第159話[表] 地球・キメラと呪文
<Side:Akari>
「あの狼のような奴は、私がもう一度倒すとしよう」
と言いながら、珠鈴が背中に結晶のトゲのようなものが生えている、私たち全員をあわせてもなお足りないくらいの巨大な狼へと向かっていく。
それとほぼ同時に、新たなグラップルドラゴンへと向かうシャルとロゼ。
「ま、あいつは俺たちで仕留めるとすっかね。さっきも倒したしな」
蓮司がそんな風に蜂と蜘蛛を組み合わせて、八本足が鋭い刃と化したかのような奴に顔を向けながらいい、チラッと蒼夜の方へと視線を向ける。
それに対して蒼夜は頷きながら、即座にスフィアを飛ばした。
「あのトカゲだかワニだか良く分からないのは私に任せるのです!」
そんな事を言い放ちながら、クーさんが文字通りトカゲだかワニだか良く分からない――半分ワニで半分トカゲなのでそうとしか言いようがない――に向かって変化しながら駆けていく。
残り2体。こっちは残り3人。
するとそこで、
「あの甲虫の巨人は私ひとりでも倒せますので、灯とロディさんは、残りの1体をお願いします」
なんて事を言ってくるユーコ。
……あ、こうなるのね……
いやまあ、なんとなくこうなりそうな気はしてはいたけれど……
などと思いながら、
「ま、最悪抑えるだけならなんとかなると思うわ」
と返し、残りの1体へと顔を向ける私。
「……やっぱりというかなんというか、あの悪魔みたいな見た目の奴……。一番強そうな感じがするわよねぇ……」
改めてそいつの姿を確認した私は、そう口にせずにはいられなかった。
なぜならそいつは、黝い皮膚に側頭部から生えるふたつの曲がった角、天使の翼をドス黒くしたかのような翼、大きく裂けた口とそこにビッシリと生えている尖すぎる歯……と、どこからどう見ても、悪魔そのものだったから。
「うん、倒すのは無理そうね……」
「いきなり諦めるのもどうかとは思うが……厳しそうなのは認めざるを得ないな。ま、とりあえず抑えておけば援軍が来るだろ」
私の言葉に対し、ロディは肩をすくめながらそんな風に言って剣を飛ばす。
「たしかにグラップルドラゴンと狼は瞬殺な気がするわ」
と返しつつ、魔煌弓を悪魔の如きキメラへと向ける私。
するとその直後、
「ヲヲヲヲヲヲヲヲンンンンンッッ!!」
悪魔の如きキメラの咆哮が放たれ、他のキメラたちがオレンジ色のオーラのようなものに包まれ始める。
と、その直後、つい先程グラップルドラゴンを両断したロゼの円月輪が、グラップルドラゴンに直撃。
……したにも関わらず、胴体を少し斬り裂くだけで終わった。
「まさか……今ので強化された?」
「そういう事みたいだな……」
私の呟きに対し、そう返事をしながら剣を悪魔の如きキメラへと突き立てるロディ。
しかし、刺さってはいるが浅い。
「くっ! なんつー硬さだ……っ!」
というロディに続く形で、
「なら、これでっ!」
と言い放って、チャージショットを放つ私。
悪魔の如きキメラは、手をチャージショットの波動の方へと翳すように伸ばし、
「エン……ポー……ディ……オ」
という良く分からない呪文のようなものを発した。
すると次の瞬間、ピンク色が少し混ざった紫色の八角形魔法陣がチャージショットを遮るように出現。
私の放ったチャージショットを受け止め――じゃない!?
魔法陣の中心に向かって吸い込まれていってるわ……
それはつまり……魔法陣に吸収されてるっ!?
う、嘘でしょ!? な、なんなのこいつっ!?
そして、チャージショットを完全に吸収しきった所で、
「アン……デ……ピ……セシ……」
という、再び良く分からない呪文が発せられ――
「っ!? 灯! 横に飛べっ!」
ロディの声が響いた。
っ!?
