第175話[裏] 地球・シャルとロゼの服
<Side:Souya>
「こんなのはどうかしら?」
そんな風に言いながら俺の母親がシャルに着せたのは、パンキッシュに地雷系を若干混ぜたような服だった。
もうちょっと具体的に言うと、上は赤と黒のチェック柄のコルセット風のベストと白いブラウスが一体化したような服で、下は白フリル付きで大きなスリットのある黒いガータースカートだが、内側が同じく白フリルの付いたチェック柄のプリーツスカートになっているものだ。
スカートには飾りのチェーンがついており、
「このチェーンはソードホルダーとか鞘を結んでおく用かしら? ちょうどいい具合に左右に垂れているし」
なんて事をシャルが呟く。
……うんまあ、そういう使い方も出来なくはない……か?
特にシャルは二刀流だから左右に剣を佩いているしな。
ただ、そのままそこに結んだだけだと、剣や鞘の先端が地面に触れてしまう気がするが。
というか……そもそもの話として、その発言はギリギリすぎる。
などという思考を巡らせた所で、
「ソウヤ、どうかしらね? この服」
と、俺の方に振ってくるシャル。
「んー、そうだな……。シャルに似合っているんじゃないか? なんというか、パンク的なかっこよさの中にスイートさも含まれていて、それが良い具合に両立されているように感じられるし。あと、ちょっとだけ例の『魔法探偵』みたいな雰囲気もあるな」
俺は前に読んだ『魔法探偵シャルロット』の『シャルロット』の挿絵を思い出しながら、そんな風に答える。
不思議な事にシャルが今着ている服は、その挿絵でシャルロットが着ていた服に似ていたのだ。
シャルロットのモデルはシャルなので、当然こっちもしっくりくるというものである。
まあ……挿絵の服に似ているせいで、若干『シャルロットのコスプレ』感があるが、そこはそれというものだ。
「そ、そう? でも、たしかに見た目も動きやすさも良いし、あの『当時』、これがあったら私も着ていた気もするわ」
シャルはそう俺に対して言った所で、
「その魔法探偵シャルロットというのは何?」
と、俺の母親がもっともな疑問を口にした。
「あー……向こうで出版されている小説だな。昔のシャルをモデルにした。もちろん、脚色も多いが」
「へぇ、そんなのがあるのね。それはそれでちょっと参考にしてみたい気もするわ」
俺の説明に、そんな風に返してくる母親。
とりあえず、嘘は言っていない。
そう思った所で母親が、
「……でも、探偵ねぇ。たしかにそういうのも『あり』かもしれないわね」
などと呟きながら何かを考え始める。
「あ、あの?」
シャルが困惑気味に首を傾げつつ、母親にそう問いかける。
そして問われた母親はというと、
「はっ!?」
なんていう声を、頭に電球が灯りそうな仕草と共に発したかと思うと、
「あれとあれと、それからあれを組み合わせれば……! うん、速攻でいけそうだわ! シャルさん、ちょっと着いてきて!」
などと早口で捲したてるなり、シャルの手を掴んで奥へと引っ張っていく。
「え? ええぇー?」
困惑……というか、混乱によってそれしか言葉を発せない状態のまま、引っ張られていくシャル。
俺の方へと視線を向けてきたが、それを対処するのは無理というものだ。
ああなるとどうにもならんからな……。うん。
そうして奥へと消えていく母親とシャルを見送った所で、
「ん? ソウヤ、ここにシャルとソウヤのお母さんがいた気がするけど、うん、どこに?」
というロゼの声が聞こえた。
「ああ、それなら奥へ――」
と答えながらロゼの方へと顔を向け……続きの言葉が紡げなかった。
それくらい驚いた。
「ん? どうかした?」
ロゼが首を傾げながら問いかけてくる。
俺はそれに対して、
「あ、いや、なかなか珍しい格好をしていたから、つい」
という返答が口をついて出てきた。
「うん? そう? たしかに向こうでは着ない。うん」
ロゼはそう言ってくるっと一回転すると、
「でも、うん。色々と『内側に隠せそう』だし、防御魔法を付与すれば、うん、かなり強固になりそうだし、なかなか好み。うん」
なんて口にしつつ、自身の服を見回した。
「まあ……重装っぽさは、ある意味あると言えなくもない……か?」
そんな風に呟きながら、俺もロゼのその服を見回す。
白と黒を基調としつつ青を随所に取り入れた、フリルにレースにリボン……そういったものをふんだんに使った最早ドレスと呼んでも良いんじゃないかと思える代物――そう、要するにゴスロリ服である。
それも、『風』とかではないガチのガチ。ガチガチのガチなやつだ。
たしかにこれに防御魔法を付与したら、重装の鎧――甲冑並の頑丈さになりそうだな。
頭につけている最早帽子に匹敵する程の大きさ――と言っても、ボンネットと呼ばれるものではなく、あくまでもカチューシャタイプ――のヘッドドレスも、兜代わりとして十分すぎる代物な感じがするし。
「でも、それで動きまわれるのか? ガッツリロングな上、ゴテゴテしていて動きづらそうなスカートだが」
俺がそんな風に問いかけると、
「うん、大丈夫。この通り」
と言いながら、一瞬で俺の後ろへと回り込み、背中に飛びついてくるロゼ。
「うおぅっ!?」
唐突だったので少しバランスを崩しかけたが、どうにか耐えた。
というか……この格好でこの動きが出来るとか、一体何がどうなっているんだ……
「ん、スカートが短くて、なんかヒラヒラしたのがついてるのもあったけど、うん、ソウヤはどっちが好み?」
なんて質問をしてくるロゼに対して俺は、
「う、うーん……」
と口にしつつ悩む。
むしろ、ロゼはどっちが好みなんだ? これ……
こういう時は、相手の好みの方を選ぶのが良いとか前に聞いたが……
……前にルクストリアで服を買った時は、ミニスカートの学生服みたいなのを好んでいたように感じたが、今回はわざわざこっちを着てきて、『なかなか好み』とか言ってるしなぁ……。ぐむむ……
「……まあ、どっちかを選ぶというのは難しいな。どっちもロゼには似合ってるし、十分すぎるほどの可愛さだからな。むしろ、その時の状況とかに合わせて着る方が良いと俺は思う」
考えてもわからないので、敢えてどちらかを選ばない返答にした。
ただし、どっちでも構わない――興味がないという風に取られないよう注意して、だが。
「……うん、そう? うん、なるほど……。たしかにそれはそうかもしれない。うん」
などと言いながら、腕を前に回してギュッとしてくるロゼ。
えーっと……。これは上手く答えられた……と、そう思っていい……のだろうか?
かなりひさしぶりに服を描写しました。
毎回やってると長いだけなのでずっとカットしていたのですが、ここはまあやった方がいいかなと。
シャルロッテの方はもう一度追加されそうですが……(何)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新は予定通りとなる12月13日(金)ですが、その次から少し更新タイミングが変わります。
(次回はどうにか問題なさそうな感じなので、いつもどおりにしました)




