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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第22話 地下洞窟

大分遠回りしてしまった感じですが、城内での話が終わり、先へ進みます。

「うう……。凄い醜態を晒した気分です……」

 マンガだったら、どよーんという書き文字が出てそうな勢いで、肩を落としているアリーセ。


 そんなアリーセの肩に手を置き、

「ん、どうせなら今日一日シャルロットの真似で通せばいい、うん」

 なんて事を言うロゼ。


「無理に決まってます!」

「それ、私の方にも精神ダメージ来そうなんだけど……」

 アリーセに続いて、シャルロッテまでそんな事を言う。

 まあ……魔法探偵シャルロットのモデルは、シャルロッテだしなぁ。


「…………あー、その…………なんだ…………?」

 困惑し、なんと声を掛けるべきか迷っている様子のヴォルフガングだったが、唐突にマリーの方を向き、

「――なあ、マリーはどうして棺なんかに閉じ込められてやがったんだ?」

 ここまでの会話を全てなかった事にして、そうマリーに問いかけた。

 ……どうやらアリーセたちに声を掛けるのは諦めたようだ。

 

「え? あ、はい、サージサーペントが出たというので、見学者の皆様を避難させていた時に、上層で何故か壁を眺めていた見学者の方がおられまして、避難するように促した所、突然、睡眠魔法を使われて眠らされてしまったんです……。そして、気づいたらあの中に……」

 と、マリーがそう言って肩を落とす。壁って、まさかあそこか……?


「なに? 睡眠魔法だぁ? そいつはおかしいな……攻撃魔法や妨害魔法が組み込まれてるよーな魔煌具は、桟橋の探知機に引っかかるはずなんだが……。さっき点検した時は問題なかったから、壊れてたってー事もねぇしなぁ……」

 ヴォルフガングはそこまで言うと、一度言葉を区切る。

 そして、マリーの胸元のバッジに視線を向け、言葉を続ける。

「それに……その手の魔法を無力化する効果のあるそのバッジを渡しているはずだが……」

 と、そんな風に言いながら、マリーの胸元のバッジに視線を向けるヴォルフガング。

 

「そのバッジ、何の術式も刻まれていないわよ」

 さらりとそんな事を言うシャルロッテ。

 

「なにっ!?」

 驚きの声を上げるヴォルフガングに対し、シャルロッテが補足の言葉を紡ぐ。

「正確に言うなら、刻まれていたけれど破壊されているわね。そういう『痕跡』を感じるのよ、そのバッジから」


「つーことは、防御術式を破壊した上で、睡眠魔法まで使ったってーのかよ……。なにもんだよ、そいつ……」

 ヴォルフガングが額を右手で押さえながら、頭を振る。

 

「ん、そこまでして、この棺にマリーを閉じ込めたのは……なぜ? うん」

 ロゼが、そんな疑問を口にする。

 

「多分、何かを起動するのに生命力が必要で、ちょうどいい感じだったからじゃないかしらね? マリーさん、その見学者に話しかけた時は1人だったのかしら?」

「あ、はい。私1人で上層を回っていました。その場に残っていた見学者の方も、その人だけでしたね」

 シャルロッテの問いかけに対し、そう答えるマリー。


「なるほど……他に目撃者もいないし、口封じにもなるから好都合……って事か」

「たしかに一番納得のいく理由ですね。……でも、何を起動したのでしょう?」

 俺の言葉に続くようにして、立ち直ったらしいアリーセがそんな風に言い、室内を見回す。

 

「術式のラインは……2方向に伸びているわね……」

 そう言いながら、監獄区画側の壁へと歩いていくシャルロッテ。

 そして、

「しょぼい幻術ね」

 なんて事を言い、壁に向かって手をかざす。

 

 と、その直後、上層の隠し通路の奥にあった紋章と同じ紋章が壁に浮かび上がる。

 

