第15話 カリンカとランチタイム
今日は余裕があった(というか、妙なノリで一気に書いてしまった)ので、今日中にもう1つ投稿しておきます。
――最上階のレストランへとやってきたのだが……
「うーん、これまた見事に混んでるわねぇ」
そうシャルロッテが言う通り、とても混んでおり席待ちの客が大勢いた。
そんなシャルロッテに俺は、
「まあ、こんなもんじゃないのか? 時間的に」
そんな風に言葉を返す。俺からすると、こういう場所では割と見慣れた光景だったりするしな。
「たしかにそうねぇ……。とりあえず、番号札を貰ってくるわ」
シャルロッテはため息混じりにそう言い、席待ちの順番を示す札を店員に貰いに行――
「あれ? ソウヤさんにシャルロッテさん?」
――こうとした所で、そんな声が聞こえてきた。
声の聞こえた方に俺とシャルロッテが顔を向ける。
と、そこにはセレリア族の女性の姿があった。銀髪に銀翼――カリンカか。
髪をサイドテールにしていたせいで、一瞬、誰だかわからなかった……
それにしてもこう……なんというか随分と大人っぽいというか、フォーマルドレスっぽい感じがする服装だな。肩から翼の付け根付近にかけての部分が露出しているし。
まあもっとも、あれほど裾――丈が長くなく、袖も着物のようにゆったりとしているし、腰まわりをベルトで止めているので、大分カジュアルな雰囲気ではあるけど。
っと、それはさておき、ギルドの制服じゃないという事は、今日は休みなのだろうか?
「あら、カリンカじゃない。もしかして、今日は休みだったの?」
俺が思った疑問を口にするシャルロッテ。
「はい、その通りです」
「なるほど……。という事は、この百貨店には何かを買いに?」
カリンカの回答に納得した俺が、今度はそう問いかける。
「いえ、ちょうど母さまからギルド用のレビバイクを注文しておいて欲しいと頼まれていたので、1階のレビバイクショップで注文し終えて、せっかくなのでここでお昼を食べようかと思いまして」
なんて事を言ってくるカリンカ。……なんだかそれだと、休みの日にも仕事をしているような感じがしなくもないが、まあ何も言うまい。
「ところで、そちらの二人は……たしか、アリーセさんとロゼさんですね。ギルドの登録時に担当させていただいたので覚えています。あの時は、手続きに時間を要してしまいまして、申し訳ありませんでした」
と、カリンカがアリーセとロゼの方を見て、そんな言葉を紡ぐ。
ああ……そう言えば登録に5日かかったとか、アルミナで言っていたなぁ。
で、その時に登録の手続きを担当したのが、カリンカだったっていうわけか。不思議な縁だな。
「いえ、あの時はウチの学院生の多くが登録に出向いた時期で、混雑していましたから仕方ありませんよ」
「うん。それに他に登録に行ったメンツよりも、2日くらい早かったし、うん」
アリーセとロゼがそんな風なフォローをした。
「そう言って戴けると助かります。――ところで、皆さんはこれからお昼ですよね? 良い所があるので、ご一緒にどうですか?」
カリンカがそんな提案をしてくる。
「え? ここ以外にも食べる所あるんですか?」
「まあ、ちょっと違いますけど、似たような物ですね」
アリーセの問いかけにそう返すカリンカ。
「ん、私はカリンカに任せる、うん」
というロゼの言葉に続く形で、俺たちも同意する。
「では、ご案内しますね。こちらです」
そう言って奥の方へと歩いていくカリンカに続く俺たち。
――奥はスロープ付きの緩やかな階段になっており、そこを登って辿り着いたのは、百貨店の屋上だった。
そこは、いわゆる屋上庭園という奴で、階段付近にある石畳の広場には、サンドイッチをメインとしたパン系の屋台がいくつか並んでいる。
庭園も様々な植物が植えられた場所や芝生になっている場所など、変化に富んでいて見応え十分だ。
1つだけ欠点を上げるならば、屋上庭園を取り囲む形で塁壁があるため、外の景色が見えないという事だが、まあ大した問題じゃないな。
「こんな所あったんですね……。塁壁に阻まれて街の風景が見られないのが残念ですが、それ以上に庭園が素晴らしいです」
アリーセがそんな驚きとの称賛の言葉を述べると、カリンカがそれに対して微笑みながら言葉を返す。
「そう言っていただけると嬉しいです。改装前の名残で、エレベーターだと屋上には来られないため、割と見落とされるんですよね、ここ。あ、ちなみにこの庭園には乾燥の魔煌具が設置されているため、雨が降ってもすぐに乾きますから雨上がりでも問題ありませんよ」
「なるほど……そうなのか」
って、改装したのかこの百貨店。
ふーむ……そうすると、昔は普通のデパートみたいな感じだったのかもしれないな。
「ん、どの屋台も、混んでいるって程じゃ、ない。うん」
ロゼが屋台を見渡しながらそう言ってくる。
たしかにロゼの言うとおり、待っている人がまったくいないというわけではないが、下のレストランに比べたら大した事はないな。
「それじゃあ、適当に買って庭園で食べるとしましょうか」
と、シャルロッテ。日本だと、この手の庭園は立ち入ったら駄目な事が多かったりするが、ここの庭園は、どうやら好きに入って構わないようだ。
