第24話 金剛不壊の敵との戦い
「ん。また転移魔法……?」
「ルクストリアの転移魔法を阻害する結界が全く役に立っていませんね……」
俺が思った事を、そのまま口にするロゼとアリーセ。
まあ、あれを見たら誰でもそう思うよな。
「あれは転移魔法とは少し違うわ。この街の結界程度じゃどうにもならないわね」
「ん? どういうことだ?」
「龍脈を使った移動術なんだけど――っと、詳しい話はあいつらを片付けてからにしましょ」
そう言いながら刀を構え直すシャルロッテ。
それに続いて、アリーセとロゼもそれぞれの得物を構える。
「ま、そうだな。ゆっくり話をさせてくれるようには見えないし」
俺はそう言って魔法杖を2本を呼び寄せた。
と、俺たちが戦闘態勢に入るのを待っていたかのように、ゴーレム2体が動き出す。
左側のゴーレムが先程の黒い球体を2つ発射すると同時に、右側のゴーレムが接近してくる。
「ん! アリーセ! 狙われてる! ソウヤ!」
ロゼが言うとおり、黒い球体はそれぞれ左右から、ロゼとシャルロッテを大きく迂回しつつ、アリーセへと迫っていた。
ロゼの言いたい事は理解していたので、アリーセをアポートで引っ張る。
2つの黒い球体はそのまま誰もいない場所に着弾。黒焔の火柱を生み出す。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「なに、大した事じゃないから気にするな。――それよりも、だ。あの球体って、矢とか魔法で撃ち落とせたりしないんだろうか?」
俺はアリーセを引っ張りながら、ふと思った事を口にする。
「え? ……あ、出来るかもしれませんね」
「次来たら試してみるか」
「わかりました! やってみましょう!」
そんな事を話したそばから、再度黒い球体を2つ発射するゴーレム。
同時にもう1体のゴーレムは左右の手に光る刃を生み出し、ロゼに襲いかかった。
シャルロッテを狙って飛来する2つの黒い球体めがけ、俺が火球と氷柱で、アリーセが魔法矢の連射で迎撃を試みる。
と、黒い球体にそれぞれが激突した瞬間、黒い球体が中空で炸裂、黒焔の柱を生み出す事なく消え去った。
「いけますね!」
「ああ。どうやら魔法で相殺出来るみたいだ」
黒い球体は迎撃が容易そうだと結論づけ、ロゼの方を見ると、
ロゼは難なく光の刃の連撃を回避し、大振りになった隙をついて円月輪を振るう。
が、ガキィンという甲高い音と共にその装甲に弾かれてしまう。
「んんっ! 硬……っ!」
直後、ゴーレムが蹴りを繰り出してくるが、それを跳躍して回避するロゼ。
と、それを狙っていたかの如く、ゴーレムの目から黒いまだら模様のあるオレンジ色の光線が放たれる。
あれはまずいっ!
サイコキネシスによる杖の制御を解除し、ロゼの方に近づきつつアポートを実行。
だが、アポートよりも光線の方が少しだけ速かった。
「ぐうぅっ!?」
ロゼの足を光線が掠めた瞬間、引き寄せる。
――引き寄せたロゼの足の皮膚が溶けてドロドロになっていた。
掠めただけでこれかよ……。直撃したら消し飛ぶぞ、これ……
「ロゼ!」
アリーセが次元鞄から薬品を取り出し、ロゼの足にそれを振りかける。
と、ドロドロになっていた皮膚が、動画を逆再生しているかの如き速度で復元されていき、たちどころにきれいな皮膚に戻った。
「念の為に治療薬を持ってきておいて正解でした……」
そう言って安堵の息をつくアリーセ。
ロゼが視界から消失し、標的を見失ったゴーレムが硬直。
シャロルッテは、その隙にロゼを攻撃していたゴーレムめがけ、一気に踏み込む。
と、その接近に気づいたゴーレムが、ロゼからシャルロッテへと視線を移した。
「動きが遅いわね!」
シャルロッテは、自身へと振るわれた光の刃を難なく躱し、赤いオーラを纏った刀で斬りかかる。
が、先程と同じく、ガキィンという甲高い音が響いた。
「ちょっ!? 霊力を乗せたのに斬れないとか、嘘でしょ!?」
シャルロッテが驚き声を上げながらバックステップした直後、真横に突然もう1体のゴーレムが姿を現す。
黒い球体を撃ってきた方のゴーレムの姿が見えないと思ったら、どうやらステルスの類で姿を隠していたようだ。
そのゴーレムが腕を伸ばし回転。
「あぐぅっ!?」
シャルロッテが腕の一撃をまともに食らって吹き飛ばされる。
くっ、吹き飛んだせいで微妙にアポートが届かないっ!
