第193話[表] 上津木と上津木
<Side:Akari>
「……というか、そもそもどうして室長さんがここに?」
「混成かつ未知の場所……それも『異世界』に行くのであれば、それなりの地位の人間が纏め役としていなければ駄目でしょう?」
私の問いかけに対し、美香さんがそう答える。
「それはまあ……たしかに?」
いまいち腑に落ちないけど納得は出来るわね……
と、そこでふと思った事があり、それを口にする。
「……って、あれ? そうするとABSFからも?」
「あ、私が『支部長代理』として来ています」
そんな声と共に小さく手を挙げる女性――って、日向さんね。
そして日向さんはそのまま、
「……他の人にこの役は任せた方が良いと私は言ったのですが、冥賀さんが隊長と副隊長という役割ならば、もっとも関係性のある私がこの役をするのが適切だとかなんとか言われて押し切られました……」
なんて事を言ってきた。
うんまあ、たしかに無理矢理感半端じゃないけど、でも日向さんならそのくらいの地位でも別におかしくないのよねぇ……
というか――
「どっちも『上津木』さんですね……」
私が口にする前に、そう呟くように言うユーコ。
「あ、言われてみるとたしかにそうね。……凄く、意図的なものを感じるわ」
「……たしかに、あの『朔耶』さんと関係性がありすぎですね」
私とユーコがそんな事を言いながらふたりを見ると、
「ノーコメントよ」
と返す美香さんと、無言で顔を逸らす日向さん。
うっわぁ……。わかりやすい反応ねぇ……
なんて事を思いつつも、
「まあいいわ……。既にDTWは大工房に集結済みだから、私たちも急いで行くとしましょうか。装備の件もあるし」
と告げる。
「えっと、DTWというのは?」
もっともな疑問を口にしてきた日向さんに、
「あ、事前に情報を送っている『黄金守りの不死竜』の上級戦闘部隊の事です。正式名称は『ドラゴントゥースウォーリア』というのですが、長いと灯が言うので『DTW』と略しています」
と説明するユーコ。
って、いやいやちょっと待って。
「それだと、私がゴネて略されたように聞こえるんだけど……っ!?」
「あ、ごめんなさい。言い直しましょう。長くて言いづらいと灯が言うので仕方なく『DTW』と略す事になりました」
「余計に酷くなってるわよっ!」
そんな私とユーコのやり取りに、笑いの声が聞こえてくる。
美香さんだけ、やれやれと言わんばかりの表情だけど。
むぐぅっ、私の方がやれやれと言いたいぃ……
……
…………
………………
「異世界と言うと、こう……中世ヨーロッパのようなイメージがありましたが、今の所、地球と大差がないというか、ちょっとだけ近未来なヨーロッパという感じですね」
「まあ、このイルシュバーンは、この世界でトップクラスの魔煌技術を有していますからね。その力で地球とほぼ同じようなものが多数ありますし、そう感じるかと」
大工房の一番高い所からルクストリアを見回しながら、そんな感想を口にする日向さんに対し、ユーコがそう説明混じりに答える。
「でも、私たちも中世ヨーロッパっぽさを感じる所に行った事ってほとんどないわね。この街にあるお城とか…………あれ? お城くらい?」
「そう言われてみると、そうかもしれませんね。ロンダームや不夜城都市の近辺、それからレヴィン=イクセリア双大陸の北方などには、そういうところもあるらしいですが」
「レヴィン=イクセリア双大陸に住んでいても北方までは行かないものねぇ……。行っても温泉街のヴァロッカ辺りまでだし」
私とユーコがそんな事を言っていると、
「温泉街なんてあるんですね。凄く気になります」
と言いながら美香さんがやってきた。
「あ、美香姉さま。そちらも装備の調整は終わったんだね」
日向さんがそんな風に言うと、
「そんな呼ばれ方するのひさりぶりね」
なんて返す美香さん。
というか、姉さまって……
「あっ! す、すいませんっ! つい昔の感じがっ!」
「別にいいわよ。……むしろ、そっちの方が懐かしくていいわ。日向に敬語とか使われると、正直なんだか気持ちが悪いのよねぇ」
慌てる日向さんにそう言って肩をすくめてみせる美香さん。
するとそれに対して日向さんが、
「ちょっ!? そんな風に思ってたのっ!?」
と、驚きと怒りの入り混じった声で返す。
日向さんの普段の喋り方って、私も初めて聞いたのが最近――蒼夜に対して使った時――なのよねぇ……
「だったらもう、これでいくよっ!」
「ええ。私たちよりも偉い人がいる場以外はそれでいいわよ」
怒り気味に言う日向さんに対し、微笑しながら頷いてそう返す美香さん。
そしてそこで私たちの事を思い出したのか、
「ふ、ふたりともすいませんっ! 変な所を見せてしまいましてっ!」
なんて事を言ってペコペコと頭を下げてくる日向さん。
「あ、いえ、気にしないでください」
「そうね。というか、私たちにもそっちでいいわよ? 私もこれでいけって言われたし、そっちの室長さんに」
ユーコに続いてそんな風に言って美香さんを見る。
「隊長が隊長補佐に敬語とかおかしいでしょ? 元からそういう喋り方なユーコならともかく」
腕を組みながらそう言ってくる美香さんに、
「それはまあ、否定しないわ」
と返した所で、
「こんな所にいたでありますか。オルティリア組とエレンディア組の移動が終わったそうであります。次はボクらアーリオン組の番であります」
なんて事を言いながら、クラリスがやってくる。
――どうやら、遂にアーリオンへ踏み込む時が来たみたいね。
まあ、まずは『竜の御旗』の拠点制圧からだけど……ね。
今日の分が半分くらいしか出来ていなかった為、更新が大幅に遅くなりました……
さて、次回からアーリオンが舞台になります。
もっとも、灯が言っている通り、まずは制圧戦からですが。
といった所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月3日(月)の想定です!
……次は、いつもの時間に更新出来るようにしたいと思っています……




