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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第20話 アルミューズ城・仕掛けと隠し階段

 俺は宣言通り『領主の書斎』の中を色々物色してみたものの……特にこれといって何も見つからなかった。

 

 うーむ、デカい机まで動かしてみたけれど……駄目だな。収穫なし、だ。

 さっき、貸切状態が終わる前――要するに船の運行が再開される前――に、何とか見つけたいと皆には言ったが、この城の大きさを考えると少々厄介だな……

 

 どうしたものかと考えていると、シャルロッテが入ってきて、 

「ソウヤ、ちょっとついてきてくれない。手伝って欲しい事があるのよ」

 そんな風に言ってきた。

 

 何を手伝って欲しいのか良くわからないが、とりあえず了承して後をついていく。

 と、通路の途中で突然立ち止まるシャルロッテ。

 

「ここなんだけど、扉の上に幻術を重ねて壁に偽装されていたわ。扉の方はもう開けてあるからこのまま普通にすり抜けられるわよ。ついてきて」

 と、そう言いながら壁の中に吸い込まれるようにして消えていくシャルロッテ。

 

 ……ああ、随分前にこれと同じ物があったな、そう言えば。

 そう、全ての始まりになったあのトンネルだ。

 

 あの時の事を思い出しながら、俺は壁の中へと足を踏み入れる。

 

 すると、あの時のトンネルと同じように壁の中には別の通路があり、後ろを振り向くと今までいた通路が見えていた。

 ……この辺りもまったく一緒だな。ここまでそっくりだと、なんだか不思議な気分だ。

 まあ、トンネルの時とは違ってこちらには扉があるので、それを閉めてしまえば、例えこの部分に触れたとしても壁にしか感じられない。

 そういう点で言うと、偽装の度合いはこちらの方が圧倒的に上だな。なにしろ、トンネルのは普通に触っただけですり抜けたからなぁ……


 そんな事を考えていると、シャルロッテが通路の先にある欄干に手をかけながら「こっちよ

」と、呼びかけてきた。

 欄干があるって事は、あの先は吹き抜けになっているみたいだな。

 

 シャルロッテに近づくと、そこは予想通り吹き抜けになっており、遥か下に青い水が見えた。


「青い水……って事は、湖と繋がってんのか、ここ」

「そうみたいね。おそらく城から逃げるための隠し通路だったんじゃないかしら? 梯子をつけておけば湖まで下りられるし」

 なるほど……たしかにそうだな。もっとも――


「最後は泳ぐ必要がありそうだけどな。それで……ここがどうかしたのか?」

「向こう側の壁のあの辺を見て」

 そう言って人さし指で、壁の一点を指し示すシャルロッテ。

 

 見ると、そこには家紋のようなものが描かれていた。

「……この城の持ち主の家紋かなにかか?」


「違うわよ。あれは、霊力を流すと仕掛けが起動する紋章。古代や中世の術者たちが、好んでああいうのを使っていたのよ。自分たちしか起動できないようにね」

 シャルロッテはそう言って両手を大きく開き、やれやれと言わんばかりに首を左右に振る。


「なるほど……。まあ、セキュリティとしては優秀だな。で、あれをどうしろと?」

「私が霊力を流して起動させるのは簡単なんだけど……。跳躍してあそこまで行って、起動させるまではいいとして……その後、どうやってもそのまま落っこちるじゃない?」

「そりゃそうだ。ついでに言えば、さすがにこの高さから落ちると、下が水とはいえ危険――って、ああそういう事か」

 俺はシャルロッテが何を手伝って欲しいのか理解する。つまり、その前にアポートで救出して欲しい、という事だ。

 

「しっかり引っ張ってやるから任せておけ」

 そう言って俺は、右手で自分の胸を軽く2回叩く。

 

「理解が早くて助かるわ。それじゃ、お願いね」

 という言葉と共に、欄干の上に立つシャルロッテ。

 

 そして、右手を何度か握ったり開いたりした後、勢いよく跳躍。

 そのまま向かい側の壁にある紋章に右手をつく。

 と、その瞬間、紋章が赤く光り始めた。どうやら起動に成功したようだ。


 ――アポート!


