第21話 アルミューズ城・棺の中には……
ようやく到着です。
――予想に反して、鋼線は1ヶ所にしか仕掛けられておらず、程なくして俺たちは例の監獄区画の奥に見えた部屋へと辿り着いた。
俺は、ロゼからスティックを受け取り、室内を照らす。
「たしかに棺が並んでいますね……」
「やっぱり、昔の霊安室……なのかしらね?」
「ん、なんだか不気味」
「中世戦国時代に作られた物にしちゃ、随分と装飾の派手な蓋だな。当時はもっとシンプルな物が主流だったんだが……」
4人が、それぞれそんな事を口にする。
と、その直後、棺の1つがガタガタと音をたてて揺れた。
「……なんか揺れたぞ」
「うん。……開けてみる?」
俺の言葉に対し、そう返しながら、ロゼは揺れた棺へと近づく。
「アンデッドが潜んでいる可能性があるわね……」
「アンデッドに有効なターンアンデッドボトルなら持っていますよ? 出しましょうか?」
「え、あるの!?」
「だって、幽霊に遭遇したら困るじゃないですか」
「ま、まあそうかもしれないけど……」
なんていう会話をするシャルロッテとアリーセ。
……っていうか、爆発系のボトルどころか、ターンアンデッドボトルなんて物まであるんだな。魔法薬、幅広すぎじゃないか?
「とりあえず、そのボトルは出しておいてくれ」
そうアリーセに向かって言うと、俺はロゼに歩み寄る。
「よし……開けてみるぞ」
「ん、了解」
俺とロゼは棺を前後から挟み込むような形で立ち、棺の蓋に手をかける。
ちらっと視線をアリーセとシャルロッテの方へ向けると、ふたりは少し離れた場所で銀色に輝くボトルを手に持って構えていた。……あれが、ターンアンデッドボトルとやらだな。
「持ち上げるぞ」
そう声をかけて、蓋を持ち上げる。
……が、動かない。
ヴォルフガングも交えて何度か試してみるも、ピクリともしなかった。
いっその事、サイコキネシスで蓋を吹き飛ばしてしまおうかと思って試してみたが、まったく動かなかった。
っていうか、どういうわけか蓋を『掴めない』んだよなぁ……
俺が、うーむ……と唸りながら首をひねると、
「……釘で止められているわけでもねぇのに、なんで動かねぇんだ?」
と、ヴォルフガングもまた、そんな風に呟き、首をひねった。
「――よく見たら、古い施錠魔法の術式が刻まれているわね……。術式をどうにかしないと開かないわよ」
シャルロッテが俺たちの方へと歩み寄り、そう言ってくる。
なるほど、魔法か……。それで『掴めない』んだな。
「施錠魔法かよ……。また厄介なものが出てきやがったな」
頭を掻きながらため息混じりに言うヴォルフガングに対し、
「まあ、施錠魔法はあくまでも蓋を開かないようにしているだけだし、蓋の下の部分を斬ってしまえばいいわよ。そうすれば施錠魔法なんて関係ないわ」
なんて事をさらっと返すシャルロッテ。
「斬れるんかい!」
ヴォルフガングが驚き半分呆れ半分といった表情をする。まあ、わからんでもない。
もっとも、あのサージサーペントの甲羅をやすやすと斬り裂いていたくらいだから、この棺程度なら簡単に斬れてもおかしくはないのだが。
その直後、再び棺がガタガタと揺れた。
……シャルロッテの言葉に反応でもしたんだろうか?
「それじゃ、行くわよ」
シャルロッテはそう言うと、刀の切っ先を横に向け、刃を水平にする。
そして、棺の蓋の下が目線の先になるよう、腰を落とした。
「ふっ!」
短く息を吐きながら刀を振るうシャルロッテ。
振るわれた刀から青い半月状の衝撃波が飛び、棺の蓋の少し下を駆け抜ける。
なるほど……これが霊力を武器に流した一撃、という奴か。
「とりあえず、斬ってみたわ」
シャルロッテが、なにやらつまらぬ物を斬ってしまった人のような口調で、鞘に刀をしまいながら言ってくる。
あの衝撃波、こんにゃくも斬れるんだろうか……?
