第204話[表] アーリオン・ユーコとシズク
<Side:Yuko>
「なるほど、そのような施設が外に……。わかりました、増援については話をしてみます」
私は灯に対してそう返事をして通信を終了します。
「外で何か見つけたのかい?」
シズクさんがそんな風に問いかけてきます。まあ、当然気になりますよね。
というわけで、私は灯から聞いた内容を手短に伝えました。
「なるほどね。それはロクでもない施設の予感しかしないね。まあ……その分、こちらの役に立つ資料がありそうな感じではあるけれどね」
「そうですね。とりあえず、エステルさんに伝えてみます。エステルさんが調査に特化した部隊は管轄していますし」
私はシズクにそう返しながらエステルさんに対して通信で呼びかけます。
『――ほいほい、こちらはエステルじゃ。何かあったのかの?』
エステルさんがそんな風に言ってきたので、「実は――」と切り出し、シズクに対して伝えたのと同じ事を伝えます。
『なるほどのぅ……。たしかにロクでもない場所のようじゃが、それゆえに何かありそうではあるのぅ』
エステルさんはそう言うと、しばし無言になりました。
何かを確認しながら考え込んでいるようですが……
しばらく待っていると、
『ふむ……。妾と妾の部隊で向かうとしようかの。位置的に妾たちが一番近い所におるし、妾自身も、どのようなものがあるか気になるのでのぅ』
なんて事を言ってきました。
そして、私が灯に伝えておきますと言うよりも先に、
『灯には、こちらから伝えておくわい』
と、そう続けました。
「わかりました。お願いします」
私はそう言って通信を切った所で、
「どうやらそっちの件は問題なさそうだね。それじゃこっちは……」
と言いながら、目の前の扉――ロックされている扉――を細切れにしました。
……よくもまあ、こうもあっさり斬れますね……
なんて事を思いつつ、培養槽の並ぶ部屋を覗き込ます。
部屋の中には、角がない赤い鬼……と表現するのが一番近い見た目のキメラと、研究員と思しきセレリア族とドラグ・ヴァン族の死体がありました。
「――培養槽で調整中だったものを、なりふり構わず解放したといった感じですね」
「だろうね。どう見てもただ単に暴れまわっているだけだし。こちらにも気づいていないよね? まあ、気配は消してるんだけど」
「そうですね。この程度の隠蔽で気づかれないとなると、察知能力は低そうです」
「敵と味方を判断する能力もなさそうだね。研究員たちを殺しているし。……まあ、あの研究員たちを『敵』と判断したのかもしれないけど」
「それは否定出来ませんね。そして……もしそうであるのなら、あの破壊行為は『報復』のようなものなのかもしれませんね」
「あ、なるほど。たしかにその可能性もあるね。なら――」
シズクはそう言うと気配の隠蔽を解いて、
「おーい! 私はシズクっていうんだけど、少し話を聞かせてくれないかーい?」
なんて事を大声で叫びました。……って、いきなり何をしているんですか……
「グ……ガ……。ワレ……。ゲド……ウ……。ケン……キュ……ウ……。コワ……ス。ジャマ……スル……ナ」
キメラがそんな事を口にします。
……もしかして、まだ意識がある……のでしょうか?
「なるほどね。別に邪魔するつもりはないけどね」
「ナラ……イ……ネ。ワレ……。イシ……。ウシ……ナ……ワレ……ル……マエ……ニ……コワ……ス」
シズクの返答を聞いたキメラが、そう言ってきます。
それに対してシズクは、
「でも、そっちの大きい機械は壊すの少し待ってくれないかな? 中を調べたいからね」
と、そんな風に返しました。
「イナ。ゲド……ウ……。ケン……キュ……ウ……。スベ……テ……コワ……ス。シ……ラベ……ル……モノ。ジャマ……ト……オナ……ジ。イネ……」
キメラはそう口にするなり、殺気をこちらにぶつけてきます。
「おっと。さっさと去らないと殺すって事だろうね、これ」
「それ以外に考えられませんね。とはいえ、はいそうですかと去るわけにもいかないんですよね」
私はシズクにそんな風に返事をしつつ、ガントレットに刃を生成します。
同時にシズクも得物を構え……と、その直後、
「――ガ……。グガァ……ッ!?」
キメラの肉体が唐突に崩壊し始めました。
「……これは、『融合が安定していなかった』といったところかな」
「なるほど、たしかにそのようですね。仕方がありません……斬りましょう」
私がそう口にすると同時に、
「――了解」
と言って、瞬時にキメラへと接近するシズク。
そしてそのままキメラの首を跳ね飛ばしました。
「……破壊するのは私たちが引き継ぎましょう。データを調べてからですが」
私はそう言いながら、シズクが『大きい機械』と呼んだ端末へと近寄ります。
そして端末を操作し――
「……どうやら、ここでは人型のキメラを生み出す研究をしていたようですね。しかも、人間の姿から『変身』する事が出来るタイプの」
データを軽く見た所、そんな事が判明しました。
「ふぅん……。要するに、クーのような存在を作ろうとしていたってわけだね。……もしかしたら、クーの研究データをもとにしているのかもしれないけど」
と、シズクが言ってきます。
……たしかにそれはありそうな感じです。
クーさんのように優れた判断力や技量をそのまま『変身体』で扱えるというのは、とても有用ですし……
今回は無事いつもの時間に更新出来ました……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月14日(月)の想定です!




