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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第26話 治療と報告

「治療士の方はいなかったんですか?」

 俺がそう問いかけると、ヴォルフガングは、

「あー、いや、連れてくるつもりだったんだが……骨折だって話をしたら、それくらいならこいつを飲めばすぐに治るって言われてな」

 そう言って、毒々しい紫色の液体が入った牛乳瓶のような容器をシャルロッテに手渡す。……毒薬?

 

「あ、それが折れた骨を再結合させる魔煌薬です。色が毒々しいですけど、毒薬の類ではないのでご心配なく」

「どう見ても毒薬っぽいけど……ま、まあ、飲んで見るわ」

 アリーセに対して頷き、瓶の蓋を開けるシャルロッテ。

 そして中身を一気に飲み……干さないな?

 

「ううっ。もの凄いドロっとしていて飲みづらいわね……。味もなんだか米の研ぎ汁みたいだし……」

 シャルロッテが口を瓶から離し、そんな事を言ってくる。

 米の研ぎ汁みたいな味だとか言ってるけど、シャルロッテは飲んだ事があるんだろうか……


「ま、まあ、スライムの粘液が使われてますからね……。そのドロドロとした物が骨を再結合させるのに役立つので我慢して飲んでください」

 そうアリーセに言われて、渋々といった感じで薬を飲み始めるシャルロッテ。

 

 しっかし、スライムの粘液って言うと、こう……イメージ的には結合するどころか、逆に溶かしそうな気がするなぁ……

  

 なんて事を考えていると、シャルロッテが薬を飲み終えて言う。

「……全部飲んだけど、特に変わった感じはないわね」


「先に鎮痛薬を投与しているので、感覚――痛覚的には変化を感じないと思いますよ。ともあれ、1時間もすれば完全に再結合しますから、それまで無理な動きはしないようにしてくださいね」

「むしろ、これ以上無理な動きをしたくはないわ……」

 シャルロッテは、アリーセの言葉にそう返しつつ、腕を組んで首を左右に振る。


「たしかに今日はもう、魔獣だのアンデッドだのゴーレムだのとは、戦いたくないな」

「そうですね……」

 俺の言葉に続いてそう短く言い、ため息をつくアリーセ。


「あー、改めて聞くけどよ、下でなにがあったんだ?」

 腕を組みながらそう問いかけてくるヴォルフガングに対し、アリーセが答える。

「古の時代に作られたと思われる地下参道に繋がっており、奥に良く分からない扉がありました。地下参道やそこに至る洞窟に、アンデッドが多数存在していましたが、とりあえず掃討しておきましたので、そちらに関しては大丈夫だと思います」

 

「あと、マリーさんを襲った人形遣いの男がいたけど、魔法とは異なる転移の術で逃げられたわ。おそらく、あの男が使ったという睡眠魔法や防御術式の破壊は、それと同系統の術によるものだと思うわ。魔煌波による魔法じゃないから、魔法への対策をしても無駄ね」

 龍脈や霊力といった部分の説明が面倒だったのか、シャルロッテはそんな風に説明した。

 

「マジかよ……。そいつは厄介だな……」

 そう言って額を押さえると、天を仰ぎ見るヴォルフガング。

 

「再度現れる可能性が高いので、後ほどこちらで対策を取ろうかと思います。申し訳ありませんが、この部屋は封鎖しておいて戴けると……」

 アリーセがそんな風にヴォルフガングに言うと、

「ふむ。良く分からんが、対策してくれるっつーなら、願ったり叶ったりだ。そっちはギルドに任せるぜ。ここは『改装工事中』ってー扱いで封鎖しとくわ」

 と、そう言葉を返し、サムズアップしながら白い歯をキラリとさせた。

 ……そのポーズ、ここでもするのか……。

 

「そう言えばマリーさんはどうしたんですか? 見当たらないようですけど……」

 ヴォルフガングのポーズに呆れながら部屋の中を見回し、マリーがいない事に気づいた俺は、そう問いかける。


「しばらくここで休ませていたんだが、もう大丈夫だっていうから、さっき運航を再開した船で向こう側へ先に返したぜ。俺は一緒に戻るわけにもいかねぇから、後の事は船の添乗員に任せたけどな。ほれ、あれがその第一便だ」

 そう言って、窓の外を見るヴォルフガング。

 その視線の先には、夕日に照らされた湖を往く船の姿があった。


「ん、もう夕方? 思ったより時間かかったっぽい? うん」

 疑問を口にするロゼを見て、アリーセが懐中時計を取り出し、

「えーっと……。あ、もう17時を回っていますね」

 と、言った。もうそんな時間になっていたのか。


「……ふぅ。さすがに疲れたわね。そろそろ帰りましょうか。……って、その前に泥だらけの服をどうにかしたいわね。濡れた地面に叩きつけられた時に汚れて、そのままなのよね」

