第25話 開かぬ扉
今回は前回(前の話)と比べると短いです。
「手応えあり、よっ!」
「ん、これなら余裕っ!」
というふたりの言葉どおり、そこからはあっという間だった。
ゴーレムはふたりの猛攻によって斬り刻まれ、更に俺とアリーセの追撃によって打ち砕かれ、いとも簡単にスクラップと化した。
ゴーレムの捨て身の反撃で、ロゼとシャルロッテが幾度かパンチやタックルを食らっていたが、ほぼダメージはなさそうだ。
先程までの攻撃と違い、今のゴーレムの攻撃はどれも威力が低く、防御魔法の性能で十分軽減が追いついている感じだな。
「あれほどの苦戦していたのが嘘みたいですね……。一体、どういう事なのですか?」
沈黙させたゴーレムに対し、念の為にトドメを刺すロゼとシャルロッテの様子を遠巻きにして見ながら、俺に問いかけてくるアリーセ。
「ターンアンデッドボトルって、死体や物と融合してしまった変質した魔煌波や霊力を霧散させる効果だろ? で、あいつらの装甲も霊力と融合していた。つまり……」
「霊力を霧散――装甲から引き剥がす事で、霊力や魔法が通じるようにした、という事ですか」
「ああ、そういう事だ」
簡単に言えば、相手の装甲に付与されていた魔法防御力アップのバフ――強化効果を消して、魔法防御力を装甲本来の値まで引き下げてやった感じだな。
もっとも、霊力は攻撃にも使われていたらしく、魔法防御力だけじゃなくて、攻撃力まで下がっていたようだが。じゃなければパンチやタックルがあんなに弱いわけがない。
……ま、なにはともあれ、思った以上に上手く効いてくれて良かったというものだ。
「ん、さすがソウヤ。私じゃ思いつかない、うん。それとこの剣、斬れすぎ。霊幻鋼はとんでもない。うん」
そう言いながら、ロゼが俺に剣を返してくる。
「それにしても、あのローブの人物は何者だったのでしょう……?」
「鋼線にゴーレム……。人形遣いの類だと思うけど、龍脈に作用する術を使った事を考えると、巫覡――要するに霊力持ちね」
首をひねるアリーセに対し、そんな風に言葉を返すシャルロッテ。
「えっと、その巫覡という言い回しですけど、魔女と同じ意味……なんですよね?」
「ええ、そうよ。この大陸ではどういうわけか、霊力持ちの事は魔女と呼ぶのが一般的で、巫覡という言い回しはほとんど使われていないわね。多分、そう言っても通じない人の方が多いんじゃないかしら」
アリーセの問いかけに対し、そう答えるシャルロッテ。
「そうですね……。私も先程初めて聞きました」
「うん、たしかに」
アリーセに続く形で頷き、同意するロゼ。
ああ、なるほど……。それでシャルロッテは、霊力を持っている事が判明したロゼに対して『巫覡』ではなく、『魔女』という言い回しをしたのか。
「そう言えば、あの男が生み出した黒い渦に対して、龍脈を使った移動術だとか言っていたな。あれはどういう術なんだ?」
「龍脈――大地に流れるエネルギーの通り道みたいなものだけど、世界中に張り巡らされているそれに『乗っかって』一気に移動する術よ。龍穴というエネルギーの噴き出す穴を無理矢理生み出して、龍脈と地上とを繋ぐ事で、好きな場所まで一瞬で行ける、というわけ」
シャルロッテが俺の問いかけに対し、そう説明してくる。
「なるほど、要するに水の流れるパイプに穴を開けて、パイプ内を水の流れに乗っかって移動する様なもんか。そりゃ転移阻害の結界が役に立たないわけだ」
「そうね。まあ、狭い範囲なら龍穴を開けなくする『陣』を展開して防ぐ事はできるけど、広い範囲となると、対策のしようがないわね」
そう俺に言葉を返すと、肩をすくめて首を左右に振るシャルロッテ。
