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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第11話異伝2 珠鈴とオートマトン <後編>

「どんな策なのです?」

 室長が、アサルトライフルのセーフティを解除しながら問いかけてくる。


「――珠鈴にテレポーテーションで南側の部屋へ跳んでもらい、そこから警備司令室の方へ向かって貰います」

「珠鈴君1人に制圧させるのですか?」

 俺の言葉に対し、首を傾げながらそう返してくる室長。

 

「いえ、違います。というか、さすがにそれは危険というか無謀です」

「そうだろうか? 上手くやれば出来そうな気もするがな」

「しなくていい、しなくて」

 珠鈴が何やら自身あり気に言ってきたが、ここは拒否だ。

 

 まあ、珠鈴の力なら包囲さえ防げれば出来そうな気もするが、さっき思考したように、制圧した所でオートマトンが止まるとは限らないし、あそこまで行ってしまうと、脱出が面倒になる。

 というわけで、だ――


「細かい説明を珠鈴にしたいので、室長、珠鈴と迎撃要員の交代をお願い出来ますか?」

「なるほど……わかりました。きっちり迎撃しておきますよ」


 珠鈴に説明するため、オートマトンの迎撃を珠鈴から室長へと交代。

 俺のもとへとやって来た珠鈴が、しゃがみ込みながら問いかけてくる。

「で、どうするのだ?」


「珠鈴は南側の部屋に跳んだら部屋を出て左に行きつつ、オートマトンを発見したら攻撃を仕掛けて、オートマトンが迎撃に向かってきたら、近くの部屋に隠れる」

「ふむ? 交戦するのではないのか?」

「交戦はするが、少しやり方を変える。――この部屋以外のこの辺りの部屋は、部屋の中で繋がっているらしいからな。テレポーテーションも使いながら、移動と再攻撃を繰り返して翻弄する。――敵は南側にこちらの援軍が来て警備司令室を狙っていると思うだろうから、そちらに戦力を割いて、こっち側は戦力が薄くなるはずだ」

「なるほど、私は陽動役というわけか。南側に敵を引きつければ良いのだな」

 俺の説明を聞き理解した珠鈴が頷き、そう言う。

 

「ああ、そういう事だ。で、ある程度引きつけたら、この部屋へ再度テレポーテーションだ。奴らは珠鈴の姿を見失うだろうから、その隙に北西――試作開発エリアへ向かい、俺たちと合流だ」

 そこまで言った所で、ふと思った事を続けて口にする。 

「……いや、まだ足りないな。これでは珠鈴の負担が大きすぎる。もう少し負担を減らす方法を考えないと駄目だ……」


「ええ、そうですね。もう一手欲しい所ですね。――北側から、私たちも攻撃を仕掛けるとかですかね?」

 オートマトンを迎撃しながらも、しっかり聞いていたらしい室長がそんな提案を述べてくる。


「それだと、こちら側の追跡が増えると、試作開発エリアを押さえるのに時間を食う事になり、下手をすると押し込まれる気がするんですよね……」

「……たしかに。時間を掛け過ぎると挟まれたり、遮蔽物のない空中通路での交戦になりかねませんね……」

 俺と室長が、そんな話をしていると、

「なにを心配している? 負担が大きい? 私は自分で言うのもなんだが、戦闘能力はかなり高い方だぞ? その程度なら私1人で造作もない事だ」

 と、珠鈴が言ってきた。

 

 たしかに珠鈴の戦闘能力は段違いに高い事は知っている。

 キメラの群れに突っ込んで、あっさり一掃する場面を何度か見たしな。

 とはいえ、キメラの攻撃とオートマトンの攻撃では火力も射程も違いすぎる。

 

「いや、しかしだな――」

「いやしも、しかしも、かかしもない! ――私はお前を信用している! お前の立てた作戦であれば、成功は間違いない、とな。それに対してお前の方は、私を信用していないのか? 私を、私の力など信用出来ない……と、そう言いたいのか?」

 俺の言葉を遮り、そう言い放つ珠鈴。

 

 ……っ。


「………………ああ、いや。そう……だな。――俺も珠鈴を信じている。珠鈴の力なら可能であると信じているからこそ、こんな作戦を考えついたんだからな。だから……珠鈴、今説明した通りに陽動を頼む」

