第172話[裏] 地球・待ちの時
<Side:Souya>
「――というわけで、あまりにも膨大なデータ量に、エステルが調査チームを作って分析しないとどうにもならないって言い出してな。一朝一夕とはいかなさそうな感じだったから、こうして戻ってきた」
社務所に戻ってきた俺がそんな風に告げると、
「なるほどねぇ……。つまり、そっちも『待ち』というわけね」
と、シャルがそう返してきた。
「ん。ディアーナ様の逆探知も、そのデータの分析も、新手の転移も、うん、全て待つしかない」
「なら、今の内にこっちの世界をもう少し色々と見て回りたいわね」
「うん、たしかに。ルクストリアにある百貨店やテーマパークみたいなのが、うん、こっちだともっと大規模だって聞いた。うん」
「そう言えば、『アウトレットモール』という商業施設の話をしていたわね。リサちゃんが」
なんて事を話し始めるロゼとシャル。
「たしかにちょっと気になるのです。私も映像などでは見た事があるですが、この目では見ていないのです」
などと、クーも頷きながらそんな風に言ってきた。
あー……うん。
これは行かないと駄目な奴だな……
俺はそう判断し、スマホを操作して諸々確認しつつ、
「まあ……それなら明日だな。今日はもう時間も時間だし。天気予報によると、明日は晴れるみたいだからな」
と告げた。
「だったら、今日の所はもう家に帰りましょうか。リサちゃんが夕飯までには帰って来るようにって言ってたし」
「ん、そうしよう。リサとの話がまだ途中だし。うん」
そんな事を言ってくるシャルとロゼを見ながら俺は、なんでナチュラルに『俺の家に帰って莉紗と話をする』流れになっているんだ……?
と思ったが、まあ……朝の時点でそれっぽい話になっていた気がするし、敢えて何も言わない事にした。
きっと、俺の両親もOKしているんだろうなぁ……
「ぐむむ……。私も蒼夜の家に泊まりたいぞ……」
右手をギュッと握りながらそんな事を呟く珠鈴と、それに対して、
「えっと、その……気持ちは分かるですが、堪えてくださいです」
なんて言って宥めるクー。
「まあ……なんだ? とりあえず帰る前に、今日はもう引き上げる旨をおばさんに伝えてくるぞ」
俺はそう告げると、そのまま皆と一緒に『家』の方へと移動。
おばさんに対して今日はもう引き上げると伝えた。
すると――
「そう言えば……蒼夜君はともかく、他の皆さんはどこに泊まっているのかしら? もし良かったら、このままウチに泊まっていってもいいわよ」
と、そんな風におばさんが言ってきた。
それに対して珠鈴が真っ先に、
「むむっ。それはなかなか魅力的な提案でございすね……! もっとこの家を見てみたかった所でございます!」
などと、興奮しながら反応する。
「いや、食いつきすぎだろ……。というか、興奮しすぎて口調もなんだかおかしくなってるし……。どんだけこういう家が好きなんだ……」
「あはは……。でも、です。たしかに誰かここに居た方が、ディアーナ様や向こうの世界との連絡が取りやすそうな気はするのです」
呆れ気味に呟いた俺に続くようにして、クーが苦笑しつつそう言ってくる。
「うーむ……。たしかにそれは一理あるな……」
俺が納得の表情でそんな風に返すと、珠鈴が、
「ならば、私がその役を引き受けよう」
と、これまた速攻で言ってくる。
するとロゼが、
「……ん。珠鈴にオーブを渡すのはちょっと微妙。うん」
なんて事を小声で告げてきた。
って、シャルもウンウンって感じで首を縦に振ってるな……
まあ……ふたりからしたら、珠鈴はシズクと同じで『一時的に味方になっているだけ』という認識だろうから、そう考えるのはある意味当然だな。
そんな風に俺が思った所で、
「――では、私も泊まらせて貰うのです。私も神社には色々と興味があるのです」
なんて事を、クーがわざわざ挙手しながら言ってくる。
おそらくだが、こうするのが一番手っ取り早いと考えたのだろう。
うーむ……。ちょっと気を使わせてしまった感があるな……
とはいえ、たしかにこれならロゼもシャルも安心するのは間違いないが。
「ふたりは決まりね。あとのふたりは?」
おばさんも何かを察したのか、素早くそう促してきた。
するとそれに対して、
「あ、私は蒼夜の家に泊まっているから大丈夫です」
「ん。同じく」
なんて答えるシャルとロゼ。
「あら、そうなの?」
「ええまあ……。どうやら莉紗とも約束済みのようで……」
俺の方を見てきたおばさんに対し、俺は頬を人差し指で掻きながら返事をする。
そもそも莉紗が、今日もウチに泊まる事が前提なのがあれだが……
まあ、おじさんは諸々理解しているから、それを踏まえた上でOKしているんだろうけど。
ウチの両親に関しては、絶対に無条件でOKって言ってるだろうし。
そんな事を考えていると、おばさんが「まさか……外堀……あの子は……」とか「これは……足止め……話を……」とか、そんな事を呟き始めた。
あまりにも小声すぎて良く聞き取れないが……一体、何を呟いているんだろうか?
という疑問を抱いた所で、
「……? なんでだかは良く分からないけど、さっさと帰った方がいい気がしてきたわ……」
と、唐突にそんな事を小声で呟くシャル。
するとロゼがそれに頷き、
「うん。奇遇。同じ事思った。うん」
などと、同じく小声で口にしてきた。
そしてそのまま流れるように、
「うん。莉紗との約束もあるし、そろそろ行こう。うん」
「そうね。夕飯に遅れるのも悪いしね」
と、わざわざ声を大きくしながら告げるふたり。
しかも、俺の方を見ながら。
……よくわからんが、あまり長居したくはないという事なのだろうと考え、
「それでは、ふたりの事お願いします」
と告げて、足早に朔耶の家を後にする俺――というか俺たち。
そして、自宅への帰路についたところで、
「急にあそこから立ち去りたそうな雰囲気を出してきたが、どうかしたのか?」
という疑問を投げかけてみた。
するとそれに対して、
「それが、良く分からないのよねぇ……」
「うん。なんだか急にあの場に居たらまずい気がしてきた。うん」
なんていう、なんともふわっとした返事をしてくるふたり。
「なんだそりゃ……」
呆れ気味に肩をすくめながらそう口にすると、ふたりはさらに、
「うーん……。なんというか……私の持つ霊力とあそこに急に生じた霊力とが、こう……衝突した……いえ、衝突して押し負けたかのような、そんな感じがあったのよねぇ」
「うん。私はもう霊力ないけど、でも、うん、たしかにそれに似た物を感じた。うん、霊力が復活したんじゃないかと錯覚するくらい、ゾクッときた。うん」
と、あれこれと思考を巡らせる仕草をしながら、そんな風に言ってきた。
霊力……しかも圧倒される感じ……か。
朔耶の家の生業を考えると、そういったものを何か有していたとしても別におかしくはないが……
というか、おばさんが何か呟いていた直後だったよなぁ……?
まさか、おばさんが霊的な力のようなものを無意識に発露させて、それに反応してしまった……のか?
でもその場合、ふたりの反応からすると、少なからず敵対心――敵愾心のようなものがあるのではないか……という話になるが……
さすがにそんな事あるわけないよなぁ……うん。
まあ、朔耶の母親なので……(何)
さて、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、12月2日(月)を想定しています!