俺は急いでシャルロッテを追う。
吹き飛ばされたシャルロッテは、その先にあった柱に背中から激突。
「がふっ! ぐっ!」
地面に落下した。
同時にバックステップした側のゴーレムの胴体が開き、刃がウネウネと曲がりくねった鍔のない短剣が、束になって発射される。……フランベルジュの小型版といった感じだな。
なんて事を考えつつ、どうにかアポートの射程内に入ったシャルロッテを引き寄せて救出する。
「げふっ、ごふっ、あ、ありがと……助かったわ」
「い、いや、それより、モロに奴の攻撃を食らってたけど大丈夫なのか?」
「ええ。服の防御魔法で、どうにかあばらが数本折れた程度で済んだわ……」
「……それは『程度』じゃなくて充分過ぎる程の『負傷』だと思うが……。ホントに大丈夫なのか?」
そう問いかけた所で、黒い球体が4発こちらに向かって飛来するのが見えた。
しかし、それは既に迎撃出来る事が判明しているので、俺は火球と氷柱を放ち、とっととその攻撃を潰す。
そして、そのまま火球と氷柱を、こちらに接近してきていたゴーレムにもぶつけてみるが、やはり効いた様子がない。
だが、その俺の攻撃に対して何かを警戒したのか、接近してきていたゴーレムが一旦後退し、もう1体のゴーレムに並び立った。
その後退の隙を突き、アリーセとロゼがこちらに駆け寄ってくる。
「とりあえず、鎮痛薬を……。骨の修復は手持ちの薬では難しいので……」
「それで十分よ、ありがと」
アリーセから薬を手渡された薬を一気に飲み干すシャルロッテ。
「うん、刀を振るう分には問題なさそうね」
「え、ええっと……戦闘は可能だと思いますけど、無理をすると折れた骨が内蔵を傷つけて内出血しかねないので注意してください」
「ま、そこはどうにかするわ。それよりも――」
そこまで言って敵を見据えるシャルロッテ。
そして、その言葉を引き継ぐようにしてロゼが言う。
「うん、硬すぎる上に、初見殺しみたいな攻撃があるから厄介すぎる、うん」
直後、2体のゴーレムは近接戦闘を主体とするスタイルに切り替えたのか、両方同時にこちらへ向かって高速で接近してくる。
事実上、前衛を務めているロゼとシャルロッテが、ゴーレムを迎撃すべく俺とアリーセの前に立つ。
「まった! シャルロッテ側のゴーレムは俺がどかす!」
俺がそう告げると、シャルロッテは無言で頷き、攻撃対象をロゼと対峙するゴーレムへと切り替えた。
――アスポート!
シャルロッテが対峙しようとしていた側のゴーレムを、アスポートで強引に後方へと飛ばす。
時間稼ぎにしかならないが、まあ少しは効果があるだろう。
飛ばされたゴーレムは、即座に接近して来ようとするが、アスポートの射程圏内に入った所で、再び強引に後方へと飛ばす。
その間に、他の3人がゴーレムに色々と攻撃を試みるが全く効かない。
「チャ、チャージショットすら効きませんっ!」
「ん……。敵の攻撃は大した事ないけど、これだとジリ貧。うん。モータルホーンの時と一緒……」
チャージショットが効かずに驚愕するアリーセに、ロゼがそんな言葉を返す。
と、アスポートで時間稼ぎをしていた側のゴーレムが大きく跳躍した。
普通に接近するのは無理だと判断して、今度は上から仕掛けてくるつもりか?
だが、アスポートなら下から来ようが、上から来ようが関係ない。
――そう思った瞬間、ゴーレムの胴体が開き、例の短剣の束が射出される。
くっ、そう来たかっ! たしかに、あれを全部飛ばすのは無理だ!
だが、それなら……っ!
俺はサイコキネシスに切り替え、短剣を受け止めつつ、ゴーレムも押さえつける。
だが、さすがに無理があったらしく、短剣が脇腹を数本掠めた。
「っ!」
あの『死にかけた斬撃』ほど痛いわけでもないので、痛みを無視する。
「はあっ!」
俺は気合を入れて、受け止め、押さえつけたそれらを押し返す。
ゴーレムと短剣が勢いよく吹き飛んでいき、ゴーレムはガシャンという大きな音と共に柱に激突。そのまま床へとずり落ちる
「す、凄いですっ!」
水薬――おそらく傷薬だろう――を手に持って近寄ってきたアリーセが、歓喜の声を上げる。
「……いや、駄目だな」
俺はアリーセから受け取った水薬を飲むと、そう言ってため息をつきながら、首を横に降った。
なぜなら、ゴーレムは何事もなかったかのように立ち上がり、黒い球体を2つ発射してきたからだ。
「え、ええっ!? あ、あれだけの衝撃でも効いていないって事ですかっ!?」
驚きながらも矢を放ち、黒い球体をしっかり迎撃するアリーセ。
吹き飛ばしたゴーレムの動向をチラチラと観察していたシャルロッテが、交戦中のゴーレムをロゼに任せ、階段の踊り場へと走り出す。
そして、走りながら刀に纏った赤いオーラを刀身の2倍ほどまで伸ばした。
「ふっ!」
短く息を吐きつつ振るわれた刀の、その赤いオーラ部分がゴーレムを薙ぐ。
と、一瞬だけゴーレムの動きが止まった。
「やっぱり……っ! こいつら、霊力を纏って……いえ、装甲と融合しているわ! これじゃ、霊力による攻撃も、魔法による攻撃も、どっちも効かないはずよ……っ!」
と、シャルロッテが叫ぶ。
「ん? でも、今一瞬止まった、うん」
「霊力同士をぶつける事で、霊力を歪めて硬直させただけよ。歪みはすぐに正常化してしまうから、一瞬しか止まらないわ」
ロゼの疑問にそう言葉を返しつつ、再度オーラで薙ぐ。
たしかに一瞬ではあるが、止まっている。
「まあ、所詮は止められるだけ。物理的な攻撃じゃないと、ダメージは与えられないわね。ただ、物理的な攻撃は普通に装甲が硬すぎて通らないし、どうにもならない事には変わらないわねっ!」
そんな事を言いながら、こちらに向かってこようとするゴーレムを足止めし続けるシャルロッテ。
その様子を見ていた俺の頭の中が、急速に冷え始める。
――今の話からすると、つまり相手の霊力をどうにかすれば、霊力による攻撃や、魔法による攻撃が通る、という事か……?