 すかさずアポートを使い、落下しかけていたシャルロッテを救出する。


「っとと」

 足元に何もない状態――しかも落下しかけの状態から、床の上にいきなり移動したからか、シャルロッテがバランスを崩して倒れそうになる。

 

「おっと!」

 慌てて俺はシャルロッテを抱きとめ、そして問う。

「大丈夫か?」


「え、ええ大丈夫よ。ありがとう」

 何やら若干顔を赤らめてそんな事を言ってくるシャルロッテ。

 バランスを崩したのが恥ずかしいのだろうか? 気にしなくてもいいものを。

 

「ところであれって、何が起動するんだ?」

「さあ……? でも、あの壁の向こう側ってちょうど、領主の書斎じゃない?」

 シャルロッテが俺の問いかけに対し、そんな風に返してくる。

 地図を見てみると、シャルロッテの言う通り、たしかに位置的には領主の書斎と壁を隔てた場所だった。

 

「戻ってみるか」

「ええ」

 俺とシャルロッテは頷き合い、先程の部屋――『領主の書斎』へと移動する。


 途中でヴォルフガングとアリーセに遭遇したので、先程の紋章の事を伝え、共に書斎へと戻ってきた。……そういや、ロゼはどこいったんだ?

  

「うおっ、床ごと消えてるじゃねぇか……」

 俺とシャルロッテが書斎に入った所で、後ろから入って来たヴォルフガングがそんな声を上げる。

 

 そう、階段の上にあった床がまるっと消失していたのだ。

 

「歯車仕掛けと術式の組み合わせですか……随分と大掛かりですね」

 続いて入ってきたアリーセが、床のあった場所を見つめて言う。

 

「ん、階段は真っ暗。明かりがないと危険、うん」

 階段から顔を出しながらそう告げてくるロゼ。いつの間に……


「あー、たしかにこりゃ暗すぎて足を踏み外しかねんな……。んー、下からカンテラでも取ってくっか。ちいっとばかし古いが、まだ使えんだろ」

 階段を覗きながらそうヴォルフガングが言い、部屋から出ていこうとする。

 

「あ、ちょっと待ってください。多分、これで大丈夫です」

 俺はヴォルフガングを呼び止めると、エステルから購入した《銀白光の先導燐》のスティックを次元鞄から取り出す。

 

「あ、それ、エステルさんが作った魔煌具ですよね?」

「ああ。便利だから買っておいたんだよ」

 アリーセの問いかけにそう言葉を返しつつ、スティックを起動する。

 と、あの時と同じように、強く明るい光が生み出された。

 

「うおっ!? 随分と明るいなっ!」

 ヴォルフガングが眩しそうに右手で光を遮りながら、驚きの声を上げる。

 

「へぇ……。エステルには昨日も色々と驚かされたけど……これもまた凄いわね。なんというかもう、魔煌技師としては最高峰と言っても過言ではないわね、ほんと」

 なんて事を言って褒め称えるシャルロッテ。


 まあたしかに、エステルの作った物は色々強力すぎる気は俺もする。

 あの知識と技術を教えたであろう師匠というのは、一体何者なのだろうか……


「ん、それじゃ早速行こう。あ、念の為、私が先頭で行く。うん。罠があったら大変、うん。ソウヤ、それ貸して」

 そうロゼが言ってきたので、俺は頷いてロゼにスティックを手渡す。


 慎重に罠がないかを確認しつつ階段を下りていくロゼ。

 それに続くようにして、俺たちも階段を下りていく。

 

 と、いきなりロゼが円月輪を振るう。そして更に投げる。

 

「……ん、暗殺用の鋼線が仕掛けてあった。うっかり足を踏み入れたら、絡みつかれて動けなくなる。うん。ついでにそのまま無理に動いたら切断される。うん」

 なんて事を言いながら、切り裂いた鋼線の一部を見せてくるロゼ。

 

 ゲームとかアニメとかで、たまにこれを使うキャラがいるけど、実物を見たのは初めてだ。

 っていうか、これで絡め取った上、やろうと思えば切断する事まで出来るとか、なんとも末恐ろしい武器だな……


「なんでそんなものが、こんな所に仕掛けられているんですかね?」

「んー、謎。ただ、新しい物だから、昔から仕掛けられていたわけじゃない、うん」

 アリーセの疑問にそんな風に返すロゼ。

 

「って事は、最近ここに誰か立ち入ったのか……。でも、どうやって?」

「そうね……。あの紋章をどういう風に起動したのかしらね……? しかも、起動状態が解除されていたし……」

 

 俺とシャルロッテは首をひねって考えるも、結論は出なかった。

 

 だが、誰かが立ち入っているのは間違いないという事で、慎重に歩みを進めていく。まだ他にも鋼線が仕掛けられている可能性があるからな……

9月から、やや時間を取りづらくなる為、2日に1回の更新になりそうです……申し訳ありません orz

(余裕がある日は、間に更新するかもしれません)


なお、明日はしっかり更新します!

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