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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第14話 絶霊紋と武器屋と百貨店と……

「うん? これ、どういう効果?」

 ロゼが紋章に視線を向けながら問いかける。

 

「大気中の魔煌波を取り込み、魔力ではなく霊力に変換して蓄えておくっていう紋章よ。で、蓄えた霊力は、武器に流して霊力を乗せた一撃を放ったり、魔煌波を使わない術――幻術なんかを発動させるのに使えるわ。私の一族に伝わる秘伝の技の1つね」

「秘伝の技って……。簡単に見せてしまっていいのか?」

 俺は、シャルロッテが秘伝の技と言った事が気にかかり、そう尋ねてみる。

 

「別にいいわよ、見せるくらいなら。紋章っていうのは刻み方が重要だから、それがわからなければ意味ないもの」

 そんな風に言って肩をすくめるシャルロッテ。


「なるほど……たしかにそうですね」

 というアリーセの言葉に、俺はとりあえず同意した体で頷いておく事にした。……さっぱりわからんけど。

 

「さ、もういいわね。立ち話をしていてもしょうがないし、そろそろ行きましょ」

 そう言ってシャルロッテは指で紋章をなぞり、それを消し、外していたカフスを再びつけた。


 ふむ……。この紋章、なにか他にも秘密がありそうだけど……これ以上、話を聞くのは難しそうだな。

 というより、出会ってまだそんなに経っていない俺たちに、そこまで話してくれただけでも良い方だろう。


                    ◆ 


 ――そんなわけで、絶霊紋の話を切り上げ、武器屋へとやってきた俺たち。


 ロゼが、いかつい顔をしたドルモーム族の店主に修理を依頼する。

「ん、親方、これを直して欲しい」


「あ、ああ……直すのは別に構わねぇが……。なあ、ロゼ嬢ちゃんよ、どうやったらこんな壊れ方をするんだ……?」

 ロゼから渡された短剣を見ながら、呆れた表情でそう問いかける店主に対し、

「ん、ちょっとばかし短剣から霊力を放出させたら、こうなった。うん」

 と、そんな風に説明をするロゼ。っていうか、店主と随分親しそうだが、良く来ているのだろうか?

 

「霊力……? あー、そりゃいわゆるあれか? 魔女が使う術みてーなモンをこの短剣でやったっつー事か?」

「うん、まあそう」

「……あー、そりゃ壊れんだろーな。これはそんなもんに耐えられるような代物じゃあねぇ。つーか、ロゼ嬢ちゃん、そんな事出来たんかよ」

「んー、なんかやってみたら出来た。新必殺技習得、うん」

「えーっとね……ロゼ、新必殺技習得とか喜んでる所あれだけど、今後もそれを使うなら、その度に武器が壊れる事になるわよ?」

 投擲用の道具をあれこれ見ていたシャルロッテが、ロゼと店主の会話に割り込む形でそんな風に言う。


「ん、そうなの? それは問題……。うん、どうすればいい?」

「そうねぇ……。刃を呪紋鋼あたりに変えればどうにかなると思うけど……」

 シャルロッテの言葉を聞いたロゼが、店主の方を向いて尋ねる。

「うん、なるほど。親方、呪紋鋼ある?」


「いやー、さすがに呪紋鋼の在庫はねぇなぁ……。つーか、あれは錬成に手間がかかるから、元となる鉱石を全て手に入れても、そっから更に3日から4日はかかるぞ」

 腕を組んでそう言葉を返す店主。……ん? 呪紋鋼? それならたしか……


「むぅ……なるほど。それは残念、うん」

 と、残念がるロゼの横に立ち、次元鞄の中に入れたままになっていた呪紋鋼製のナイフの束をカウンターに置く俺。

「あ、それなんですけど、これでどうにかなりませんか?」


 俺のそんな問いかけに対し、店主はナイフを手に取り、しげしげと眺めた後、

「どうにか……って、おいおい、これ全部呪紋鋼製じゃねぇか! 兄ちゃん! アンタ、なんだってこんなに持ってんだ!?」

 という、驚きの声を上げた。


「アルミナの町で買ったんですよ。100本セットで売られていたのを」

「100本セットって……。――いや、まてよ……アルミナつったら、ウェルナットか……。ああ、なんだか納得したわ」

 俺の話を聞き、なにやらあっさりと納得する店主。……ウェルナット装備品店、すげぇな。

 

「まあ、ともかく……こんだけありゃあ、ロゼ嬢ちゃんが使ってる短剣、2本とも呪文鋼製にする事が出来っけど……どうするよ?」

「ん、ソウヤ、これ全部使っていいの?」

 店主から話を振られたロゼが、俺の方を見て、首を傾げながら尋ねてくる。

 

「ああ、構わないぞ。どうせまだまだあるしな」

 俺はそんな風に返し、肩をすくめてみせる。

 

「うん、ソウヤ、ありがと。なら、うん、両方ともお願いする」

 そう言って短剣を2本ともカウンターに置くロゼ。

 

「あいよ! ……っと、今からこいつを溶かして……となると、完成すんのはおそらく3日後の昼過ぎぐらいになっちまうと思うが、構わねぇか?」

「ん、そのくらい構わない。――けど、そうなると代用品が欲しい、うん」

 ロゼは店主にそう言葉を返すと、周囲を見回し始める。

 

「……んん? アリーセの横にあるあの輪っかは、何? うん」

 と、ロゼ。

 弓を見ていたアリーセが、そのロゼの発言に気づき、

「え? これですか? 2つありますね」

 と言って、ロゼの指さしたそれを片手に1つずつ持ち、こちらへと見せてくる。


 ……って、何かと思ったら円月輪か。

 