 しばしの葛藤の後、俺は決意し、告げる。


「――では、これを持っていってください。それだけあれば、しばらくは撃てるでしょう。珠鈴君が陽動してくれるのなら、こちらは残りの手持ちだけで足りますので」

 そう言って、室長はリロード用の弾倉の束を、こちらに向かって床を滑らせてきた。

 

「ああ、活用させて貰おう。……で、この弾幕はどうするつもりだ?」

 珠鈴が弾倉を拾いながら、俺に問いかけてくる。

 

「今からサイコキネシスで止める。あんまりもたないから、急いで頼む」

「――わかった」

 俺の言葉にそう短く言って頷く珠鈴。

 

「よしっ!」

 掛け声と共に目を瞑り、精神を集中――

 弾丸の流れが頭の中に浮かんでくる。

 ……それを『押し』留める!

 

 直後、弾丸が次々に空中で停止し始める。


「今です!」

 その様子を見ていた室長が俺の代わりに言い放つ。

 

「わかっている!」

 珠鈴の靴音が響く。

 

 俺は、テレポーテーションが完了するまで、ひたすら弾丸を止め続ける。

 

 ……ぐぅっ!?

 俺の額から汗が垂れ始める。

 

 思っていた以上に消耗が激しい。くっ……!

 頭にピリピリとした、足がしびれた時のような感覚が走り始める。

 

 ぐっ……がぁっ……! そ、そろそろ……マズ、イ……っ!

 

 と、その直後、横から飛びついてきた誰かによって、床に押し倒された。

 同時に、サイコキネシスが強制解除され、無数の弾丸が床に落ちる音が響く。

 

「もう大丈夫です。安心してください」

 室長の声が聞こえた。どうやら飛びついてきたのは室長だったようだ。

 続けて即座に間近から銃声が響く。どうやら、再度迎撃を開始したらしい。


 なんとか呼吸を整えて、頭もスッキリしてきた所で周囲を見回す。

 既に珠鈴の姿はなかった。

 

 と、その直後、壁越しに別の銃声が聞こえてきた。

 どうやら、南側から珠鈴が攻撃を開始したようだ。

 

 そのまましばらくすると、こちら側に迫ってくるオートマトンの数が目に見えて減った。大半のオートマトンが南側に集結したのだろう。

 

「ふむ……どうやら、敵は警備司令室の防衛を優先させたみたいですね。これは私たちと珠鈴君の両方に取って好都合です」

「そうですね。守りに徹してくれれば逃げやすいですからね」


「ええ」

 室長は、頷いてそう短く答えると、アサルトライフルを構え直し、

「さて……それでは、こちらも行動開始といきますよ!」

 その言葉と同時にオートマトンを撃破しつつ通路へと飛び出していく。


 それに続き、俺もまた通路へと飛び出した。

 さて、ここからは珠鈴を信じて、こちらも一気に駆け抜けるだけだ。

 

                    ◆


 ――大した交戦もなく、あっさりと空中通路を抜け、試作開発エリアへ辿り着く俺たち。

 だが、そこには想定外の光景があった。

 

「……まさか、開発途中のプロトタイプを動かしてくるとは思いませんでした……」

「武装まで積んでいるというのも想定外でしたね……」

 室長の言葉にそう返す俺。

 

 そう、試作開発エリアには多数のプロトタイプのオートマトンが待ち構えていたのだった。

 よく考えれば、この可能性もあり得たはずだと今更ながらに後悔するが、ここまで来た以上、どうしようもない。

 

「弾薬の残量がギリギリですが、仕掛けて制圧するしかありませんね……」

 室長が残弾を確認しつつ、そう言ってくる。


 俺のマグナム弾はまだ結構残っているが……それでも、成功率は五分五分って所か。だが、やるしか道はない。

 と、そう考えた直後――

 

『ソー兄っ! 空中通路に戻って!』


 という、朔耶の声が頭の中に響いた。

 

「んなっ!?」

 驚きの声をあげる俺。

 

