第19話 アルミューズ城・探索か調査か
「それはですね――」
俺が説明するよりも先に、ヴォルフガングに俺のサイキックについて説明を始めるアリーセ。
そして例の如く、何やら色々と話が盛られた。まあいいけどさ……
「――へぇ、なるほどなぁ……。異能ってーのが存在すんのは、知識として知っちゃあいたが、実際にそいつを持ってる人間に出会ったのは、今日が初めてだぜ」
ひととおりアリーセから説明を受けたヴォルフガングが、興味深げに俺を見ながらそう言ってくる。
「まあ、ソウヤに関しては、そういう物だと思えばいいわ」
というシャルロッテの言葉に、ヴォルフガングは頷き、
「ああ、そうするぜ。……にしても、だ。この城は一般公開される前に、綿密な調査が行われたっつー話だが、未調査の場所があったみてぇだな」
そんな事を言ってきた。
「まあ、とりあえずもう少し覗いてみるか……」
俺はそう言いながら、隠されていたその部屋を再びクレアボヤンスで見回す。
……んん? なんだか人間が入れそうな大きさの棺が並んでいるな。霊安室かなにかなのか?
と、思っていると、棺がガタガタと揺れた。……あれが音の正体か?
クレアボヤンスで透視している先に対して、アポートとかアスポートが出来ればいいんだが、さすがに無理だからなぁ……。遠見の方なら出来なくもないんだが……。
まあもっとも、出来なくもないというだけで、アポートやアスポートの有効範囲が伸びたりするわけじゃないんだが。
「ん、ソウヤ、なにが見える?」
後ろから声を掛けてきたロゼに、俺は今見えた物を告げる。
「うん? 棺? ……霊安室?」
「とすると、棺が揺れていたという所が気になるわね……。アンデッドかしら?」
ロゼの言葉に続くようにしてシャルロッテがそんな事を言う。
「アンデッドだと厄介だな」
というヴォルフガングの言葉を聞きながら、更に見回すと、上へと続く階段が部屋の隅にあった。
「上に続く階段があるな……。どっかからこの向こう側の部屋へ下りれられるようだ」
「上? ……この上は通路だった気がするが……まあ、とりあえず上へ行ってみっか。マリーの奴も中層より上にいるみてぇだしな」
というヴォルフガングの言葉に従う形で、俺たちは中層へと移動する事にする。
マリーを探しつつ中層を進み、階段の続くクランク状になった通路に出た所で、
「……さっきの場所の真上はこの辺りだな。……まあ、やっぱ壁しかねぇよなぁ」
ヴォルフガングがそう告げてくる。
たしかにそこは通路の一部で、目の前には壁しかなった。
「ん、透視の出番」
そんな事を言ってくるロゼに対し、「はいはい」と返しながらクレアボヤンスで壁を透視する。
と、壁の向こうには螺旋階段があり、更に上へと続いていた。
「どうやら、もっと上と繋がっているみたいだ」
「更に上っつーと……『城主の書斎』か? ……あー、たしかになんか仕掛けがあってもおかしくねぇような場所だな」
納得顔でそう言ってくるヴォルフガング。
「このまま上に行きます? それとももう少し中層を探索します?」
アリーセがそんな風に問いかけてくる。
「んー、マリーを探さねぇといけねぇんだけど、そっちも気になんだよなぁ……」
ヴォルフガングはそう言って、髭を撫でながらしばし考え込む。
「まあ……マリーの方は、最悪、船の運行が完全再開されれば勝手に出てくんだろうし、ここは隠し部屋の調査を優先すっか。もし、隠し部屋にアンデッドがいやがったら、安全のために、客が来る前に始末しておく必要があっからな」
というヴォルフガングの方針により、俺たちは中層でのマリーの探索を切り上げ、上層へと向かう。
「――中層も階段が多くて上り下りが激しかったけど、上層はそれ以上だな」
なんというか……この城が1階2階という言い方ではなく、上層中層下層という言い方をしているのが良く分かるな……。これじゃ、どの部屋が何階なのかさっぱりわからん。
「ん、高低差が多いから守りやすそう。うん」
