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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第32話 下水道での遭遇

 というわけで、下水道へと下りる俺たち。

 下水道という割には、嫌な臭いが全くしなかった。

 

「ルクストリアの下水道は、浄化処理が完璧に施された状態の水が流れてくるから臭いがしないけど、他の都市にある下水道はそうでもないから困るのよね……」

 俺の考えを読んだかのように、そんな事を言ってくるシャルロッテ。


「へぇ、そういうものなのか……」

「そういうものよ。……まあ、臭いがしようがしまいが、水がきれいだろうが汚かろうが、水棲(すいせい)の害獣は生息しているんだけど、ね」

 シャルロッテは、そう言葉を返しながら刀を抜き放つ。

 

 ああうん、たしかに水中に何かいるな。

 

 俺は雷撃を放つ杖を呼び出し、それを水中の何かに対して放つ。

 

「グゲゲェェーッ!?!?」

 断末魔の叫びと共に、浮かび上がってくる害獣――の死骸。

 それは、デカいカエルだった。

 

「魔法攻撃は楽でいいわねぇ……。私ひとりだったら、あいつが飛びかかってくる所を、(つい)(せん)で斬り伏せるしかないもの」

 シャルロッテが、構えを解きながらそんな風に言ってくる。

 

 ああ、そう言えば……


『対の先ってのは、要するにカウンターみたいなもんだな。同時に攻撃を繰り出しつつも、こちらが先に攻撃を命中させて倒す事で、相手の攻撃を無力化する手段だ。

 ま、アクション系のゲームとかで、被弾する直前に攻撃を仕掛けるとダメージを受けずに逆に敵に大ダメージを与えるっていうシステムがあったりするけど、要はあれと一緒だな』

 

 なんて事を、前に蓮司が言っていたっけな。

 ふむ……その言い方でいうのなら――

 

「なら、俺の戦い方は、(せん)(せん)って所だな」

 俺はそう言って肩をすくめる。

 

「ふふっ、たしかにそうね。先手必勝! やられる前にやれ! なんて事を師匠も良く言っていたわ。それじゃ、水中にいる奴はお願いね」

 笑みを浮かべながら、そんな事を言い、刀を鞘に納めるシャルロッテ。

 

「ああ。代わりに天井とか床の上にいる奴は任せた」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……ねぇ、ソウヤ? 天井と床の上にいる奴は任せた、って言ってなかったっけ?」

「言ったな……」

「今、普通に倒したわよね……?」

「うっ。い、いやまあ……見敵必殺(けんてきひっさつ)? サーチアンドデストロイ?」

「間違ってはいないけど……。4匹目にしてようやく出番が来たと思ったのに」


 床の上を這い回っていたスライム――もちろん、顔などないドロドロとした方のスライムだ――を、瞬殺してしまったせいか、シャルロッテが不満げな表情を見せる。


「ま、まあ、なるべく倒さないようにするよ……」

 と、そんな風に言葉を返してしばらく歩いていくと、再びスライムと遭遇した。


「出てきたぞ。でも、スライムって物理だと効きづらいんじゃ?」

「効きづらいわね。まあ、関係ないけど……ねっ!」

 

 ねっ! と言うのと同時に、シャルロッテはスライムめがけ、一瞬で間合いを詰めると、赤黒いオーラを纏った刀を振り下ろした。

 刀の一撃によって、スライムを切断……どころか、蒸発させる。

 

「刃に熱して叩きつければ、こういう事も出来るわ。まあ……普通の刃じゃ刃の方が溶けてしまうけど、この刀なら問題ないし、便利よね」

 なんて事を言ってきた。金属が溶けるって、どんだけ高温になってんだよ……。

 っていうか、なんだか蓮司も同じ様な事言ってた気がするなぁ……

 

「1億5000万年前の刀か……。シャルロッテの家に代々伝わっているって話していた奴だな」

「ええ。本当は一族の宝なんだけど、うちの家が保管と管理をしていたのよ。里を襲ってきた連中も、この刀の隠し場所には気づかなかったらしく、持っていかれる事もなかったわ」