だとすると、霊力をどうにかする必要があるが、どうすればいいんだ?
装甲から霊力を引き剥がす……もしくは、消し去ればいいのか?
と、そこでふと思い出す。
「アンデッドって、基本的に何らかの影響で変質した魔煌波とか霊力とかが、死体や物と融合して動いているだけの存在なのよ。だから、その動力源ともいうべき魔煌波や霊力を霧散させてしまえば、それで終わりってわけ」
そう言ったシャルロッテの言葉を。
霊力を……霧散?
………………そうかっ!
「アリーセ! ターンアンデッドボトルだ! あいつらに向かって、あれを全力で投げてくれ! まだあるよな!?」
俺はアリーセに向かって、そう言葉を投げかける。
「え? ……は、はい!」
アリーセは一瞬キョトンとした後、次元鞄に手を突っ込んでターンアンデッドボトルを取り出した。
「いきますっ!」
掛け声と共に、ロゼと交戦中のゴーレムめがけてターンアンデッドボトルを投げつけていくアリーセ。
乱れ飛ぶターンアンデッドボトルがゴーレムの装甲に当たり、例のきらきらと輝く物が浮き始める。
「うん? 動きが……鈍くなった? んん?」
というロゼの言葉どおり、ゴーレムの動きが目に見えて鈍っていた。
成功した……か? ともかく試してみよう。
「いけっ!」
俺は2本増やして、合計4本になった魔法杖で火球、氷柱、雷撃、光線を一斉に放つ。
そして、その全てが命中し、衝撃で転倒するゴーレム。
装甲を見てみると、魔法の命中した部分がひしゃげていたり、ヒビが入っていたりした。
「え? どういう……事、です?」
ポカーンとしているアリーセに、
「呆けるのは後にして、もう1体の方にも投げてくれ!」
そう告げる俺。
「あ、そ、そうでした!」
アリーセは慌てて駆け出し、シャルロッテと交戦中のゴーレムめがけ、階段からターンアンデッドボトルを投げていくアリーセ。
俺も階段へ向かって走り、アポートの射程内に入った霊幻鋼の剣を回収。
直後、衝撃から復活したゴーレムが立ち上がり、再度ロゼを襲う。
ロゼがそれを回避した所を見計らい、
「そいつに全力で霊力を込めてたたっ斬ってやれ! そいつなら壊れたりはしないからな!」
と、霊幻鋼の剣をアスポートでロゼの脇へと転送する。
さすがに円月輪の刃であの装甲を破るのは厳しい。全力で霊力を込めたらいけるだろうが、そうすると今度は円月輪の耐久力が怪しい。サージサーペントの時は『軽く込めた』と言っていたからな。
そこで霊幻鋼の剣だ。霊幻鋼の劣化版である呪紋鋼でも、全力で霊力を込めて大丈夫だという話なのだから、霊幻鋼であれば耐久力に問題があるなどという事は、絶対にありえない。
「ん! わかった!」
ロゼが円月輪を腰のホルダーに収納し、霊幻鋼の剣を両手で構える。
「シャルロッテ! そっちもいけるはずだ!」
俺はきらきらと輝く物が浮いているのを目で捉えながら、そう言い放つ。
「了解よ!」
俺の方をちらりと見て、言うシャルロッテ。
――シャルロッテとロゼ、ふたりがほぼ同時に動き出す。
ゴーレムの光る刃の攻撃をかいぐぐり、これまたほぼ同時に一閃。
それぞれの刃が、あれほど硬かったゴーレムの装甲をやすやすと引き裂いた――
戦闘が予想以上に長引きました……
なお、本日中に用語集その1を、例によって間章に追加予定です。
今回は魔煌波や霊力といった魔法やそれに類する物をメインにした物になります。
(害獣や魔獣の説明など少し違うのも入っていますが)
追記:駆け寄ってくる人物が間違っていた所と、幾つかの誤字脱字を修正しました。




