第165話[表] 地球・ディアーナパワー
<Side:Akari>
「――というわけなんだ」
「なるほどー、転移の追跡ですかー。ちょっと調べてみますねー」
蒼夜から説明を聞いた女神様は、そんな風に返しつつテレポータルを開いて、こちらへとやってくる。
そして、
「たしかにー、この辺りにー、空間の歪み……いえ、次元の壁に穴を開けたかのようなー、そんな痕跡がありますねー」
なんて事を言いながら、ちょうどあの悪魔の如きキメラがいた辺りへと移動した。
「ふむふむー、なるほどなるほどー。少なくとも外へ逃げたりはしていませんねー。完全に私たちの世界へとー、転移していますー」
じーっと一点に視線を向けたまま、そう言ってくる女神様。
それに対して、
「それなら、とりあえず一安心といった感じかしらね?」
と言いながら、ユーコへと顔を向ける私。
「そうですね。もっとも、また新たに送り込まれてくる可能性は高そうですが……」
「たしかにそうだな。そこを遮断しねぇと脅威を取り除いたとは言えねぇな」
ユーコの言葉に、蓮司が頷きながらそんな風に言う。
「この場所だけならばー、次元障壁で遮断してしまえばいいだけですがー、根幹をどうにかしないとー、別の場所に転送されるだけな気がしますねー」
なんて事をサラッと言ってくる女神様。
……いやいや、その次元障壁ってのは一体なんなのよ?
いきなりとんでもない単語が出てきた気がするんだけど……?
私はそんな風に思うも、蒼夜たちは既に知っているのか、そこには誰も反応せずに、
「根幹……か。当然と言えば当然だが、結局はそこだよなぁ……」
と、蒼夜が腕を組みながら呟くように口にした。
するとそれに対しても女神様は、
「幾つかの偽装とー、隠蔽が仕組まれているせいでー、ちょーっと時間がかかりますがー、追跡は出来そうですよー」
などと、サラッと返事をしてみせた。
「さ、さすがなのです」
「うん。やっぱりディアーナ様は凄い。うん」
クーさんとロゼが、それぞれそんな風に言う。今度はさすがに驚いたみたいね。
でもまあ、なんというか……ふたりの言う通り、さすがは女神様って感じではあるわよねぇ。
「ちなみに、どのくらいの時間がかかりそうな感じなんだい?」
「うぅーん……そうですねー。今の感じですとー、追跡だけではなくー、解析も必要なのでー、最低でも3日くらいはかかってしまいそうですー」
珠鈴の問いかけに対し、女神様が顎に手を当てながらそう答える。
「3日って、十分早いような……」
「ええ。まったくもってその通りね」
呟くロディに対し、頷きながらそんな風に言うシャル。
というか、私もそれには同意だわ。
「だとしたら、とりあえずそれまでこっちに居るか。新たに送り込まれてくる可能性も十分にあり得る話だし、その時には俺達が対処した方がいいだろうからな」
「ああ。俺もそうするのがいいと思う」
蒼夜に対してロディが頷きながらそんな風に返す。
そして、私はそれに続くようにして、ふと思った事を口にする。
「……というか、女神様がテレポータルで地球まで普通に来られるようになったのなら、例の穴を閉じてしまっていいんじゃないかしらね? テレポータルで戻ればいいわよね?」
「そうですねー。地球のこの地点の座標情報はー、完全に把握したのでー、いつでも行き来可能ですねー」
女神様がそんな風に言ってくる。……うん?
「えっと……。この場所だけなんですか?」
という私の問いかけに、
「他の場所でオーブを使って貰えればー、そこにも行けるようになりますがー、現時点ではここだけですねー」
と返してきた。
「とすると……もっと、街の方でオーブが使える場所を探した方が良い気がするわね」
「だなぁ……。まあ、ウチの近くに使えそうな場所の心当たりがあるから、そこで試してみるとするか」
私の言葉に対し、蒼夜が腕を組みながらそんな風に返事をしてくる。
「でしたら、これまでの事を各方面に詳しく説明しないといけませんし、そろそろ戻りましょうか」
「うん。雨が降りそうな感じだし、そうしよう。うん」
ロゼがユーコの発言に頷きつつ、窓から外を見てそう返す。
たしかに、さっきよりも暗くなってるわね……
「ではー、私は一旦向こうへ戻ってー、向こうで追跡と解析を続けますねー」
と、そんな風に言いながら、テレポータルから自身の領域へと戻っていく女神様。
って、この場じゃなくても追跡と解析って出来るのね……
◆
「それにしても、今回は思ったよりも苦戦させられたわね……」
帰り道、そんな事を口にして肩をすくめてみせるシャル。
それに対してロゼが、
「うん、あの悪魔みたいなのが使った強化オーラがクセモノすぎた。うん」
と、頷きながら返事をする。
「あれも厄介だったですが、私たちの方に現れた憑依型キメラも厄介だったのです」
「まったくよね。なんであんなのがいたのかしら……」
ため息混じりに言葉を紡ぐクーさんに同意しながら、首を傾げる私。
「謎なのです。というか、憑依型は憑依型でも、あんなキメラは初めてみたのです」
「初めて……か。案外、キメラの新型――プロトタイプ的なものを送り込んできてやがるのかもしれねぇな」
クーさんの発言を聞いた蓮司が、腕を組みながらそんな推測を口にする。
それに対して私は、
「なるほど……新型キメラの実験場にもしているってわけね」
と、納得の表情で返す。
「ま、そういうこった」
肩をすくめながらそう言った蓮司に続くようにして、
「ん。もしプロトタイプだとしたら、いずれあの悪魔みたいなのが量産される? それはシャレにならない。うん」
なんていう恐ろしい事を口にするロゼ。
「それは本当にシャレにならないわねぇ……」
やれやれと首を横振り、ため息混じりに言うシャル。
私がそれに頷きつつ、「まったくだわ」と同意した所で、
「ん、そう言えば……あのオーラの力だけど、うん、ソウヤの『戦闘能力が急成長する』異能に似ている気がしない? うん」
と、ロゼがそんな事を言って蒼夜の方を見た。
「言われてみると、たしかにそうだな……。まさか、同種の力……なのか?」
蒼夜は顎に手を当てながらそう呟くように言った後、一呼吸置いてから、
「……あの力に関しては、俺自身の事ながらさっぱり分かってないからなぁ……。もしあいつらを送り込んできている連中が何かを知っているというのなら、どうにかして情報を得たい所だ」
という続きの言葉を紡いだ。
「そうね。たしかに――」
私がそう口にした直後、頬に水滴……いや、雨が当たった。
「――あー……。遂に降り出したわね……」
空を見上げながらそんな風に言う私。
「念の為、全員分の傘は次元鞄に突っ込んできたが、この雲の感じだと、結構降りそうだから急いだ方がいいな」
「はいです。なんとなく風の感じからしても、大雨になりそうなのです」
蒼夜に対して頷きつつ、そう告げてくるクーさん。
ふたりのその言葉に、私たちは自然と足早に……否、そのまま駆け出すのだった。
なんだか妙なサブタイトルになりましたが、他に思いつかなかったもので……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、11月8日(金)の想定です!




