第178話[表] 地球・辛さと火
<Side:Akari>
一方その頃――
「うーん……。このラーメン最高ねぇ……」
そんな事を口にしながら、ラーメンを啜る私。
「その緑色の山はなんなのです?」
「これ? これはあおさのりよ」
私は問いかけてきたクーさんに対し、あおさのりを箸で掴みながらそう返事をする。
緑色の山とクーさんが称したように、私の食べているラーメンには、あおさのりがどっさりのっけられている。
このつゆに溶ける前のパリパリな食感と、つゆに溶けた後のフニャッとした食感、両方が同時に味わえて最高なのよねぇ。
なんて事を思いながらあおさのりを口に入れた所で、
「あおさのり? あおさと青のりを合体させたものです?」
と、再びクーさん。
いや、合体って……
でも、これってどう説明すればいいのかしら?
と、そう考えていると、ユーコが、
「いえ、それはヒトエグサというものです。実はあおさでも青のりでもありません」
なんて事を言った。
「えっ! そうなの!?」
驚きに声を上げる私に、
「どうして灯の方が先に驚くんですか……」
などと、呆れ気味に私の方を見て言ってくるユーコ。
「いや、だって、始めて知ったし……」
「まあ、名前が名前なので、分からなくもないですが」
私に対してそうユーコが返してきた所で、
「何故別の名前がついているのです?」
という、もっともな疑問を口にするクーさん。
「それについては、私も良く分かりませんが、あおさや青のりに似ているからではないかと……」
「まあ、たしかに似ているな」
ユーコに頷きながら、目の前のお好み焼き――豚玉を見る蓮司。
「こっちも見事に緑だな……」
「それは単に青のりをかけすぎなだけじゃないかしらね……」
ロディの呟きに、私はそんな風に続いて肩をすくめる。
青のりで埋もれてるし……
「ソースとマヨネーズと鰹節の量を考えたらこんなもんだろう?」
「いや、その理屈はおか――じゃなくて、その発想は色々とおかしい気がするわ……」
蓮司の返答に、私は肩をすくめた状態のままそう返し、さらにやれやれと首を横に振ってみせる。
別に青のりが好きだっていうなら、まあそれはそれで構わないと思うけど、どうしてそんな理由なのよ……
なんて事を思った所で、番号付きの呼び出しベルがブルブルと振動し始めた。
「あ、私ですね」
と言いながら、ユーコが受け取り口へ行き持ってきたものは――
「もの凄い赤いわね……」
そう口にせずにはいられないくらい、真っ赤――いや、赤黒い麻婆豆腐だった。
「ここにある中で、一番辛いって言われてる奴だな……それ。気にはなっていたが、さすがに注文する勇気はなかったぜ……」
と、蓮司がそんな風に言うと、
「でしたら、ちょっとだけ食べてみますか?」
なんて返すユーコ。
「あ、ああ……まあ、そう言うならせっかくだし……?」
「それなら、私も食べてみたいのです!」
ちょっと怖気づきながら返事をする蓮司と、何故か好奇心満々なクーさん。
言うが早いか、ふたり分の取り皿――ちょっと丸みを帯びている――を貰ってきてるし……
「はい、どうぞ」
と言って、その皿に真っ赤……赤黒い麻婆豆腐を乗せるユーコ。
そして蓮司とクーさんが、
「そ、それじゃあ、ありがたく……」
「いただくのですっ!」
と返しながらそれを受け取り、口に入れる。
「……?」
「……?」
何やら小首を傾げるふたり。
……見た目に反して辛くなかったのかしら?
なんて事を思った、その直後――
「「かっっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」」
という叫びを発した。
「っていうか、ホントに口から火が出てるわよっ!? クーさんの方は変身しちゃってるし!」
私がそう慌てながら叫んだ通り、蓮司の口からは炎が放出されており、クーさんは変身状態になっていた。
「念の為にと構えておいてよかったというものだ……!」
ロディがそんな事を言いながら、速攻で幻影の魔法を発動。
蓮司の炎は白い煙のようなものに、クーさんの姿は人間のものに、それぞれ変化する。
正確には、『そんな風に見えるようになっただけ』ね。
「魔煌波が少ないから、これくらいの隠蔽が限界だな……」
「……とりあえず十分じゃないかしらね? 一応、ここって目につきにくい場所だし、そうそう見られてはいないと思うわ。……まあ、あれよ。もしもの時は美香さんがどうにかしてくれる……はず」
私はロディに対してそんな風に言うと、そのまま蓮司の方を見て、
「というか、クーさんの方はともかく、どうして蓮司は口から火を吐けるのよ……」
という突っ込みめいた呟きを口にした。
すると、それに対してロディが、
「パイロキネシスが暴走したんじゃないか……?」
なんていう推測をしてきた。……ええぇ?
「……それって、あまりの辛さに口でパイロキネシスが発動してしまった……という事よね? それは最早、サイキックというかサイギャグね……」
そう私が言うと、コップの水を一気飲みした蓮司が、
「サイギャグってなんだよ、サイギャグって…………。つか、今のは俺自身が一番驚いたぜ……。凄まじい辛さに口が焼け付くかと思ったら、まさか、いきなり火が出てくるなんてよ……」
と、そんな風に返しつつ首を横に振ってみせた。
「想定以上の辛さだったのです……。なんというか『激痛』だったのです……。まだ口の中が痛いのです……。これって、食べられるのです?」
同じくコップの水を一気飲みしたクーさんがそうユーコに問いかけると、
「ちょうどいい辛さでおいしいですよ?」
なんて事を返しながら、平然と麻婆豆腐を口に運び続けるユーコの姿がそこにはあった。
「……!?」
それを見て絶句するクーさんを見ながら、
「……ユーコって、全体的に味が『濃い』ものが好きだけど、実はアストラル体だから少し『薄く』感じている……とかなのかしらね?」
と、そんな風に言う私。
「う、うーん……。可能性はないとは言えないのです。たしか、同じアストラル体の朔耶さんも、全体的に感覚が鈍化しているとか、そんなような事を言っていた気がするのです」
「まあそうだな……。でも、朔耶はこの辛さが『ちょうどいい』とは言わないと思うぞ……。俺でもそんなに辛いと思わないものを『辛すぎ』って言ってたし」
クーさんと蓮司がそれぞれそう返してくる。
「ちなみに、魂の半分を同じくする灯さんは、似たような味覚――辛いのが好きだったりするです?」
というクーさんに、
「私は辛いのはむしろ大の苦手ね」
と答える私。
その返答にクーさんは顎に手を当てながら、
「であれば、アストラル体がどうというよりも、個体差……純粋な『好み』の影響が強いと思うです」
なんて言ってきた。
うーん……。つまり純粋に『辛いのがとても好み』……と。
と、そんな事を思いながらユーコを見ていると、
「……? 灯も食べてみたいのですか?」
などという問いの言葉を投げかけてきた。
当然、辛いものが大の苦手の私は、それを全力で拒否する。
一欠片食べただけでも悶絶して転げ回る自信があるわよ。ええ、本当に……ね。
食事のシーンも、何気に久しぶりのような気がします……
まあ、服装について語るよりも久しぶりではないですが(何)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も、諸々立て込んでおります為、再び平時よりも2日多く間が空きまして……12月27日(金)の想定です。
(年が明けて少しするまで(落ち着くまで)、同じくらいの更新間隔になってしまうかもしれません……)