「何です!? 何を見つけたんです!?」

 室長が焦った表情で俺を見てくる。


『聞こえてる!? ソー兄っ!』

 こちらもまた、焦り声だ。

 

「い、いや……頭の中に朔耶の声が……」

「朔耶君の声……ですか? まさか……テレパシーを?」 

「え? なんで朔耶がテレパシーなんて?」

「覚醒した……と考えるのが妥当かと。一応、予知夢っぽいものを見ていたり、テストにおいて何らかのサイキックを有しているが未覚醒、という結果が出ていたりと、兆候自体はありましたから。通じるかどうか試すという意味でも、聞こえてくる声に対し、頭の中で返答してみてください」

 室長からそんな風に説明される俺。……まあ、ともかくやってみるか。

 

『――本当に朔耶なのか?』

『そう、本当に私だよ! 朔耶だよっ! 良かった……通じた……!』


 なにがなんだかさっぱりだが、声の主は朔耶で間違いないようだ。


『一体、朔耶は何がきっかけでテレパシーに覚醒したんだ?』

『その話は後! 今はともかく急いで上に戻って!』

『上? 空中通路に戻ればいいのか?』

『うん、そう! そこ!』

『良く分からんが……とりあえず了解だ』


 俺は室長に朔耶からの話を伝える。

 そして、いまいち意図が掴めないが、このまま突撃するよりはいいと判断して、急いで上――空中通路へと引き返した。

 

『で、辿り着いたらどうするんだ?』

『そこで待ってて!』


 そう言われた俺たちは朔耶の声に従う形で、吹き荒ぶ風の中、空中通路上で待機する。今の所、オートマトンが迫ってくる様子はないが……

 

「本当にこんな所で待っていて大丈夫なんですかね?」

 室長が、そんなもっともな疑問を口にした直後、ローター音が響き渡り、戦闘ヘリがこちらへと突っ込んでくるのが窓の外に見えた。

 

「ふぁっ!?」

 俺はこの展開――否、この超展開に理解が追いつかず、素っ頓狂な声を上げる。というより、上げずにはいられない。……わけわからなすぎだろ!

 

「よう! 帰ってくるのがあまりに遅いから、待ちくたびれて迎えに来たぜ!」

 戦闘ヘリの扉が開き、そんな声と共に姿を見せる蓮司。

 

「なんともまあ理解不能な現れ方をしてくれますねぇ……。これはさすがに想定外ですよ。というか、この戦闘ヘリは一体どうしたんですか?」

「ちょっくら借りてきた。ってなわけで、借りてきた奴には後で説明しといてくれ」

 室長の言葉に対し、なにやらいい笑顔でそう言ってサムズアップをする蓮司。

 

「……凄く面倒な事になりそうなんですが……」

 室長が盛大にため息をついた。

 ……うんまあ、なんとなく理解した……。これ、絶対こっそりとやったパターンだ。しかも、色々と面倒くさい所から拝借してきただろ……確実に。


「そんな事は後で考えてください! 早くこちらに! これ、シミュレーターよりも、操作が難しいんですよ……っ!」

 というテレパシーではない朔耶の声が響く。

 

 声のした方を見ると、操縦席に朔耶がいた。

 って、まてまて……なんでお前がそれを操縦してんだよ……

 俺には朔耶という存在自体が超展開に見えてきたぞ……

 

「そんな所で呆けてないで、早く!」

 という急かす声に、呆けるに決まっているだろう……と思ったがあえて口にしない。

 

 それに、珠鈴がまだ来ていない。

「いや、まだ珠鈴が来ていない。だが……もうすぐ来るはずだ!」


 そう信じて待つ事、しばし……

 

「お……来たみたいだぜ」

 そう言って通路の先に視線を向ける蓮司。

 その視線の先を追うと、そこには走ってくる珠鈴の姿があった。

 

「珠鈴!」

 俺がそう呼びかけた瞬間、珠鈴の姿が消える。

 

 そして次の瞬間、俺の目の前に現れた珠鈴が、余裕だと言わんばかりの表情と口調で言う。

「ほら、何も問題なかっただろう?」

 

 それに対し、俺が返す言葉は1つだ。

 

「ああ、そうだな。――信じていたさ!」

今回の異伝はここで終わりです。


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