「そう言えば私も、転んだせいでスカートに泥が……。洞窟を探索すると分かっていたら、もう少し違う服にしたのですが……」

 シャルロッテの言葉に続くようにしてため息混じりに言うアリーセ。


「さすがに洞窟を探索するなんて、思ってもいなかったからなぁ……」

 そう俺が言うと、ロゼが俺の周りをぐるっと一周し、首を傾げる。

「うん? ソウヤの服、なんともない? ゴーレムの放ったフランベルジュみたいな短剣の束を、食らってたような……。うん」


「ああ、食らったな。ただ、俺の服って防御魔法の特殊効果で、破けたり汚れたりしても元通り――破れたり汚れたりする前の状態に戻るんだよ」

 エステルは『破れたり壊れたりしても』と言っていたが、実際には汚れにも有効である事は、昨日の雨で判明している。


「何よ、そのインチキくさい防御魔法」

「あ、そう言えばエステルさんがそんな事を言っていましたね」

 ジトッとした目で見てくるシャルロッテと、その横でエステルの話を思い出して相槌を打つアリーセ。

 

「でもこれ、魔法的な攻撃への耐性は凄まじいが、物理的な攻撃への耐性は皆無だから、微妙だぞ」

 俺のように物理的な攻撃を防ぐ手段が、他にあれば別だが……とは心の中でだけ言っておく。

 

「なんというか、極端すぎるわねぇ……」

 と、首を横に振ってため息をつくシャルロッテに続くように、

「ん、当たらなければ問題ない。うん。その防御魔法を付与した服も用意しておきたい、うん。それを付与出来る印、貸して欲しい。うん」

 3倍速い赤い人が言いそうな……でもちょっと違う言葉を口にしつつ、俺に対して視線で圧力を掛けてくるロゼ。そ、そこまで欲しいのか……


「まあ、別にいいけど……。今度な」

「ん、よろしく」

 

 俺とロゼがそんな話をしていると、

「あ、服を用意と言えば……午前中に買った服があったわね。あれに着替えるから出してくれない?」

 シャルロッテがそう言ってきた。

 

「ああ、あれか」

 そう言葉を返しながら、俺は次元鞄から紙袋を取り出す。

 

「ほれ」

「ありがと」

 俺はシャルロッテにそれを手渡し、アリーセの方を向く。

「アリーセもいるか?」


「あ、はい、お願いします」

 というので、アリーセの物も取り出し、手渡す。

 

「んじゃ、俺は外で番でもしてるわ」

 そう言って部屋の外へ出ていくヴォルフガング。

 

「あ、それじゃあ俺も。……って、その前にロゼはどうすっか……」

 ロゼのニーソックスはかなりの部分が蒸発してしまっている。

 ついでにパーカーも泥で汚れていた。


「ん? 私はパーカーと靴下を脱げばいい。うん」

 ロゼはそんな事を言い、ササッと両方とも脱ぎ去った。

 

「ほら問題ない、うん」

 そう言ってクルッと一回転するロゼ。

 ……なるほど、たしかに他は問題なさそうだ。 


「じゃあいいか。それじゃ俺は部屋の外で待ってるぞ」

「うん、ここに居ても仕方ないから、私も出る。うん」

 そう言ってきたロゼと共に俺は部屋の外へと出る。

 

 そしてそのままヴォルフガングと雑談したり、城内を見て回ってきたロゼから感想を聞いたりしつつ、待つ事しばし……

 

「お待たせしました」

「待たせたわね」

 という声と共に、アリーセとシャルロッテが部屋から出てくる。

 

 アリーセは、スカートが膝下くらいまでの長さのシンプルなフレアスカートに変わっているけど、上はそのままだな。ああ、あと靴がブーツから花柄模様のワンストラップシューズに変わっているか。

 シャルロッテの方は……キャミソールワンピースから、ダブルボタンの軍服っぽいツーピースに変わっているな。ミニスカートだからか、ちょっとだけガーターストッキングのガーターの部分が今までより少し長く見える。


 俺は、ふたりから汚れた服も一緒に入っている紙袋を受け取り、次元鞄に放り込む。

「よーし、そんじゃあ戻るとすっか。帰りも俺が送ってやるぜ」

 ヴォルフガングがそう声を掛けてくる。

 

 俺たちはそれに頷き、アルミューズ城を後にするのだった――

ようやく、アルミューズ城での話が一段落しました……

骨折すら簡単に治せる薬とはいえ、ドロっとしているのは飲むのが大変そうです。


追記:あとがきの途中でうっかり投稿していたのであとがきに追記 orz

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