「ん、ところでこの扉、何? うん」
ロゼがそう言って奥の巨大な扉に手を触れる。
「先程の人物の話からすると、開くための『条件』が満たされていないようですが……」
「うん、試しに霊力を流してみたけど、無駄だった。どうやら違うらしい、うん」
アリーセの言葉にそう返すロゼ。扉に手を触れていたのはそれか。
「ちょっと奥を覗いてみるか」
俺は扉に近づき、クレアボヤンスを使ってみる。
……だが、扉の先には複数の図形を組み合わせたかの様な、よくわからない巨大な壁画しかなかった。
その壁画の描かれている壁の先は土と石しかない。どうやら扉を開けてもそれで終わりのようだ。
俺がその事を伝えると、
「その壁画だけど、古の時代に刻まれた術式か何かの類である可能性が高いわね。おそらく、あのローブ男が言っていたなんらかの『条件』とやらが満たされると、壁画に変化が起きるんだと思うわ」
と、推測を述べるシャルロッテ。
「とりあえず、現時点ではどうにもなりませんね……。まあ、この場所の事は、お父様に話して、監視して貰った方が良さそうですが」
「ええそうね、その方がい――っ!!」
アリーセの言葉に頷いたシャルロッテが、話の途中で片膝をついた。
「だ、大丈夫ですか!? もしかして、折れた肋骨が!?」
アリーセが声を掛け、俺たちが慌てて駆け寄る。
しかし、シャルロッテは「大丈夫」と言いながら手で制し、立ち上がって言葉を紡ぐ。
「大丈夫、薬のお陰で、怪我の痛みは一切ないわ。ただ……ちょっとめまいがしただけよ。多分、今日はなんだかんだで霊力を使いすぎた上に、何度か打撃を食らったから、そのせいだわ」
「なら、休憩と治療のためにも、こんな場所に長居は無用だ。とっとと城へ戻るとしよう。……っていうか、シャルロッテ、本当に大丈夫か?」
「ええ、あばらが折れた方は薬で全然問題ないし、めまいの方ももう大丈夫よ」
俺の問いかけにそう返し、先に歩いていくシャルロッテ。
とはいえ、さすがに心配なので、念の為シャルロッテの様子に注意しつつ、俺たちは来た道を引き返す。
……
…………
………………
心配は杞憂に終わり、特に問題もなくアルミューズ城上層の『城主の書斎』まで戻ってきた。
「お、戻ってきたか。下はどうだったよ? マリーを襲った奴は居たか?」
部屋で待っていたヴォルフガングがそう尋ねてくる。
「ん、とりあえずシャルが、あばら骨を折った。うん」
「大事じゃねぇか! 待ってろ、ちょっくら常駐の治療士を呼んでくるわ! たしか、もう来てたはずだからな!」
ロゼの話を聞き、慌てて飛び出していくヴォルフガング。
「……そこまで慌てなくても大丈夫なのに」
「いえ、治療は早いに越したことはありませんよ」
「そうだな。折角呼んできてくれるんだし、さっさと治すに限るだろ」
「うん。……ところで、どうやって治療を? うん」
「折れた骨を再結合させる専用の薬があるんですよ。素材にスライム系害獣の粘液が必要となる事もあって、魔煌薬士のライセンスがない者がみだりに作ってはならない、と法的に定められているため、私には作れませんが」
そんな話をしていると、ヴォルフガングが不透明な牛乳瓶のような容器を持って戻ってきた。
はて? 治療士の姿が見えないが、いなかったのだろうか……?
アルミューズ城関連の話はあと1話で終わりです。
……なんだか、予想以上に城での話が長くなってしまいました……
なお、間章の部分に『用語集その1』を9/7の夜に投稿してあります。
各種用語の詳細が気になる方は、そちらをご覧くださいませ。
(表に出てこないような裏設定まで書いてあるので、かなりの分量です)




