第149話[表] 地球・ロディの剣
<Side:Akari>
「うーん……。キメラの類とまったく遭遇しないわね」
部屋の扉を開け、中を確認しながらそう呟くと、ロディがそれに対して頷いてくる。
「そうだな。もしかして、こっちにはいないのか?」
「まあ……多数のキメラが潜んでいるようなら、もっと大事になっていると思うです。なので、そこまで多くないと思うです」
そんなクーさんの言葉に、「なるほど、たしかに……」と納得しつつ返す私。
そして、
「とりあえず、この部屋は何もなしっと。次は――」
と言いながら、視線を通路の先へと向ける。
「シャッターが下りてるな……。破壊――いや切断するしかないか」
そうロディが言った通り、通路には行く手を遮る壁があった。
とりあえず、チャージショットでまた穴を開け……ようかと思ったものの、その前にロディが剣を飛ばしてシャッターを斬り裂いた。
そして、
「うん、このくらいの厚さなら剣でも十分斬れるな。よし、先へ進むぞ」
なんて事を口にしつつ、斬り裂かれたシャッターの先へと歩を進めるロディ。
私とクーさんはそれに続いて歩き出ながらシャッターを一瞥し、
「十分斬れると言いましたが、普通の剣ではこのシャッターは斬れないと思うのです……。思ったよりも分厚いのです」
「たしかにそうね……。というかロディのその剣、今まで使っていたものと明らかに違うわよね?」
という問いの言葉をロディへと投げかけた。
するとそれに対してロディは、
「ああ。これは霊幻鋼の剣をベースにギミックを仕込んだものだな。エステルに新しい剣を作ったから試してみてくれと言われてな……」
と、そんな風に返してくる。
「なるほど……。要するにエステルの試作品ってわけね。というか、しれっと霊幻鋼製なのね……」
私は納得しつつも、呆れ気味にそう口にする。
それなりに精製に手間がかかるから、結構いい値段なのよねぇ……霊幻鋼製のものって。
「エステルが言うには、とりあえず採算度外視で一番魔力の『乗り』が良い素材で作ってみたんだとさ。ここから少しずつ量産に耐えうるもの――採算と性能のバランスが取れるものへと変えていくらしい」
「いわゆる、プロトタイプが一番高性能って奴ね……」
ロディに対してそう返しながら肩をすくめてみせる私。
するとそこで
「ちなみに、霊幻鋼を使ってまで仕込んでいるギミックというのは、一体どういう感じのものなのです?」
「ああ、こんな感じだ」
ロディがそう言った瞬間、バチバチッというスパーク音と共に、剣が電撃を纏った。
「蓮司さんが、よくパイロキネシスで刀身に炎を纏わせていたりするですが、それの電撃版といった感じなのです」
「あー、たしかにそうね。というか……魔法にもなかったかしら? こういうの」
クーさんの言葉に頷きつつ、そう口にすると、
「あるですよ。《紫雷の纏刃》や《銀氷の纏衣》といったエンハンス系の魔法がそうなのです。物――無機物に対して一時的に属性の力を与える魔法があるのです。武器に雷属性を付与して、雷を苦手とする魔獣に効率的にダメージを与えたり、服に氷属性を付与して、冷気を防いだりと使い道は色々あるのです。まあ……全体的に効果の持続時間がそこまで長くないのが玉に瑕ではあるですが」
なんて説明をしてくるクーさん。
「まあ、性能的にはそれに近いな。ただし、こいつは――」
と言いながら、剣の切っ先を通路の先へと向けるロディ。
と、その直後、切っ先から電撃が放射された。
「――こうして纏った属性に応じた魔法攻撃も可能だ」
「へぇ、なるほどねぇ……。要するに蒼夜の使っているビットのような事も出来るってわけね」
ロディに対してそんな風に私が言うと、
「ま、そういう事だな。ちなみに『分離』させる事も出来る」
と返事をしつつ、浮かせていた剣をふたつに分割した。
……正確に言うなら、剣の切っ先から柄に向かって光の線が入ったかと思うと、その線に沿うように綺麗に左右に分かたれた感じね。
もっと簡単に言うのなら、割り箸をパキッと割ったような感じかしら。
なんて事を考えていると、
「このまま飛ばしてもいいし、こうやって十字に重ねた状態で回転させながら飛ばしてもいい。無論、同時に別方向へ魔法攻撃する事も出来る」
などと言葉で説明しつつ、実際に剣を動かしてみせるロディ。
「なかなか凄い……というか器用ねぇ……」
「器用というか……俺のサイコキネシスがかなり『進化』したからだな。このくらいなら簡単に出来るようになったって感じだ」
私に対してロディがそう返してきた所で、
「蒼夜さんの謎の成長強化の異能、恐るべし……なのです。ちなみに何本まで浮かせられるようになったです?」
という疑問を口にするクーさん。
最初に出会った頃は5~6本だった気がするけど……
と思っていると、
「15本――全て分離させたら30本――だな」
なんて事を言ってくるロディ。
なるほど、15本……
……って! 3倍くらいになってるわね!?
「15本……! 蒼夜さんが全力で浮かせているビットの数よりも多い気がするのです!」
「まあ、蒼夜と違って俺は『これだけ』に特化しているからな」
ロディは驚くクーさんに対してそう返しつつ、自身の次元鞄から15本の剣を取り出すと、それを実際に宙に浮かせてみせた。
「おおーっ。これはなかなか圧巻なのですっ」
クーさんがそんな感嘆の声を発する。
たしかに15本――いえ、分裂して今は30本になってるわね――が、横一列に並んでいる様は圧巻ねぇ……
そしてまさに、蒼夜の異能、恐るべし……というものね……
この先はしばらく区切れそうな場所がなかった為、一旦ここで区切りました。
その結果、本来の標準的な長さになったのですが……ここの所ずっと大幅に超過する長さばかりだった為か、なんだか短く見えるというオチに……
本当ならこのくらいの長さで1話を収めたいのですが、なかなか……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、9月13日(金)の想定です!




