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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第17話 サージサーペント・交戦

今回は、交戦パートです。

「サージサーペントが来るぞっ!!」

「ええっ!? ヴォ、ヴォルフさん! 急いで離脱を!」

 俺とカリンカが、焦り気味にヴォルフガングへと呼びかける。


「きやがったか! 波が来る時にちょいとばかし船が傾くから注意しろよ! うおりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 ヴォルフガングが警告の言葉と共に雄叫びを上げ、勢いよく右に舵を切る。


 と、その直後、湖面が盛り上がり、大きな波が船を襲った。

 船が大きく傾き、バランスが崩れそうになるも、なんとか手すりを掴んで踏みとどまる。全然『ちょいとばかし』じゃないんだが!? これ!

 

「きゃあっ!?」

 カリンカの短い悲鳴を、俺の耳が捉える。

 そちらに顔を向けると、湖に背中からダイブする寸前のカリンカの姿が目に入った。

 

 ――アポート!

 

 素早くカリンカを引き寄せ、抱きかかえる。

 と、同時に、 

「ギシャアアアアアアァァァァァァッ!!」

 という咆哮と共に姿を現すサージサーペント。って……でかいなっ!

 

 以前、博物館でフタバスズキリュウという恐竜の化石をみた事があるが、それの3倍程度――おおよそ20メートルくらいはあるだろうか。

 見た目はその恐竜に似ているが、胴体が甲羅に覆われているのと、頭がエリマキトカゲみたいになっていて、後頭部側が針山のように尖っているあたりが大きな違いか。

 胴体を頭の間――首の太さは、俺の身長の2倍にちょっと届かないくらいなので、おそらく3メートル強といった所ではなかろうか。そこまで太くはないな。

 

「た、助けてくれてありがと……。も、もう大丈夫だから……」

 という恥ずかしそうな声が聞こえる。……ん?

 

 あ……カリンカを抱きかかえたままだった。

 ってか、カリンカなら落ちる前に飛べたんじゃ……


「す、すまない。よく考えたら飛べるんだから、俺が引き寄せなくても大丈夫だった……よな」

 そう言いながらカリンカを下ろす俺。


「う、ううん、私は飛べないから……」

「え?」

 どういう事だ? という俺の問いかけは、サージサーペントが再度あげた咆哮にかき消された。

「グルォォォォォンンッ!」


 口から紫色のブレスが放出される、

 が、船は既に回避行動に入っていたため、掠めた程度で終わった。

 って、ブレスの掠めた場所が溶けてんな。強酸の類か……? 厄介な。

 

「ん、っと」

 ロゼが反撃とばかりに2つの円月輪を投げつける。

 同時に、アリーセがチャージショットの構えに入っているのが、視界の隅に見えた。

 

「こっちも行くわよ!」

 その声と共に跳躍してサージサーペントの甲羅の上へと飛び移ったシャルロッテが、甲羅に刀を突き立て、そして振り上げる。

 昨日の夜、ロゼが短剣でやった技に似ているな。こちらは地を這う衝撃波じゃなくて、天高く噴き上がる衝撃波だが。

 

 というか、だ。魔獣の甲羅をやすやすと貫くとか、どんな材質で出来ているんだ……あれ。

 さすがは1億5000万年もの間、朽ちる事なくその姿を保っているだけはあるな……。

 

 そんな事を考えている間に、投げつけた円月輪が回転しながらエリマキの左右を切り裂き、刀の衝撃波が胴体をえぐった。

 

 二重の攻撃を受けたサージサーペントは、

「グギィイィィイィィイィィッ!」

 という苦悶叫びと共に、黒い靄――魔瘴を大量に噴き出す。

 

「ん、思ったよりも良く切れる。というか、短剣とは比べ物にならない。うん、もう一回」

 ロゼは戻ってきた2つの円月輪を跳躍しながら上手くキャッチすると、そのままもう一度投げつけた。ぶっつけ本番であっさりキャッチするか……さすがだな。

 

「グガアァッ!」

 二度も食らうつもりはないとばかりに、首を曲げて円月輪を回避したサージサーペントが、空中のロゼに食らいつこうとする。

 

「回収、っと!」

 俺はロゼの方に駆け寄りつつ、射程内に入ると同時にアポートを実行。ロゼを一瞬で引き戻す。

 まあ、ロゼならどうにかしたかもしれんが、こうすると奴が困惑するだろうからな。


 案の定、サージサーペントは食らいつこうとしていた対象がいきなり消えた事で困惑したらしく、口を開けた状態のまま硬直した。よし、これで……

 

「さすがです! チャージショット!」

 狙いすましたアリーセの弓から放たれた光の矢――チャージショットが、硬直しているサージサーペントの口の中に、深々と突き刺さった。

 更に、戻ってきた2つの円月輪が首と後頭部の突起をそれぞれ切り裂く。

 

「ギギャアアアアアアァァァァァァ!」

 叫び声をあげ、のたうち回るサージサーペント。

 

「っとと!」

 甲羅の上で刀を振り回し、小さなダメージ――と言っても、甲羅をやすやすと斬り裂くような刀なので、それなりに胴体にもダメージを与えている――を重ねていたシャルロッテが、バランスを取れなくなったのか、大きく跳躍して船へと戻ってくる。

 