「まあたしかに、階段を上手く使えば、上から攻撃出来るしな」
「さすがは中世戦国時代の城ねぇ……。城内での戦闘を前提にした作りになっているだなんて」
「普通に暮らしている時は、上り下りが多すぎて大変そうですけど……」
俺たちがそんな風に城の感想を述べていると、ヴォルフガングが上り階段の途中にある部屋の前に立ち、
「ここがさっきの場所の真上――『城主の書斎』だな」
と、そう言いながら扉を開ける。
中に入って室内を見回すが、大きな机が窓際にある以外は、棚や本棚が並んでいるだけの何の変哲もない部屋だった。
もっとも、だからこそ何か仕掛けがあってもおかしくはないのだが。
「……うーん、いかにも隠し階段がありそうな部屋ではあるわね。……前にもこういう書斎に隠し通路があった事あるし」
シャルロッテがそんな事を言いながらパネル状の石で出来た床を調べ始める。
「あ、魔法探偵シャルロットに出てきましたね。あれ、実際にあったんですね!」
「え、ええ……そ、そうね」
勢いよく食いつくアリーセと、後ずさるシャルロッテ。
……相変わらず『魔法探偵シャルロット』が好きだな、アリーセは。
ふたりのそんな姿を眺めていると、
「――うん? この床だけ音の響きが違う、うん」
ロゼがそんな事を口にした。
「ふむ……?」
俺は床を叩いていたロゼの横にしゃがみ込むと、床下に向かってクレアボヤンスを使う。
と、案の定というべきか、床の下には階段があった。
「どうやら、下層の例の部屋へと続く階段で間違いなさそうだ。……けど、どうやってこの床をどかせばいいんだ?」
「ちょいと試してみっか」
ヴォルフガングは俺の言葉に対しそう返すと、石床を叩いたり引っ張ってみたりと色々試してみる。
が、まったく動く事はなかった。
「なにか仕掛けを作動させねぇと駄目みてぇだな、こりゃ」
諦めたヴォルフガングが頭を掻きながら言う。
「ん、面倒だから壊そう。うん。アリーセ、爆発系のボトル出して、うん」
「そんな危険な物、持ち歩いてなんていませんよ!? というか、あったとしても、壊すのはさすがに駄目です!」
ロゼの言葉に、アリーセが全力で否定する。
そういや、アリーセは魔法薬を調合出来るんだっけな。
っていうか、爆発系の物なんてあるのか。
「というか……多分、普通の方法じゃ壊せないわよ。衝撃に対する防御術式が組み込まれているみたいだし、その辺りだけ」
顎に手を当てながら、そんな風に言うシャルロッテ。
「マジか。つーか良くわかんな?」
「物に付与されている魔法とか術式とか、そういうのを感じ取るのは得意なのよ、昔から」
ヴォルフガングに対し、シャルロッテはそう言葉を返しながら、左手で絶霊紋のある右手首を押さえた。
……感じ取れる、っていうレベルじゃない気がするが……。
って、そう言えば円月輪に組み込まれている術式とかも見抜いていたな。
ふーむ……。推測の域を出ないが、霊力を使って何かを感知し、更にそれを解析しているのではなかろうか。
「部屋の中で、他に感じるものはないのか?」
「うーん……なさそうね。ただ、魔法や術式に頼らない物――例えば、歯車仕掛けのギミックなんかは、当然だけど私には感じ取れないわ。だから、この部屋に仕掛けがないとは言い切れないわよ」
俺の話に対し、そんな風に言ってくる。なるほど、たしかに……
「まあ……そうしたら、皆で手分けして探してみるしかないな。この貸切状態が終わる前に何とか見つけたいし。とりあえず俺はここを調べるから、皆は他を頼む」
という俺の言葉に他の4人が頷く。
そして、各自が怪しいと思う場所を調べに散っていった――
ちょっと短いですが、この先だと区切りづらくなってしまうので、ここで区切ります。
代わり……というわけではないですが、間章部分にオマケとして、種族説明を(深夜に)追加しておきました。
(突貫で書いたせいか、誤字脱字、表記忘れが多く、10回近く修正しました…… orz)




