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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第6話 アルミナの町と治療院

「俺が運んでいこう」

 見ているだけというわけにはいかないので、俺はそう申し出る。

「え? い、いえ、そこまでしていただくわけには……」

「いやまあ、その持ち上げるのに苦労している姿を見ておいて、そのままただ見てるだけっていうのは、さすがにありえないって。――よっ、と」

 遠慮する金髪少女にそう返しつつ、ロゼを抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこという奴だな。


「す、すいません……!」

 そう言いながら、勢いよく頭を下げてくるアリーセ。

「気にする必要はないさ。大した労力じゃないからな」

 ちなみに、本当に大した労力じゃなかったりする。というのも、サイコキネシスを使って軽く浮かせているのだ。

 なので、とても軽い。

「――それより、治療院とやらまでの案内を頼む。それがどこにあるのか知らないんだよ、俺」

 治療院というのは、おそらく病院的な施設の事だろうが、俺はそれがどこにあるのか知らないので、そう告げる。

「あ……は、はい! わかりました!」


                   ◆

 

「あ、結界線です!」

 突然、そんな事を言ってくる金髪少女。……結界線? なんの事かと思いつつ、ふと地面を見ると、薄く青色に光る線が延々と続いているのがわかった。おそらくこれが結界線という奴だろう。

 よくわからんが、町の境界線みたいなものなのだろうか? 実際、もうアルミナの町の町並みが視界に入っている。


 そして、町の入口を示すと思われる門の所に、背が高く耳が長いという、いわゆるエルフのような容姿の男性が立っていた。

 スコットランドヤードの警察官に似た格好をしているが、警察、もしくは門衛の類だろうか?

 そのエルフっぽい男性は、俺にお姫様抱っこされ、さらに片腕が止血の為とはいえ凍結で酷い事になったいる状態で、ぐったりとしているロゼに気づいたらしく、慌てて駆け寄ってくる。あの距離から気づくとは、随分と目がいいな。


「も、森に薬草を取りに行くと言っていた学生さんですよね!? い、一体何があったんですかっ!?」

 焦った口調で俺たちに問いかけてくるエルフっぽい男性。


 俺たちはとりあえず簡単な説明だけした後、詳しい話をするよりも先に、ロゼを治療院へ運びたいという旨を伝える。

 と、その男性――護民士というらしい――は、理解を示すと同時に、治療院に話を通してくると言って、もの凄い速さで走っていってしまった。


 追いかけながら金髪少女から聞いた話によると、この『護民士』という職業は、この国では大きな都市だけでなく、小さな町や村にも必ず一人は配置されている、警備と治安維持を担当する国家公務員なんだそうだ。要するに地球で言うところの警察と軍を合わせたようなものか。


 ともあれ、その護民士の男性が先に治療院へ走ってくれたおかげで、治療院に入ると同時に俺たちは緊急治療室へと通された。

 待ち構えていた白衣を纏ったウサギの様な耳を持つ女性が言うには、すぐに治療すれば、命に別状はないらしい。ふぅ、やれやれ……一時はどうなる事かと思ったが、なんとかなったな。

 

 そんなこんなで一通りの処置が終わり、ロゼは今、淡い光を放つ緑色の液体で満たされたバスタブのようなものに浸かっている。いや、まだ意識は戻っていないので、浸けられているというべきか。

 しかし、まさかとは思うが、このバスタブのようなものが、この世界におけるベッドのようなものだったりするのだろうか? と、そう思いつつ奥の部屋に視線を移すと、そこには普通のベッドがあった。なので、これは単なる治療用の装置といったところらしい。まあ、そりゃそうだよな。


 それにしてもこの緑色の液体を見ていると、あの研究所で、化け物――キメラどもが製造されていた例の培養槽を思い出して、なんとなく嫌な気分になるな……。色も、淡い光を放っているところも、どっちも似すぎているんだよなぁ、ホント。


 などと、俺が地球での事を思い出して顔をしかめていると、

「生命活身薬の投与が間に合った事もあり、状態は安定しています。危機は既に去っているものと考えて問題ないでしょう。あとは、自然に目を覚ますのを待つだけです。ただこの腕に関しては、ここまで失われていると、復元が完了するまでにかなりの時間を要する事になるかと……」

 と、先程の白衣の女性――治療士が金髪少女に告げた。ちなみに治療士というのは、地球でいう医者のようなものらしい。

 しかし……腕を復元出来るとかすげぇなこの世界。あの生命活身薬といい、この世界の医療技術は地球以上なんじゃないか?