「……里を襲ってきた連中っていうのは、結局、何者なんだ? 絶対に普通の盗賊団じゃないだろ」

「ええ、そうね。それは間違いないわ。ただ、何者なのかは私にもわからないわ。奴らの輪郭はうっすらと見えてきているんだけど、なかなか、ね……」

「ふむ……」


 そいつらについて、ディアーナに聞けば何か分かるんだろうか……

 絶霊紋の事と併せて聞いてみたいところだ。


「――それはそうと、もうすぐポイント3よ。あそこの低くなっている場所に、洞窟への入口があるわ」

 シャルロッテがそう言いながら、指で入口の場所を示してくる。


 と、その直後、軍服っぽい服を着た男女が更に奥の方からやってくるのが見えた。

 男性はヒュノス族で、女性はディアルフ族か。

 

「あの軍服……この国の物じゃないわね……」

「他国の軍人って事か? なんでまたこんな所に?」


 俺とシャルロッテはそんな事を言いながら、そのふたりへと近づく。

 すると、俺たちの存在に気づいた向こう――男性の方から声を掛けてきた。

「君たちは討獣士かい?」


「そうですけど、おふたりは?」

「僕は、ジャック・ディアロ。クスターナ都市同盟盟主エメラダ・リシア・ヴァーレの護衛武官を務めている者だよ。あ、ちなみに軍の中の階級は三等陸佐(さんとうりくさ)ね」

 思ったよりもあっさりと答えてきたな……。っていうか、クスターナは階級が自衛隊みたいな感じになっているっぽいな。


「……そこまで馬鹿正直に全部言わなくてもいいと思う。……まったくもって、バカジャック」

 ジャックと名乗った男性に対し、ディアルフ族の女性がため息をついて冷たい視線を投げかける。言葉が辛辣なので、仲は良いのだろう。

 

「い、いやぁ……。僕たちこの国からしたら他国の人間だし、不審がられるよりはいいかなーって」

「……まあ、否定はしない。――私は、ミリア・レアン。同じく護衛武官でニ等陸尉(にとうりくい)

「そうそう、僕の1つ下なんだよね。口の悪さからこっちの方が上っぽいけど」

 ミリアの名乗りにおどけてそんな事を言うジャック。


「………………!」

 無言無表情のまま、ジャックの足を踏みつけるミリア。

 それに対し、

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 という叫び声を上げてのたうち回るジャック。

 ……まあ、自業自得と言えなくもないな。

 

「ふたりは?」

 のたうち回っているジャックを無視して、ミリアがそう問いかけてくる。

 

「俺は、ソウヤ・カザミネと言います。アカツキ皇国の……山奥から出てきたばっかりのなので、申し訳ないですが、クスターナという国についてはよく知りません」

「私の名は、シャルロッテ・ヴァルトハイム。レヴィン=イクセリア双大陸の出身ですが、今はイルシュバーン共和国を拠点にしています」

「なるほど……。あ、敬語はいらない。私はそこまで偉いわけじゃないし、このバカも敬う価値はない」

 俺たちの自己紹介を聞いたミリアが、頷きながらそう言葉を返してきた。

 

「バカバカって酷いなぁ……。そんなんだから軍学校時代に、友達が誰も出来なかったんじゃないか。僕以が――いぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 話の途中で、再びミリアに思い切り踏みつけられるジャック。

 この男、わざとやってるんじゃなかろうか……

 

「……まあ、そういう事なら普通に話させて貰うけど……ふたりはどうしてこんな場所に来たんだ? 盟主の護衛の方はいいのか?」

 普通に考えたら、護衛役がこんな下水道になんてこないよなぁ……と思い、そう尋ねる。


「いやぁ、アーヴィング閣下の方が僕たちよりも圧倒的に強いし、あの方がいれば大丈夫だとエメラダ様が仰られてねー。しかも、自分の代わりに街の様子を見てくるように命じてきたもんだから、ならしょうがないなーと街へ繰り出してきたってわけ」

 ジャックが軽い感じでそんな風に説明する。


「……エメラダ女史と言えば、かつては武扇(ぶせん)舞姫(まいひめ)なんて呼ばれていた程の鉄扇の使い手で、今では開かれなくなってしまった武闘会では、武聖(ぶせい)アーヴィングといい勝負を繰り広げたそうだし、まあ……旧知の仲だから、という理由もあるかもしれないわね」