「ああ、それは円月輪だな」

「円月輪ね。久しぶりに見たわ」

「円月輪っていう代物だ。斬る以外に使い方があるっぽいが、よくわか――」

 俺、シャルロッテ、店主の言葉が重なる。

 そして、店主だけ言葉を続けた。

「……って知ってそうなのが、ふたりもいんな。ありゃあどういう風に使うんだ?」

 

「あれは今言ったように、短剣のように斬りつける武器として使う事も出来ますが、それ以外にも投げつける武器としても使うが出来るんですよ。上手く投げると、独特な軌道を描くので、意表を突く事も出来ますね」

「見た感じ、ただの円月輪と違って、帰還飛翔の術式が組み込まれている特殊な代物っぽいから、とりあえず投げれば確実に戻ってくるわね、それ。ソウヤの言う通り、上手く使えば便利かもしれないわよ」

「まあ……キャッチする時に注意しないと、自分の手を斬りかねないけどな」

「たしかにそうね。一応、術式的に考えると、直前で回転の停止と速度の低下は実行されると思うけど……それなりに練習は必要そうね」

 俺とシャルロッテがそんな感じで説明する。

 

 ロゼはアリーセから円月輪を受け取ると、それを色々な角度から見回した後、

「うん、面白そう。短剣に似た感じで使えそうだし、これにする。うん」

 と、満足気に頷き、購入。

 

「――ん、早速投げてみる」

「おう、気をつけ……って、おいまてまて! 店の中で投げようとすんな!」

 購入するやいなや、店内で円月輪を投げようとするロゼを、必死に止める店主。

 ……なにやってんだ、まったく。

 

                    ◆


 そんなこんなで、ロゼの腰にぶら下がっているものが短剣から円月輪にチェンジされたところで、俺たちは本来の目的地であるグランテール百貨店へと向かう。

 

「ここがグランテール百貨店ですね」

 トラムを降りてすぐの場所にある巨大な建物を見上げながら、そう言ってくるアリーセ。

 停留所名が『グランテール百貨店前』というだけあって、ほんとに目の前だな。

 

「なるほど……。なんともでかいな……」

 俺はその建物を見上げながら言う。

 

 グランテール百貨店は、砦のような無骨な外観をしているが、外壁には大きな窓がいくつもあり、あちこちに旗がぶら下げられていた。

 

「まあ、このルクストリアでもっとも高い8階建てだし、圧倒されるのもわかるわ」

 と、シャルロッテ。……まあ、俺は9階以上の建物に見慣れているので、そこまで圧倒されるというわけではないが、それでもでかいとは思う。


「ん、とりあえず、中に入る」

 というロゼの言葉に従う形で、百貨店の中へと足を踏み入れる。

 

 店内は中央が吹き抜けになっており、それを取り囲む形で通路があり、そこに店舗が並んでいるという、ショッピングモールのような構造になっていた。

 ……っていうか、普通にショッピングモールだな、これ。

 百貨店というのはどうやら名称だけのようだ。

 うーむ、それにしても凄い人の数だな。姿を見失ったら大変そうだ。

 

「各階の行き来は階段とエレベーター、どちらでも可能ですが……まあ、エレベーターの方が楽ですね」

「ん、ちなみに飛び移ったり飛び降りたりすると怒られる。うん」

「当たり前です」

 ロゼの補足に対し、ピシャリと言うアリーセ。そりゃそうだろうと思いつつ、ロゼはやった事があるんだろうな……とも思う俺がいたりする。

 

「ところで、ここに来たのはいいけれど……全部見て回ってたら日が暮れるわよ?」

 腕を組みながら、そう言ってくるシャルロッテ。

 

「ああ、たしかにそうだな……」

 俺は店内を見回しながら言葉を返す。


「あ、さすがに私も全部見て回ろうとは思っていませんので、大丈夫ですよ」

 アリーセはそこで一度言葉を区切り、吹き抜けの真ん中に設置された巨大な時計を見ながら、続きの言葉を紡ぐ。

「とりあえず今日はソウヤさんに場所を教えるのが目的でしたので、見て回らずに、最上階のレストランでランチを食べるだけにしようかと思います。ちょうどお昼時ですし」

 

 時計の方に目を向けると、12時10分を指し示していた。

 アリーセの家を出たのが9時ちょっと前だったから、もう3時間以上経ってるのか。

 ……って、服屋で1時間以上使ってるんだからそうだよな。

 

「なるほどね。それじゃあ、そうしましょうか」

 シャルロッテの言葉に頷き、ちょうどやって来たエレベーターへと乗り込む。

 

 エレベーターは吹き抜け側がガラス張りになっており、吹き抜けを上から眺められるようになっていた。

 こういう所もなんだかショッピングモールっぽいな。

 

 と、そんな事を考えながら吹き抜けの1階部分を眺めていると、室長――超常現象調査室の室長である秋原洸――のような容姿の男性を見つけた。

 

 ……ん? 

 

 気になってクレアボヤンスでよく見てると、室長よりもほんの少し歳を取っているような感じだった。……似てはいるけど、別人だな。

 うーむ……。もしかして珠鈴にそっくり過ぎる人間と遭遇したせいで、神経が過敏になっているんだろうか……。少し考えないようにした方がいいな。せっかくの観光だし。

 

 なんて事を、俺は思うのだった――

ロゼの新武器である円月輪は、現時点では魔煌波生成回路がない為、魔法は使えません。

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