきた。

 

「ああ。この後、アリーセ――アーヴィングの娘たちとアカツキ料理を出す店に、昼飯を食いに行く予定があるんだよ」

 そう俺が答えると、

「アカツキ料理……食べた事がない。興味ある」

「うん、僕も同じ事を思った。それにメンツがなかなか楽しそうだし。……ねぇ、僕らもついていったら駄目かな? その店がどこにあるのか知らないし」

 ミリアとジャックが、そんな風に言ってくる。


「うーん……アリーセたちに聞いてみないと何とも言えないけど……多分大丈夫じゃないか?」

「そうね。あのふたりが拒否するとも思えないし」

「……邪魔になりそうなら、こいつの襟首を掴んで、引きずって帰るから大丈夫」

 俺たちの話を聞いたミリアが、ジャックの方を見てそう言った。

 

「上官の襟首を掴んで引きずる部下ってどうなんだろうね……」

 なんて事を言いながらため息をつくジャック。そして、

「まあいいや……。それより、僕たちとは別の場所から入って来たんだよね? 僕たちは途中――入口までレビバイクで来たんだけど、そっちは?」

 と、問いかけてきた。

 

「俺たちもレビバイクで大工房の近くまで行って、そこから潜ってきたんだよ」

「大工房かぁ……。僕たちは旧市街区から潜ってきたから、結構離れているね」

 俺の言葉に対し、そう言ってくるジャック。

 なるほど……。たしかにふたりが来た方角は、旧市街がある方だな。

 

「さっき学院って言ってたけど、魔煌技術学院エクスクリスの事?」

「ええ、そうよ」

 ミリアの問いに、シャルロッテが頷き答える。

 

「あ、それじゃあエクスクリスで合流しようか。あそこなら視察で訪れた事あるから、場所を知ってるし」

 ジャックがそんな風に提案してくる。

 

「まあ、それが妥当だろうな。よし、それじゃあこんな場所に長居してないで、さっさと地上に戻るとするか」

 俺の言葉に3人が頷く。

 

 ――その直後、唐突に地面が揺れる。

 

「地震……か?」

「みたいね。大陸の中央部にあるルクストリアで地震なんて珍しいわね。まあ、自然発生した物じゃない可能性もあるけど」

 俺の言葉にそんな風に返してくるシャルロッテ。

 

 どういう事かと思っていると、地面の揺れが治まった。

 ふむ……。ちょっとばかし強く揺れたが、立っていられないって程ではなかったな。


「治まったみたい。――誰かが、真上で地震の魔法でも使った?」

「えー? あの魔力をやたらと食う割に、大して揺らせない無駄な魔法を使う人なんていないとおもうけどなぁ……」

「それは……たしかに」


 ミリアとジャックがそんな会話をする。……ああなるほど、魔法か。

 っていうか、そんな魔法まであるんだな。

 

「魔法による地震は局地的なものでしかないから、地上に戻ったら誰かに話を聞いてみればすぐにわかるわね」

「だねぇ。ま、とりあえず地上へ戻ったら近くの人に聞いてみようか」

 シャルロッテの言葉にそう返しつつ、ミリアの方に顔を向けるジャック。

 それに対し、ミリアは無言で頷く。

 

 そんなわけで、改めて地上へと引き返す俺たちだった――

ちなみにこの世界、地震が起こる仕組みが地球とは異なるので、大陸の中心部だろうがなんだろうが、条件が揃えば、関係なく発生する可能性があったりします。

ただ、その特殊な仕組みの関係で、あまり大きな地震は起きません。

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