「それって、もしかしてこっちからでもあの仕掛けを操作出来るって事か?」

「ええ、多分ね。ちょっと試してみるわ」

 俺の言葉にそう返しながら、紋章に手をかざすシャルロッテ。

 

 ほどなくして、隠し通路の時と同じく、紋章が赤く光る。

 

「ん、ちょっと見てくる」

 言うが早いか階段を駆け上がっていくロゼ。

 

 そしてあっという間に戻ってきて、

「ん、上が塞がっていた」

 そう俺たちに告げる。

 

「はやっ! でも、これで確定ね。とりあえず出られなくなっても困るから、開けておくわ」

 シャルロッテはロゼの速度に驚きつつも、そう言ってもう一度紋章に手をかざす。

 そして、

「こっちの流れはこの紋章が終点だから……もう1つの方ね」

 そんな風に呟きながら、今度は階段から見て対角線上の位置へと歩いていく。

 

「この壁、何かあるわね……。生命力を吸収する術式の先が霊力で起動する紋章だったという事は、この壁に直接霊力を流し込めば――」

 と、そんな事を誰にともなく呟きつつ、壁に手をかざすシャルロッテ。

 

「ぐ……っ!?」

 突然、苦悶の表情と共に、シャルロッテが膝をついた。

 

「どうした!?」

 俺が急いで駆け寄ると、

「大丈夫……。思った以上に霊力を吸われただけよ」

 なんて事を言いながら、立ち上がる。

 

「ロゼ、少し手伝ってくれない? ちょっとこれは私だけじゃキツイわ……」

 シャルロッテがそう呼びかけると、ロゼが近寄ってくる。

 

「ん、手をかざして、これに霊力を流し込めばオッケー? うん」

「ええ、それでいいわ。それじゃ……いくわよ!」

 ふたりがそう言って壁に霊力を流す。

 

 しかし、今日一日で何度も『霊力』というのを見聞きしたせいか、なんだか慣れてしまった感じがあるが、このふたり、かなり特殊な存在だよなぁ。

 アルミナでは、霊力を有する人間なんて見かける事すらなかったしな。

 いやまあ、ロゼがそうだったんだが、あの頃はまだ霊力の正しい使い方みたいな物を理解していなかったようだし、そもそも、ロゼとはそんなに一緒に行動していないからなぁ。

 魔獣を狩りつつ、ディアーナの所に行くために別れてしまったし。

 ん、まてよ? もしかしたら……だけど、ディアーナはその構成自体が霊力である可能性も……?


 なんて事を考えている間に壁が消滅し、更に下へと続く階段が姿を現した。


「ふたりがかりなら大した事ないわね」

「ん、余裕」

 そんな事を言うシャルロッテとロゼ。

 

 ……いや、シャルロッテの方はよく見ると額に汗が浮かんでいるな。どうやら、ちょっと無理したようだ。

 

「この先はどこに通じているんだ……?」

「奥を調べてみたい所ですけど……」

 俺の言葉に続くようにしてアリーセがそう言って、マリーの方を見る。

 

「マリーさんを置いていくわけにも行きませんし、どうしましょう……?」

「ふーむ、それなら俺とマリーは上に戻ってっから、すまねぇけど、あんたらだけで調査してきてくれねぇか? そろそろ渡し船の運行が再開するはずだから、誰かが入口に立って、立ち入らないようにしておかねぇといけねぇしな」

 アリーセの言葉にそう返すヴォルフガング。

 

「あ、たしかにあれからもうすぐ1時間ですね」

 ポケット――正確にはポケットに刻まれた収納術式から、手のひら大の懐中時計を取り出し、時間を確認するアリーセ。

 

 そう言えばこの世界、ここまで技術力が発展しているのに、腕時計がないのが不思議っちゃ不思議だな。

 まあ、次元鞄や収納術式があるから、懐中時計でも別に持ち歩くのに困らない、と言われればそれまでの話ではあるのだが。

 