「それは仕方ありませんね……」

 治療士に時間がかかると言われた金髪少女が短くそう返す。

 そして、ロゼの方を一瞥した後、ため息をつきながら、

「はぁ……。ロゼがモータルホーンに食いつかれた時に、斬り落とした方の腕があれば楽なのですが……」

 なんて事を呟くように言う。……斬り落とした腕って、どう考えても角狼が咥えていたアレ……だよな? まあ、それ以外に思い当たるものもないのだが。


「あー、腕なら多分あるぞ」

「えっ!?」

「さっき倒したのとは別の魔獣が口にくわえてたからな。倒した時にしっかり回収しておいたぞ」

 俺はそう言いながら、次元鞄からロゼの腕を取り出し、驚きの表情のまま固まっている金髪少女にそれを見せる。


 しかし、反応がない。

 ……いくらなんでも、驚きすぎだろ。


 どうしたものかと思っていると、固まったままの金髪少女の代わりに、

「え? ちょ、ちょっと待ってください。じゃ、じゃあ、あなたはワイズアンブシャ―の他にも魔獣を倒したんですか?」

 と、先程のエルフっぽい護民士が問いかけてきた。


 あー、そういえばこの護民士には、ロゼの処置中に経緯を説明してあったが、あの角狼を倒した事については説明していなかったな。


「そうですね。あのアリジゴク……じゃなかった、ワイズアンブッシャーの前に」

「魔獣が2体も出現したと言われた時には驚きましたが、それを両方ともあっさり倒したあなたにも自分は驚きですよ……」

 なんて事を、呆れと驚きが半々といった表情で返してくる護民士の男性。


 うーん、そう言われてもなぁ……

「あのワイズアンブッシャーの方はちょっと硬かったですが、もう一匹の方は柔らかいというか、一撃で首を跳ね飛ばせるくらい大した事なかったので、それほど驚かれても――」

「い、一撃!? ま、魔獣は害獣と比べ、圧倒的に頑丈で生命力も高いんですよ!? 今柔らかいと言ったモータルホーンも、ロゼですら先手を取って攻撃を仕掛けてもなお、倒す事が無理だったくらいなのに、それを一撃とか……わけがわかりません!」

 俺が最後まで言い終える前に、身を乗り出してそう捲し立ててくる金髪少女。……この娘、さっきもそうだったが、驚いたり慌てたりすると、急に早口でまくし立ててくるなぁ……。いやまあ、わからんでもないけど。


「そ、そう……か?」

「はい、そうです! ……ああいやでも、風の防御障壁がなければ、ロゼでもあるいはいけた気もしますし、ああいやでも、ワイズアンブッシャーの方もあっという間に倒していたような……。ああいやでも――」

 金髪少女が何度も『ああいやでも』を繰り返しつつ、ブツブツと呟き始める。


「おーい……ロゼの腕は、どうすればいいんだ……?」


「えーっと……こちらに渡して貰えますか?」

 自分の世界に入り込んでしまった金髪少女の代わりに、治療士が預かると言ってきたので、俺は治療士にロゼの腕を手渡す。


 すると、腕を受け取ったその治療士は、ロゼが浸けられている緑色の液体の中に、同じように腕も浸し、そのバスタブらしき装置の側面に取り付けられている八角形のサファイアのようなものに手を触れる。と、その直後、腕の切断面がボコボコという音を立て始めた。


 うーん……この八角形のサファイアのような奴、俺がディアーナから貰った剣に付いていた宝石らしき物に似ているような……。というか、形に関してはまったく一緒だ。

「これでよし。――明日の昼すぎには接合が完了すると思いますよ」

 時計の方を見ながらそう告げる治療士。ちなみにこの世界も、1日は24時間らしい。


 その時計は、アナログな針時計なのだが、盤に刻まれた数字は、アラビア数字でもローマ数字でもなく、見た事のない形状のものであった。

 もっともどういうわけか、どれが1で、どれが2なのか、普通に認識出来るので別に問題はなかったりする。まあ、おそらくディアーナが最初に言っていた『全ての言語を脳に刷り込んだ』とやらの影響だろう。


 それにしても、半日かそこらで腕がくっつくとか、マジで医療系の技術に関しては凄まじいな、この世界……

基本的に文字とか数字は、この世界固有の物です。

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