第169話[裏] 地球・箱と記憶媒体
<Side:Souya>
「これがそうなのよね」
おばさんがそう言いながら、箱を朔耶の部屋から持ってくる。
その箱は完全なまでの真四角で、銀のような見た目の金属で出来ているにも関わらず、重さがほとんどなかった。
「これはまたシンプルというかなんというか……六面全てが、飾りどころか凹凸ひとつない見事なまでの真っ平らっぷりだね」
「ええそうね。繋ぎ目や鍵穴の類もまったく見当たらないし、どうやって開けるのかしら?」
「ん。たしかに。表面に何か隠されているような感じもしない。うん、どうすればいいのかがさっぱりわからない」
珠鈴、シャル、ロゼの3人がそんな風に言った通り、その箱の開け方は謎に包まれていた。
ひと目見ただけだったら、こういう置物だと思ってしまいそうだ。
手に取って箱を振ってみると、カチャカチャと音がした。
どうやら、中に何か入っているのは間違いない。
「これ、貯金箱と同じで壊さないと駄目……とかなんじゃないかしらね?」
「ん、なるほど。たしかにそれはありそう。うん」
シャルとロゼがそんな風に言ってくる。
「とはいえ……加減を間違えたら、中の物も壊してしまうだろう。まあ、強度はかなりありそうな感じではあるが」
珠鈴がそう言いながら、じっと箱を見つめる。
そんな3人に対し、
「……別に壊さなくても、中から物を取り出すだけなら簡単だろ」
と返す俺。
「ん?」
「え? 開け方わかったの?」
ロゼとシャルがそう言ってくるが、
「いや、わからん。というか、そもそも開け方なんてなさそうだし」
と答える俺。
「ならどうや……って、ああっ!」
首を傾げた珠鈴が途中で気づいたらしく声を上げ――
「……っと、すまぬ。つい大きな声を出してしまった」
なんて言いながら頭を下げた。
そして俺の方を見て、
「――クレアボヤンスとアポートがあったね……」
と、そう口にした。
「そういう事だ。ここの所『謎のノイズや靄』に阻害されてしまう事が多かったが、これはさすがに大丈夫だろう」
と返しつつ、早速クレアボヤンスで箱の中を覗いてみる。
すると、さすがにノイズや靄に阻害されたりはせず、普通に中を視る事が出来た。
「折りたたまれたレポート用紙みたいなものと……真ん中に穴の空いている黒くて薄いカード……よりは分厚いか。うーむ……特殊なカードキーの類……か? ともかくそんな感じのものが入っているようだが……まあ、引っ張り出してみるか」
俺はそう言いながら、クレアボヤンス越しに視えていたそれらをアポートで引っ張り出す。
そして、「取れたぞ。これだ」と告げつつ、レポート用紙と妙な形状のカードキーのようなものをテーブルの上に置いた。
「蒼夜君に特殊な力があるのは、朔耶から聞いて知っていたけど、こんな事が出来るのね」
「ええまあ。正確には出来るようになった……という感じですが」
「なかなか凄いわね。……というか、これってフロッピーディスク?」
妙な形状のカードキーのようなものを見ながら、そんな風に言ってくるおばさん。
「フロッピーディスク……ですか? 知っているものとは大きさが違いますが……」
「きっと、蒼夜君の『知っているフロッピーディスク』は『3.5インチサイズ』と呼ばれるものね。私も実物を見た事はほとんどないのだけれど……フロッピーディスクには複数のサイズがあってね。これは、『8インチサイズのもの』にとても似ているわ」
「なるほど……。さすがに別の世界の代物なので、『それそのもの』ではないでしょうけど、これも何らかのデータが保存されている記憶媒体の類である可能性は高そうですね……」
おばさんに対してそう答えながら、俺は折りたたまれたレポート用紙を広げる。
すると、それは朔耶からの手紙だった。
しかもその手紙――レポート用紙は1枚ではなく、全部で5枚ほど重なっていた。
それを見ながら俺は、これはまた結構な長さだな……と思いつつ、