 ……さっきもそうだったが、ロゼもシャルロッテも跳躍力ありすぎじゃないか? なんというか、普通に八艘飛びが出来そうだな、このふたり。


 そんな事を考えている間にも、サージサーペントは暴れ続け、それによって引き起こされる大波。

 だが、そんな波を船は上手く乗り越えていく。

 さすがは元締めというだけあり、ヴォルフガングの操船技術はなかなかのものだ。


 大波と共に、例の強酸のブレスもデタラメに吐き出してきたが、こちらはかすりもしなかった。

 とはいえ、これ以上ブレスを吐かれても面倒なので――

 

「ここらで一気に仕掛けるとするかっ!」

 十分な時間があったため、既に7つの魔法杖を呼び出した終えていた俺は、それをサイコキネシスで水平に並べてそう言い放ち、一斉掃射。

 暴れるサージサーペントを、火炎放射、氷柱、雷撃、鋭く尖った岩、漆黒の球体、金色のビーム、緑色の螺旋……が、一斉に襲いかかる。

 

「ギャオオオオオンッ!」


 魔法をまともに食らったサージサーペントの全身から魔瘴を噴き出す。

 サージサーペントが一際大きな苦悶の叫びを上げつつも、水中へ逃れようとその身を沈め始める。

 

「逃がすかっ!」

 俺は掛け声と共に次元鞄から霊幻鋼の剣を引き抜き、勢いよく放り投げる。

 そして、それをサイコキネシスで横回転させ、サージサーペントの首を狙うべく、水面すれすれを飛翔させる。

 

「こっちも撃ちます!」

「うん、同じく」

 アリーセがチャージショットを、ロゼが2つの円月輪を、それぞれ放つ。

 

「ギィガァァッ!?」


 光の矢が眉間に突き刺さり、2つの円月輪がそれぞれ額と顎を切り裂く。

 その苦痛と反動で、サージサーペントの首が少し上向いた。

 

 ――そこだ!

 

 心の中でそう叫び、霊幻鋼の剣を上向いた首へと斜めに滑り込ませる。

 サージサーペントの首を大きくえぐりながら、反対側へと抜ける霊幻鋼の剣。

 

 首が太いから、さすがに一刀両断とはいかないか……!


「トドメは私かしらね? ――ディレイエンド!」

 そう言い放つと、指をパチンッと鳴らすシャルロッテ。


 直後、サージサーペントの甲羅に、槍の穂先のように鋭く尖った紫水晶が生える。

 いや、違うな。サージサーペントの甲羅と胴体を貫く形で、鋭く尖った紫水晶が突如として出現した、か。


「ギャギィイィイィイィイィィィィィィッ!」

 断末魔の叫びをあげるサージサーペントが、瞬く間に魔瘴の塊へと姿を変え、そして霧散した。

 同時にサージサーペントを貫いていた紫水晶もまた消滅する。……実体じゃないのか?

 

「今のは、もしかして遅延魔法……ですか?」

「ええそうよ。まあ、正確には遅延魔法じゃなくて遅延真幻術――少しの間、幻が実体化する特殊な幻術である真幻術を、遅延魔法の要領で発動させた物、だけどね。さっき甲羅に飛び移った時に絶霊紋の力を使って、術式を刻んでおいたのよ」

 アリーセの問いかけにそう返すシャルロッテ。なるほど……そういう術なのか。


 どうやら、さっき甲羅の上で刀を振り回していたのは、小さなダメージを重ねるためではなく、術式を刻むためだったようだ。

 しっかし、とんでもない威力だな……あの遅延真幻術っていう奴は。

 

 そこへヴォルフガングが顔を出し、驚き半分、呆れ半分といった表情で言う。

「おいおい、もう倒したのかよ……。サージサーペントは、こんなあっさりと倒せるよーなヤワい魔獣じゃねぇはずなんだがなぁ……。あんたら、強すぎじゃねぇか……?」

 

「ん、短剣だったら歯が立たなかったかもしれないけど、円月輪なら余裕」

「むしろ、モータルホーン相手に苦戦していたのが嘘みたいですね」

「うん、風膜は想定外すぎた。でも、円月輪ならまだ無属性だから安心。しかもこれ、かなり強度がある、うん。ちょこっと霊力流してみたけど何ともない」

 と、アリーセとロゼ。霊力流したんかい。でも、短剣のようにヒビが入っていない所を見ると、あの円月輪かなり頑丈っぽいな。……何で出来てんだ? あれ。


「なあ、最後の遅延真幻術だけでも十分撃破出来たんじゃないか? この魔獣」

「あれは、サージサーペントが纏っていた水膜――水属性に有効な雷属性と地属性を複合した結晶をぶつけたからよ。というか、それを言ったら、貴方の魔法杖と剣だけでも倒せたと思うわよ?」

「あの魔法杖、威力はそんなに高くないんだよなぁ。まあ、全魔法杖を交互に使っていって、発射と魔力回復をローテーションしながら撃ち続ければ倒せるかもしれないが……」

 要は、長篠の戦いにおける鉄砲の三段撃ち戦法みたいな感じで、絶え間なく撃ちまくればいいわけだが、時間がかかりそうだしなぁ……


 ――そんな会話を繰り広げる俺たちを見て、苦笑いを浮かべるヴォルフガングとカリンカの姿があった。

属性の相性は結構大事だったりします。

どんなに強くても、全くダメージを与えられないと、どうにもなりませんからね……

まあ、属性を気にしないで済む状況下なら、単純に強い方が一方的に攻撃出来るのですが。

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