「それじゃ、俺たちだけで行くとするか」

「ん、なら私が先頭で行く、うん」

 ロゼが俺に対してそう言いながら、手を伸ばしてくる。

 

 俺はロゼにスティックを手渡し、先導役を任せる事にした。

 ロゼが先頭なら安心だしな。

 

                    ◆


 ロゼを先頭に階段を下りていった俺たちは、再び鋼線の罠に遭遇するも、ロゼによってあっさりと取り除かれ、洞窟のような場所へとたどり着いた。

 

「明らかに後続に対する罠よね、あれ」

「ああ、つまり……立ち入られたくない奴がこの先にいるって事だな」

 シャルロッテの言葉に頷き、そう返す俺。


「ん、それにしても、急に自然の洞窟になった。うん」

 ロゼが周囲を見回しながらそう言うと、

「そうですね。階段の長さからして……多分ですけど、ここは湖底よりも更に下――ルクストリアの地下洞窟ではないかと思います」

 と、そんな推測を述べるアリーセ。

 

「そう言えばアリーセ、午前中に行った大聖堂で『地下洞窟の大伽藍を、中世戦国時代に改修したもの』って言ってたよな。もしかしてあそことここって……」

 俺がアリーセへ視線を向けてそう言うと、アリーセも俺に視線を向け、

「はい、あそこも地下洞窟の一部なので大昔は繋がっていたと思いますよ。残念ながら、中世初期――まだ、地下洞窟が『ガディ・アドの迷窟』と呼ばれていた頃に発生した広域崩落の際に、あの周囲が崩落し、大伽藍のみが取り残された形となったので、今では繋がっていませんが」

 という説明してきた。

 

「ちなみに魔力スポットも、大聖堂に改修された大伽藍と同じく、どことも繋がっていない状態になってしまっている地下洞窟の一部を利用して作られているわよ。あの洞窟、全体的に魔晶の影響が強いから、そういうのを作るのにもってこいだし」

 シャルロッテが補足するように言ってくる。

 

「へぇ……そうなのか。ところでその広域崩落って、今もう一度何かの拍子で発生しても大丈夫なものなのか?」

「危険そうな場所は埋めるか補強してあるから大丈夫よ。そもそも……中世の広域崩落で、かつての迷窟の7割以上が既に埋もれてしまっているもの」

「うん、既に迷窟じゃない。迷わない窟。うん」

 俺の懸念に対し、シャルロッテとロゼがそんな風に言ってくる。迷わない窟って……


「それにしても、こんな街中を歩くような格好で探索する場所じゃないわねぇ……」

 と、ため息混じりに言うシャルロッテ。

 

 俺はシャルロッテの言葉に頷き、言葉を返す。

「まあたしかにそうだな。地下水が染み出してきているのか、全体的に湿っていて滑りやすそ――」

「きゃあっ!?」

 俺が言い終える前に、アリーセの悲鳴が聞こえる。


 何があったのかと思い、そちらに顔を向けると、尻餅をついているアリーセの姿があった。……どうやら転んだようだ。

 

「す、滑らないように慎重に歩かないと駄目ですね」

 と、赤面しながら言うアリーセに手を伸ばし、「そうだな」と言いつつ助け起こす俺。

 

「ん。足元に気をつけて進む。――うんでも、進む前に敵の始末が先。うん。どうやら、アンデッドが巣くってるっぽい。うん」

 アリーセにそう言いながら円月輪を構えるロゼ。

 

 その直後、正面からカタカタという音が聞こえてきたかと思うと、少し先にある曲がり角から、人体骨格模型みたいな奴の群れが、次々とその姿を現してきた。

 

 アンデッド――スケルトンの群れか……

というわけで、ガディ・アドの迷わない窟に突入です(そんな名前ではありませんが(笑))


それはともかく、用語と地名が多いので、種族説明の様にどこかのタイミングで纏めたい所です。

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