「もしかしたら、これに書いてあるかもしれないな……」
と呟き、そして声に出しながらその手紙を読み始める。
『この手紙を、箱を壊さずに取り出せたという事は、これを読んでいるのはきっと蒼夜だよね。どうやって地球へ戻ったのかは分からないけど、もし自由にグラスティアとの行き来が可能になっているのなら、このフロッピーディスクみたいな奴――データカードを使う事で、『私の計画』の『現状だと不可能』だと思われる部分を解消する事も、きっと出来るはず! いや、出来るんじゃないかなぁ……。た、多分出来ると私は思ってる』
……書きながらどんどん自信がなくなっていくのは、一体なんなのか……
「名前はデータカードというみたいだけど、記憶媒体なのは間違いなさそうね」
「そうだな。しかし、朔耶はこのサイズのフロッピーディスクの存在を知っていたのか……。なんだか少しだけ負けた気分になるな」
シャルに対してそんな風に頷きつつ答えると、
「まあ……それはそれとして、続きを読むとしよう」
と続けて、再び読み始める。
『あの計画には色々と足りないのは分かってるし、それを最終的には蒼夜に任せてしまう事になるのも分かってる。私は最後まで『これ』には関われないから。
でも、こう……後は任せたって言うのは簡単だけど、なんだかそれってちょっと無責任感があるというか……いくらなんでも丸投げすぎるんじゃないかというか……まあともかく、私の感情的にはあまりよろしくない!』
「余計な文章が多いわねぇ……。もっと簡潔にかけないものかしらねぇ……」
なんて事をため息混じりに呟くおばさん。
それに対して俺は、まあたしかにそれは否定出来ないなぁ……。朔耶らしいっちゃ朔耶らしいが……などと思いながらも、更に読み進める。
『というわけで、少しでも追加で手助け出来ればと思って、これを用意したわけ!
ここの所、北の大陸以外でも、小規模だけど空間に穴が開く現象が生じているのは観測してわかっていたから、ちょっと網を張って待ち構えていたんだけど……いい感じに引っかかってくれてね。
どうやら、銀の王……ううん、その裏にいるディアドコスとかいうマザーコンピューターみたいな奴の計画に懐疑的な連中――密かにディアドコスの計画とは異なる計画を立てて動き始めた連中の実験によるものっぽい事が判明したんだ。
まあ、これを読んでる蒼夜は、そのあたりまで分かってるような気もするけど。
あ、もしもそれどころか、ここに書いてある内容が全てもう知ってる事なんだがオラァ! とかだったらごめん』
「うんまあ、ある意味朔耶らしい文。うん」
今度はロゼがそんな事を呟いた。
それに関しては否定のしようがないな。俺もさっき同じ事を思ったし。
「とりあえず、ディアドコスの計画とは異なる計画を立てて動き始めた連中がいるというのは、たしかにその通りだね。なにしろ、私がそちら側なのだから。まあ、付け加えるならその異なる計画は『ひとつではない』という事であろうか。――転移で魔物を地球へと送り込んでくるのは『私たち』の計画ではないからね」
「ん、もしかして……『全てもう知ってる事なんだがオラァ』になりそうな感じ? うん」
珠鈴の言葉に続くようにして、そんな事を言ってくるロゼ。
「どうだろうなぁ……。まだ結構あるし、さすがに俺たちが把握している事しか書かれていないなんて事はないと思うが……」
俺はロゼに対してそう返しつつ、レポート用紙へと視線を向ける。
そして、うーむ……まだ先は長いなぁ……なんて事を思いながら、
「ま、とにかく続きを読んでいくとしよう」
と皆に告げ、再び手紙を読み始める俺だった。
フロッピーディスクもどきの登場ですが、一体何が記録されているのやら……です(何)
と、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、11月22日(金)の想定です!