などというアホな事を考えつつ、蓋に手をかけてみると、たしかに今度は動きそうだった。
というわけで、ヴォルフガングの方を見て、
「ヴォルフガングさん、そっちをお願いします」
そう声をかけ、再び棺の蓋を持ち上げてみる。
――すると、蓋は先程までのはなんだったのかというくらい、あっさりと持ち上がった。
それなら……という事で、俺とヴォルフガングはそのまま蓋を横へとどかす。
「え?」
ターンアンデッドボトルを手に持ったアリーセが、そんな声を発して硬直する。
「なんでマリーがこんな所にいるんだ……?」
ヴォルフガングが信じられない物を見たと言わんばかりの顔で、棺の中にあった物――否、棺の中にいた人物の名を呼ぶ。
「た、助かり……ました……」
ヴォルフガングにマリーと呼ばれた小柄な女性が疲労困憊といった様子で、そう言ってくる。
その女性の服装を良くみると、港の係員と同じ物だったので、探していた人物――マリーで間違いなさそうだ。
「随分、疲弊しているようだが……大丈夫か?」
棺の中からマリーを抱え上げながら問いかけるヴォルフガング。
ふむ……。たしかにマリーの顔色があまり良くないな。
「なんだか……良くわからないんですけど……この棺に……閉じ込められている間、全身から……力が抜けていくような……そんな感じだったんです……よ……」
というマリーの言葉に、シャルロッテは何かに気づいたのか、棺の中に視線を巡らせると、
「……内側に生命力を吸収する術式が刻まれているわね」
なんて事を言ってきた。
「それって、ドレインバットやブラッドリーチのような害獣が使う、エナジードレインみたいなものですか?」
アリーセがそうシャルロッテに問いかけると、シャルロッテはそれに頷き、「その通りよ」と肯定する。
ってか、エナジードレインって……。なんだか面倒な害獣もいるみたいだな。
「でしたら、賦活薬ですね。……一番強いのを使いましょう」
そう言いながら次元鞄に手を突っ込み、ピンク色の薬を取り出すアリーセ。
ピンク色の薬……。随分と変わった色の水薬だな。
ああ……そういや昔、南国へ出張に行った親父が土産だとか言って、向こうで買ってきた飲み物がこんな感じの色だったなぁ……。妙にドロっとしていたけど、なかなかうまかった。
なんて事をふと思い出していると、アリーセはその薬を、ヴォルフガングによって床に降ろされたマリーへと手渡し、こう言った。
「これを飲んでください」
「え、あ、はい」
マリーは受け取った薬を、少しだけ躊躇いがちに飲む。
と、薬を飲み干した瞬間から、マリーの顔色がみるみる良くなってきた。
「な、なんだか一気に身体が軽くなったような気がします」
座り込んでいたマリーがそう言って立ち上がる。
「そりゃまあ、薬屋で1本1万リムくらいで売られているような薬だし」
シャルロッテがそんな事を言った。……たかっ!
「うええっ!? そ、そんな高い物だったんですかっ!? あわわ、ど、どうしましょう……っ!」
と、驚き、慌てふためくマリーに対し、ヴォルフガングが告げる。
「薬の代金ならウチの経費で払うから心配すんな」
おお、かっこいいな!
と思ったら、そんなヴォルフガングに対し、
「いえいえ、お金なんていりませんよ。あれ、私が作ったものですから。アルミナで素材をいっぱい手に入れたので、まだたくさんありますし。……あ、念の為もう1本渡しておきますね」
なんて事を笑顔で言いながら、マリーにもう1本手渡すアリーセ。
更に上がいた!
「あわわわわわっ! そ、そんなっ、う、受け取れませんーっ!」
マリーは手渡された事に気づき、慌てて薬を返そうとするが、それを拒否するアリーセ。
渡そうとする。返される。渡そうとする。返される……
そんな感じで、しばらく押し問答を続けていたふたりだが、急に何かを思いついたらしいアリーセが、次元鞄からもう1本取り出し、それをマリーに対して押し付ける。
「もう! そこまで拒否するなら、これもあげちゃうからね! これ以上拒否すると、もっと増やすから覚悟しなさい!」
という、何だか支離滅裂感のある発言をするアリーセ。
っていうか、このアリーセの変な口調、もしかして……
「ひいっ! ご、ごめんなさい! あ、ありがたく受け取らせていただきます!」
俺が心の中で結論を出す前に、恐縮しきった声音のマリーが、そんな風に言うのが聞こえてきた。
なんだか、マリーが首ふり人形みたいになっているなぁ……と思っていると、横にいるロゼとシャルロッテが、アリーセとマリーのやり取りを見ながら、言う。
「……んん? なんだかさっきのアリーセ、魔法探偵シャルロットっぽい。うん」
「え? ……あー、そう言えば昔、押し問答をされまくった時に、段々面倒になってきて、あんな事やったわねぇ……私」
ああ、やっぱりそうか……。昼飯の時に聞いた魔法探偵シャルロットの口調だよな、あれ。
そう俺が納得して相槌を打つと――
「ふへっ!?」
アリーセが勢いよくこちらに顔を向け、素っ頓狂な声を上げた。
どうやらアリーセの言い分によると、魔法探偵シャルロットの真似を無意識のうちにやっていたらしく、顔を真っ赤にして慌てふためき始めた。
うーむ……。もしかして昼飯の時にやった演技の影響で、何か変なスイッチが入ったか、タガが外れてしまったんだろうか? だとしたら、改めてすまん……
俺はとりあえず、心の中でアリーセに謝罪しておいた。
次の更新は明後日の予定です!