「ふむ……なるほどな」

 シャルロッテの説明に頷く俺。旧知の仲だからこそ、他に誰もいない状況下で話をしたかったとも考えられるわけか。


「……正直、エメラダ様自身、護衛が要らないほど強い。そこに武聖アーヴィング殿がいるのだから、例えふたりしかいない状態でも、誰も勝てるはずがない。私たちはそう判断した。――ちなみにこんな所までやって来たのは、シェードディテクターが魔獣の出現反応を感知したから」

 ジャックの説明を補足するかのようにミリアが言う。

 

「シェードディテクター?」

「たしか、クスターナで開発されている魔獣――というか、収斂(しゅうれん)状態にある魔瘴を探知する小型の魔煌具ね」

 俺の疑問に対し、ミリアよりも先にシャルロッテがそう答えてくる。


「その通り。なかなか詳しい」

「ま、職業柄ね」

 ミリアの言葉に肩をすくめてそう返すシャルロッテ。


 職業柄って言うけど、実際には良くわからない情報源があるんだろうな。

 アンドロイドやナノマシンという単語を知っていたように。

 っと、それは置いておくとして……

 

「へぇ……そんなものがあるのか。うーん……それにしてもアーヴィングって、武聖なんて言われてたんだな。何気に始めて知ったぞ。――もっとも、初対面でいきなり手合わせをしてくれって言われたりしたし、なんとなく武人っぽさはあったけどさ」

「あ、それ私も今朝言われたわね。武聖アーヴィングと戦うにはまだ未熟だと言って断ったけど。……なんというか、絶対面倒な事になりそうだったし」

「いや、面倒って……。まあ、わからなくもないが……」


 なんて事を話していると、ポカーンとしているジャックとミリアの姿が目に入った。……はて?


「ん? どうかしたのか?」

 ポカーンとしたままのふたりに対して問いかける俺。


「……いや、どうかしたのかっていうか……君たち、何者?」

「アーヴィング殿と手合わせを挑まれる上、何だか親しそう……?」

 狐につままれたような顔で、ふたりがそんな事を言って返してきた。

 ああ、なるほど……納得だ。


「あ、そういう事か。すまん、何も説明していなかったな。――俺とシャルロッテは、色々あってアーヴィングの家に居候中なんだよ」

「……居候中なのは貴方だけ……ではないわね……。今朝、アリーセの引き止めに応じてしまったんだったわ。あの子、なんでああいう時だけ、異常なまでに押しが強いのかしら……」

 そう言って額を押さえ、ため息をつきながら首を左右に振るシャルロッテ。ああ、また押し負けたのか。

 

「な、なんだかよくわからないけど、凄く親しい間柄な事だけはわかったよ、うん」

「まさか、こんな所でそんな人たちと遭遇するとは、想定外……」

「ともあれ……武聖アーヴィングに手合わせを挑まれるような実力なら、魔獣なんてすぐ片付きそうだね」

「たしかに。……でも、どういう戦い方なのか、見学させて欲しい」


 なんて事を言ってくるふたり。

 特に戦い方を見せて不利になる事もないので、俺とシャルロッテは承諾する。

 

「……シェードディテクターの反応が強くなっている。そろそろ出現しそう」

「――急いだ方がよさそうね。そこのシャッターからポイント3の洞窟に入れるわよ」

 ミリアの言葉を聞いたシャルロッテが、近くにあるシャッターを指さして言う。

 見ると、たしかにシャッターには『3』と大きく書かれていた。

 

「開けるのはこのレバーでいいのかな?」

 そう言いながら、ジャックがシャッターの横にあるレバーを操作すると、重い音を響かせながらシャッターが開かれていく。


 ――程なくしてシャッターが開ききり、岩肌が露出しているいかにも洞窟だと言わんばかりの通路がその姿を現す。


「すぐに湧いてくれるといいんだけどな」

 なにしろ、昼飯の前にアリーセたちを迎えにいかなきゃならんのだからな。

下水道での話は、多分あと1話で終わります。

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