第174話[裏] 地球・莉紗と珠鈴と店
<Side:Souya>
「うん? ここってもしかして――」
「――貴方のご両親のお店……かしら?」
ロゼとシャルが言葉を繋ぐかのようにしてそう言いつつ、俺の方へと顔を向けてくる。
「ああ、まあ……そういう事だ」
俺はため息混じりにそう返して、やれやれと首を横に振る。
「ふむ。私は何度かこっちではなく本店の方へ訪れた事があるが、たしかにここならば、見た目の良さと戦闘にも耐えられる丈夫さや動きやすさを両立した物が得られるね」
「そういう用途で作っているわけではないと思――」
珠鈴の発言にそこまで返事をした所で、ふとひとつの可能性が脳裏に浮かぶ。
そして俺は顎に手を当てながら、
「――いや……待てよ? 朔耶の家やおじさんの事を考えると、実はそういう用途で作っていた……のか?」
と、そんな風に呟いた。
「ふーむ……。たしかに竜の血盟――否、鬼哭界の連中や奴らが生み出したキメラなどの実験生物を巡るいざこざは、はるか昔からあった。当然、戦いに発展する事も数知れず……だ。そして、君の家はそこに関わる者たちと強い接点がある……。『実は戦闘用に作られていた』としても、なんらおかしな事ではないと思うよ」
「それはまあ……そうだな。もっとも、そんな話は今まで一度たりとも聞いた事がないが」
珠鈴の言葉に対し、俺は頷きつつそんな風に返す。
そして一呼吸置いてから、
「……気にはなるが、ここで考えた所で仕方ないな。とりあえず中に入るとするか。莉紗や珠鈴の言う通り、ここなら良いものが手に入るだろうし、後で防御魔法を付与しておけば、さらに完璧だ」
と、言った。
「ん、たしかに」
「そうね。早速、色々と見てみましょうか」
そう口にしつつ、店の中に入っていくロゼとシャル。
それに続くようにして俺も店の中に入……ろうとした所で、莉紗が、
「防御……魔法? 蒼夜お兄ちゃん、サイキックだけじゃなくて魔法も使えるようになったの?」
なんて事を首を傾げながら問いかけてきた。
あっ! しまった!
莉紗には異世界について話していないんだった……
どうしたものか……と思ったその直後、
「うむ。魔煌具という一種の魔導器を使う事で誰でも魔法を使えるのだ。当然、私も君もな」
などと堂々と言い放つ珠鈴。
「へぇー、そんなものまであるんだ。凄いねっ! ちょっと使ってみたいかも」
莉紗がそんな風に返した所で珠鈴は顔色一つ変えずに――いや、むしろ微笑みながら、
「私としては君に使わせても良いとは思うが、さすがに色々な制約があるゆえ、私個人の判断で簡単には使わせる事は出来ぬのだ。すまぬ」
なんて返事をした。
「あー、まあそうだよねぇ……」
「だが、いずれそういう機会を設けたいとは考えているよ」
「え? 本当に?」
「もちろんだとも。……それはそれとして、あのふたりの事は見ていなくてもいいのかい?」
珠鈴は莉紗に対して頷きつつ、ロゼとシャルの方へと視線を向ける。
要するに、意識を――思考をそちらに誘導する形だ。
少し強引な感じもしないではないが、その誘導は上手くいったようで、
「あっ、そうだった! ふたりとも待ってー!」
という言葉と共に、ロゼとシャルの後を追って店の中へ入っていく莉紗。
珠鈴はその後ろ姿を眺めながら、
「ああいう時はね、堂々と少しばかり真実を話してしまえば良いのさ。莉紗は『何も知らないわけではない』のだから」
と、『何も知らないわけではない』の所を強調しながら俺に告げ、肩をすくめてみせた。
「……それは……まあ、たしかにそう……か」
そんな風に呟くように返事をした所で、珠鈴がさらに、
「そうさ。まあ、竜の血盟――鬼哭界の連中が莉紗を使った実験を繰り返した結果、莉紗は昔の記憶を失っててしまった……。その過去を考えると、あまり『そちら』が関係するような話を振りたくないというのも分からなくはない。ふとした拍子に過去の記憶を想起させ、トラウマを呼び起こしてしまうかもしれない……と、蒼夜はそんな風に考えているのだろう?」
なんて事を腕を組みながら言ってくる。
「……ああ。たしかにそんな風に考えている面はあるな……」
俺がそう答えると、珠鈴は首を横に振ってみせた後、
「あの子はそんなにヤワな子ではないよ。むしろ、あの子に対してそういった『躊躇』をしていたら、いずれ感づかれて、『気を遣わせているかもしれない』という別の負の想念――今風に言うとネガティブな感情……か? ともかく、それを抱かせてしまう事に繋がるのではではないか……と、私は思う」
などという言葉を紡いだ。
しかしすぐに頭を掻きながら、
「……むぅ、いかんな……。どうも私は、考えた事を言葉にして伝えるのが苦手だ。今のでしっかりと伝わったであろうか?」
なんて事を小声で口にする。
そんな珠鈴の様子に、俺はやれやれと思いつつも、
「なぁに、言いたい事は十分伝わっているから大丈夫だ」
と伝えた。
それに対して珠鈴は、わずかに不安さを残した表情で、
「それなら良いが……。まあとにかく、積極的に異能や魔法、向こうの世界の事などを話す必要はないが、あまり消極的になる必要もないという事だ」
と言って、そのまま店の中へと入っていく。
その後ろ姿を見ながら、俺は思考を巡らす。
あまり消極的になる必要もない……か。
まあ……たしかに莉紗自体、もしかしたらクーと同じように、グラスティア側の人間である可能性も考えられるしな。
いや、むしろ最初の状況……保護した直後の莉紗の言動からすると、鬼――
「蒼夜、店先で突っ立ったまま、一体何をそんなに考え込んでいるんだ?」
思考の途中で、唐突にそんな声が後ろから聞こえてきた。
それは――
「父さん!? それに、母さんも!」
――俺の両親だった。どうしてこんな所に?
「どうしてこんな所に? と言わんばかりの顔をしているわね」
母親はそんな事を言って肩をすくめてみせた後、
「あなたたちがこのアウトレットモールへ来るのは知っているんだから、時間を合わせて様子を見に来るくらい、するに決まっているでしょうに。莉紗ちゃんが同行するなら、きっとこの店に来るって思ったし」
俺が返事をするよりも先に続きの言葉を紡いだ。
ぐぬぅ……。たしかにその通りだ……
「ほーら、それよりも早く中に入るわよっ。あのふたりに色々と着て貰わないといけないしねっ!」
そんな事を言って、店の中へ入るように促してくる母親。
というか、『色々と着て貰わないといけないしねっ!』じゃないだろ……と思ったが、そこは口にする事なく店の中へと入る俺。
まあ、なんというか……そこに突っ込んだら面倒な事になりそうな気しかしないからな……
ばっちり登場です(何)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、12月9日(月)の想定です!
ですが、その次からは年末進行的な都合により、更新タイミングが若干変わると思います……
(あまり間が空きすぎてしまわないような調整はするつもりです)




