第167話[裏] 地球・朔耶の家
<Side:Souya>
ここに来るのも久しぶりだな……
いや、当たり前と言えば当たり前なんだが……
なんて事を思いながら、俺は垣根によって境内と隔てられた、朔耶の家の敷地内へと足を踏み入れる。
「ん。この家、随分とクネクネと曲がりくねってる。うん」
「アカツキ皇国で何度か見かけた事があるわね。こういう感じの造りの屋敷を」
敷地内から家屋を眺めながらそんな風に言うロゼとシャル。
それに対して俺は、たしかに傍から見たらそういう構造ではあるな……と思いつつ、
「ああ、これは本殿や拝殿……それから蔵にも家の中から行けるようにと、何世代にも渡って増改築を重ねた事でこうなったらしいぞ。もっとも……完全に家の中と繋がっているのは蔵のみで、本殿と拝殿の方は、限りなく近い所に出る裏口が作られているだけなんだけどな」
と、そんな風に説明する。
「まあ、私好みの家だね。いずれはこういう感じの家に住みたいとは思っているよ。なにせ、地球での私の家は、何の変哲もない普通のマンションだからね」
「見晴らし抜群のタワーマンションの上層階に住んでおいて、『変哲もない普通のマンション』なんて言うのはどうかと思うが……」
珠鈴の発言にそう突っ込みをいれると、珠鈴は、
「見晴らしなんてものは3日で飽きると言うものだよ。そして、外との行き来が面倒なだけになるのさ」
なんて事を口にして肩をすくめてみせる。
……なんという言い草……
いやまあ、たしかに珠鈴にとってはそうなのかもしれないが……
「私としてはあんな街並みよりも、広い庭園の方が見ていて飽きないというものだしね」
そんな風に言ってきた珠鈴に、
「ん。でも、庭が広いのも面倒。うん、むしろ高い所の方がいい」
と返し、首を横に振ってみせるロゼ。
面倒ときたか。
まあたしかに、広い庭って手入れするの大変そうだけど。
ロゼの家の場合、門から玄関までもそこそこあるし。
というか……このふたり、結構豪華な家に住んでおきながら、好みが住んでいる家と違いすぎだろ……
それとも……そういう家に住んでいるからこそ、なんだろうか?
いわゆる、隣の芝生はなんとやら……という奴なのかもしれない。
などと考えていると、
「あなたたち、良い所に住んでるからそんな事言えるのよ……。私からしたら、どっちも良すぎるわ」
という突っ込みをいれるシャル。
この件に関しては、ある意味3人の中で、一番まともな価値観というか感性だと言えなくもないな……
「で……。それはそれとして、この家もオーブが使えるような霊的な力の範囲内なの?」
シャルが俺の方へと顔を向け、そう問いかけてくる。
それに対して俺は、
「あー、どうなんだろうな?」
と返事をしつつ、次元鞄からオーブを取り出す。
しかし、オーブは灰色に濁っており、使えそうになかった。
「……どうやら使えないようだ。神社とはいえ、家の方まで霊的な力に満ちている……というわけではないみたいだな。まあ、意図的に遮断されている可能性も十分考えられるが」
「どういう理由なのかはともかく、現状だとあの境内で使うしかないって事になるわね」
そう言ってくるシャルに頷きつつ、
「そうなるな。うーむ……境内にも関係者以外が立ち入れない場所があるから、そこを使わせて貰えると一番いいんだが……」
と、呟くように言う俺。
そして、まあ……それも含めて、しっかりと話をしないとな……と、心の中でだけ続きの言葉を紡いだ。
――そんな会話をしている間に、俺たちは庭を抜け、玄関へとやって来ていた。
するとそこでロゼが、
「ん? あっちにも門がある?」
なんて言いながら、玄関の正面方向にある門へと視線を向ける。
「向こうがある意味、この家の正門って所だな」
「ん? それなら、あっちから来た方が良かったんじゃ? うん」
俺の返答に対し、首を傾げながらそう問いかけてくるロゼ。
「まあ……それでもいいっちゃいいんだが、あっち側は下からクネクネと曲がった坂道を登ってくる必要があってな。今日みたいな雨が強い日は、坂道は滝みたいに、坂の下の池みたいになるから、普通の靴だとビシャビシャになるしな。あと、単純に俺の家からだと、境内を通ってきた方が早いってのもある」
「ん、なるほど。納得した」
ロゼが俺の説明に納得した所で、俺は玄関の屋根の下で傘を閉じ、そしてインターホンを鳴らした。
……な、なんだか少し緊張してきたぞ……
と、そんな事を思った所で、
「はい。……って、蒼夜君!?」
という女性――否、おばさんの驚きの声がインターホンから響いてきた。
「んん? 一体どこでこちらの状況を?」
ロゼがそんな疑問を小声で呟くように口にすると、ロゼの横に立つ美鈴が、
「こちらの世界には、カメラとマイクの付いたインターホンが割と普通にあるんだ」
と、俺の代わりに小声で説明した。
「はい、そうです。蒼夜です。今日は朔耶の事で話をしに来ました」
「良くわからないけど、まあ……とりあえず中に入って」
俺の返答に対し、おばさんがそんな風に言ってきたので、
「あ、はい。それではおじゃまします」
と返事をして、玄関の引き戸を開ける俺。
そして、全員が家の中へと入った所で、
「蒼夜君、久しぶりね。急に尋ねてくるからびっくりしたわ」
という声と共におばさんが姿を見せる。
「うん? 朔耶のお母さん……? じゃない?」
「お姉さんかしらね?」
ロゼとシャルが小声でそんな事を言っているが、目の前にいる人は朔耶の母親だ。
まあたしかに、『お姉さん』でも通じるくらいの見た目ではあるが。
「あら、お世辞でも嬉しいわね」
しっかりとロゼとシャルの発言が聞こえていたらしいおばさんが、頬に手を当てながらそんな風に言った。
「あ、いえ、お世辞ではなくて本当にそう思ったと言いますか……」
「うん、若い。朔耶の母親と言われても信じられないくらい、若い。うん」
ロゼはシャルに続いてそんな風に言った後、おばさんをじっと見つめて、
「でも、うん、良く見ると、朔耶っぽさもある。うん」
なんて事を言った。
それに対し、
「そうかしら? 朔耶には似ていないって良く言われるんだけど……」
と、そう呟くおばさん。
うーん……。それは単に照れ隠しの類じゃなかろうか……
などと思った所でおばさんが、俺たちを見回しながら、
「というか、随分と不思議な雰囲気の女性を3人も連れて来ているけれど、蒼夜君とはどういう関係なのかしら?」
という疑問の言葉を投げかけてくる。
俺はそれに、まあ……うん。それはもっともな疑問だよなぁ……と、そんな風に思うのだった。
思ったよりも会話が長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、11月15日(金)の想定です!