というわけで、丸いパンを半分に切って、間にハンバーグを詰めたハンバーガーもどきのパンと、細長いパンの上にコロッケが2個乗ったコロッケパンを買ってみる。
コロッケパンがあるのなら、焼きそばパンとかスパゲッティパンみたいな物もあるのではないかと思ったが、そんなものは売っていなかった。ちょっと残念だ。
ついでに、同じ屋台で売っていたフレアス鳥の唐揚げとやらも買ってみた。
……フレアス鳥ってなんだ? と思って聞いてみたら、赤いトサカがある丸々とした白い鳥らしい。
うーむ……その話を聞く限りだと、なんだか太ったニワトリみたいな感じだが……
と、そんな事を思いながら食べてみると、普通に鶏の唐揚げだった。味もそのまんまって感じだ。やっぱり太ったニワトリなんじゃなかろうか……
「――という事は、アリーセさんとロゼさんも仲間という事でよろしいのですね?」
シャルロッテがアリーセとロゼにも例の話をしてある事を告げると、カリンカが確認の質問を投げかける。
「ええ、それで構わないわ。……というか、カリンカ、休みの日なんだから普通の言葉遣いでいいわよ」
そう返すシャルロッテ。
「そうですか?」
と、俺たち全員を見回して問いかけてきたので、皆で頷く。
「……じゃあ、そうさせてもらうね」
カリンカが言葉遣いを崩してそう言ってくる。
「あ、ちなみに私はこの言葉遣いが素なので、お気になさらずに」
そうアリーセが言うと、
「うっ……。なんだか騙された気分……。私もそう言えば良かったかな……」
なんて事を言ってくるカリンカ。
「……そう言えば、アリーセが言葉遣いを崩すとどうなるんだ?」
「ん、ちょっと気になる。ちょっとシャルロットの喋り方してみて、うん」
俺のふと気になった事に乗ってきたロゼが、そんな事を言う。
「え、ええっと……。――ふふっ、しょうがないわねぇ、まったく! わかったわ! じゃあ、そういう風に話してあげるから、感謝しなさいよね!」
立ち上がり、そんな風に言って胸を張るアリーセ。
「「「「………………」」」」
「あ、あの……みなさん? へ、変でしたか?」
アリーセが、俺たちを見ながらオロオロし始める。
が、別に変ではない。むしろ――
「なんだか妙にしっくりくるな」
「うん、そう思う」
「たしかに……不思議と似合うわね」
「ある意味、これもお嬢様よね」
「「「「もう一回!」」」」
「え、ええっ!? ……わ、わかりました。――まったく、しょうがないからもう一度やってあげるわ。本当ならこんな事してあげないんだからね? そ、そこん所わかってるわよね? …………む、無理ですっ! これ以上、続けるのは無理ですーっ!」
途中で顔が真っ赤になったかと思うと、そのまま膝から崩れ落ち、芝生に顔を埋めるアリーセ。
「まあ……なんというか、俺がふと気になったせいで、すまん……」
でも、あれだけ完璧なら、演技としても優秀だよなぁ……
◆
――とまあ、そんなこんなで、アリーセに魔法探偵シャルロットの真似をさせたり、アリーセをなだめたり、アリーセの演技力を褒めてまた赤面されたりした昼食も終わり、俺達はグランテール百貨店の外へと戻ってきた。
「ところで……みんなは、この後どこへ行くつもり?」
と、カリンカが頬に指を当てながら問いかけてくる。
「あ、はい、アルミューズ城へ行く予定ですね」
「アルミューズ城かぁ。なるほど、あそこは観光の定番よね」
アリーセの返答に、ウンウンと首を縦に2回振り、そう言ってくるカリンカ。
「ちなみに、カリンカの方はこの後どうするつもりなの?」
「私? 私は船着き場の近くで喫茶店をやっている昔の仲間に、会いに行くつもり」
「昔の仲間? って、ああなるほどね……」
「そうそう、シャルロッテさんに会いたいって子が結構いるから、今度会いに行ってみたらどうかな?」
「え? そうなの? うーん……なら、今度会いに行ってみようかしらね。後で居場所を教えてちょうだい」
「わかった。それじゃあ居場所を書いたメモを、今度ギルドへ来た時にでも渡すね。あ、それでなんだけど――」
とまあそんな感じで、なんだか良く分からないが、ふたりで盛り上がっているシャルロッテとカリンカ。
「ううん? あのふたり、昔なにかあった?」
「さあ……? 正直、さっぱりだな……」
「昔の仲間とか言っていましたし、ルクストリアで何かあったんでしょうけど……」
若干置いてけぼり気味の俺たちが、ふたりについての話をしていると、トラムが近づいてくるのが視界に入った。
「ん? あれじゃないっけ? 古城方面行きのトラムって。うん」
ロゼにそう言われ、トラムの行き先を確認するアリーセ。
「あ、そうですね。あれに乗る必要がありますね」
「なら、停留所へ移動するとしようか。なんというか、店のすぐ近くにあってよかったな……」
「ん、たしかに。うん」
幸いというべきか、停留所は百貨店のほぼ目の前にあるので、乗り遅れる心配はない。
「――おーい、シャルロッテにカリンカー! トラムが来たぞー!」
俺は、話を続けていたシャルロッテとカリンカに向かって、そう呼びかける。
……うーむ。昔、何があったんだろうな、ホント。
魔法探偵シャルロットが絡むと、割とノリの良いアリーセです。
追記:タイトル名のミスを修正しました。