私は半ば反射的に横へと大きく跳躍する。
と、その直後、強烈な赤黒いビームが私の居た場所を薙ぎ払った。
というか、これって……
「ま、まさかチャージショットを吸収して撃ち返してきたっ!?」
「多分な。あいつの発したあの呪文……あれは、『銀の王』たちが使っている『ディアドコス』という単語と同じ言語――ギリシャ語だ。どうしてその言語が使われているのかは未だにさっぱり分からんがな」
「えっ!? そうなの!?」
「ああ。で、さっきの言葉の意味は、『反撃』だ」
「な、なるほど……。たしかに『反撃』だったわね……。それじゃあ、その前のは『吸収』の意味?」
「俺もそこまで知識があるわけではないんだが……でも、あれはたしか……『障壁』だったはずだ。おそらく魔法陣そのものが、『攻撃を受け止めるバリア』でありながら、『受け止めた攻撃を増幅して撃ち返す』機能も持っているんだろう」
「うわぁ……。なんて厄介な性質なのよ……」
そんな会話をしつつ、悪魔の如きキメラへと視線を向け、次の動きを注視する私とロディ。
しかし、これといって動くような素振りはない。
「こいつ……もしかして、自分からはまったく攻撃する気がない……のか?」
「かもしれないわね。こうやって会話をしているにも関わらず、何も仕掛けて来ないし……。ある意味、さっきの咆哮が『仕掛けて来た』と言えなくもないけれど……」
「もしかしたら……だが、あの『強化』を発生させている間は、反撃は出来るが、自ら動く事は出来ないとかなのかもしれんな。原理とかは分からんが」
「だとしたら、こいつは放置して他の奴に加勢した方がいいかもしれないわね」
「そうだな。もっとも、単にこちらがそう動いて隙を見せるのを待っているだけかもしれないが」
「まあ、そこは試してみればわかるわよね。ロディ、そのまま警戒しといて」
私はロディに対してそう告げると、ユーコが対峙しているキメラ――甲虫巨人に向かって通常の魔法の矢を放った。
通常と言っても、普通のものよりも大幅に強化されているので、かなりの大きさではあるけど。
矢が甲虫巨人に命中し、甲虫巨人が態勢を崩す。
当然、その隙を見逃すユーコではなく、甲虫巨人へと斬撃を叩き込んだ。
と、次の瞬間、
「アリ……スィ……ダ……」
という呪文が響き、黒い靄のようなものを纏った赤熱する鎖がどこからともなく現れ、私へと襲いかかってきた。
「っ!? 仕掛けてきた!?」
隙を見せるのを待っていただけって事……!?
私はそんな事を考えつつも、即座に鎖の動きに合わせてサイドステップ。
一直線に襲ってきたそれを回避する。
直線的な攻撃だし、避けるのはそう難しくもないわね。
そう思った瞬間、「まだだっ!」というロディの声が響く。
そしてその刹那、ガキィン! という甲高い音が真後ろから響いた。
素早く振り向くと、ロディの剣2本が私が回避したばかりの鎖を抑え込んでいるのが目に入る。
回避した程度じゃ駄目ってわけね……。迂闊だったわ……
剣を避けるような動きで再び私の方へと迫る鎖。
「だったら、こうよっ!」
私は魔煌弓からPACブラスターへと得物を切り替え、鎌状の刃を生成。間近まで迫っていた鎖を斬り裂いた。
と、その瞬間、鎖が文字通り粉々になって消し飛ぶ。
どうやら物理的な鎖ではなく、魔法的な鎖っぽいわね……
などと推測したその刹那、パチッという火花の散る音がした。
「っ!?」
私は嫌な予感と共に、PACブラスターを正面でクルクルと風車のように回転させつつ大きくバックステップ。
何が来るか分からないけど、これで少しは盾になるはず……っ!
そう考えたのとほぼ同時に、視界が業火に覆われた。
「あづっ!」
炎がPACブラスターの隙間をすり抜け、腕をかすめた。
一瞬にして上着に火が――って! ま、まずっ!
「こんのおぉっっ!!」
私は怒りと焦りの入り混じった声を発すると共に、その場に広がった業火へ向かってPACブラスターを横薙ぎに振るった。
鎌状の刃が業火を横一文字に引き裂くような軌道を描き、それに合わせるようにして業火が消し飛ぶ。
と同時に、床を転がって上着の火を消す私。
ふ、ふぅ……。どうにかなったわ……
風車によって業火の威力を削いでおいたお陰かしらね……
今回はかなり長くなってしまいましたが、区切れそうな所が他になかったもので……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、10月18日(金)の想定です!




